8話
「レナス隊長。これは……。」
この現状に私は言葉をなくしてしまった。
私たちの部隊は、王都に帰還する途中に大きな爆発音が聞こえたため、援軍としてやって来た。
いざ来てみると炎の壁に遮られており、壁を突き破ると黒焦げになった木々、黒い丸を描いている大地、そして倒れている兵士が5名。
そのうち3名は全身顔の形が分からないほど黒焦げになっていて見るからに死んでいるのが分かる。
「もしかして、ネーデル男爵の部隊ではありませんか?」
部下の一人がつぶやく。
ネーデル男爵…。
たしか、軍上層部家系であり、昔は歴史に残る将軍を輩出して来たと言われてはいたが何世代前から、戦力より商売に力を上げ今では軍上層部の家柄でもありながら豪商家となっていると聞く。
ネーデル男爵の他にもソリン王国の軍上層部の人間はほぼ同じような感じで軍関係にしろ、政治にも強い権力を持っているため、ソリン王国を動かして言うのは軍上層部の人間といっても過言ではない。
「ネーデル男爵の部隊に精霊付きの者はいるのか?」
「いえ…部隊が違うので詳しくは…。しかし、男爵の部隊は傭兵部隊であったのでとても精霊付きの者がいたとは思えません。」
ソリン王国では大きく二つの部隊がある。
一つは王族に仕える、精鋭部隊。
レナスの部隊は王族に仕える精鋭部隊である。
そして、各貴族が保有する部隊。
それは守備部隊であったり攻撃部隊であったり、暗殺部隊があったり、それを保有している貴族によって部隊は違う。
部隊を保有している貴族が自ら隊長となり戦いに赴くか、もっと強い部隊を持っている上級貴族へと部隊をあけ渡すか様々である。
ネーデル男爵は守備部隊を保有していたが、兵士の数が少ないため傭兵として雇っていた。
しかし、それはネーデル男爵だけではなく他の貴族でも行っていることである。
「しかし、この現状はどう見ても精霊付き同士の戦いに見える。」
焼き焦げた木々、燃えて黒くなった地面そして攻撃を受けたであろう黒焦げの死体。
そして、この現状で何よりも驚いたのは、地面がぱっくりと裂け、大木が真っ二つになって倒れている跡。
ソリン軍…いや、ネーデル男爵の軍にこんな力を持った者がいたのであろうか、少なくともミローシュは見たことがない。
「レナス隊長!生存者です!」
「直ぐに救護班を呼べ!」
部下の一言でその場所へと向かう。
倒れている者達は見るからに子供だった。
年齢は16歳ぐらい。
軍に入って、間もないと見える。
二人とも気を失っているだけで、所々軽い傷を負っているが生死にかかわるような酷い傷はないことに安心した。
「生存者を安全な場所まで。他にも負傷している生存者がいるかもしれん。アスト軍がまだいる可能性もある。皆警戒して捜索せよ。」
「はっ!」
部下に指示を出した後、救護班の所まで送られる生存者を見つめた。
「まさか、あいつの言う通りになるとは……。」
ミローシュの呟きは誰も聞こえなった。
王都に帰還中、本当はこの道など通る気にもなかった。
******
任務に向かう前日、あのお方から呼び出しを受けある場所へと向かった。
「ミロ、ごめんね。こんな時間に呼びだして。」
「いえ…。しかし、何用で御座いますが?」
「明日の任務だけど、王都に帰還する時ちょっとルートを変えてほしいんだ。」
「帰還のルートですか…?」
「うん。国王たちの会議を聞いた時、ちょっと気になることがあってね…。念のためかな?」
「……っクロノス様!また、そんな危険な事を!」
「分かっているよ…ミロ。でも、兵士たちに無駄な死はさせたくはないのだよ。それに…」
「それに…?」
「予知夢を見たんだ。強い力を持った者が渦を切る姿を。」
「予知夢ですか…。」
クロノス様の予知夢…。
それは、必ず起こるこれからの現実と言うことになる。
このお方がそのように予言されたのであれば、私はその言葉を信じ進むしかない。
「分かりました。このミローシュ・レナス、クロノス様のお言葉道理に致します。」
「ありがとう。ミロ。」
私は、クロノス様の言葉を誰よりも信じている。あのお方が、ここから出ることが出来ない分、私があのお方の手足となって動くと決めたのだから。
「クロノス様の予言道理となれば、この者達のどちらかが、渦を切るもの。」
渦は螺旋状にずっと回っているもの。
それは消えることなど出来なく永遠に終ることがないもの。
つまり、今を指している。
いつ終わるかわからない戦争。
まるで戦いの渦の様だ。
そしてそれを断ち切るもの。
つまりこの戦争を終わらせる者。
「たしかに、あの力であれば終わらせることが出来かもしれない。」
ミロは割れた大地をみながらそうつぶやく。