7話
ポタッ―――ポタッ―――
赤い血が地へと落ちている音がする。右腕は血が流れ、アスト軍の白い軍服を赤く染めあげている。
「なにが…おこった……」
グレンは今の状況いや、なぜこのような事になったかその経緯さえも分からなかった。
「あいつ等を確実に殺したはずじゃ…」
たしかに撃った。
そして確実に焼け死ぬ。
あいつらが炎の火柱の中、叫ぶことなど出来ず、一瞬にして灰となっている姿を想像するだけで喜びを感じる。
そう思っていた。
『死ィィィネェェェェェ―――!』
『うぁああああぁぁぁぁ――――!』
放った炎の矢が確実にソウ達へと向かっていく。その速さは常人には見えることなど出来ないスピードで。
しかし、奴は剣を振り下げ、グレンが放った矢を切ったのだ。
(あり得ない……)
普通の剣、しかも折れて本来の長さの半分もないようなボロボロの剣が、何故精霊付きの武器を切ることが出来る。
しかもそれだけではなく、大地を割りながら、ものすごい速さでこちらに迫ってきた。
「くっ…」
グレンはとっさに左へと逃げたが、想像以上の速さであったため完全にはよけきれず、右腕から肩の方までざっくりと切ってしまった。
そして、そのまままっすぐ進み大木を真っ二つに切り倒した後、消えてしまった。
「いや……まさか…!」
その大地に残った亀裂の元を見ると、一人の少年が剣を振り下ろした状態のまま立っていることに気がついた。
手には折れた剣を持っていない。
下の大地までまっすぐに伸びている剣。
いや…形が違う。
最初に持っていた剣は、折れたものにしろ、真っ直ぐな剣。
言わば一般的な傭兵が持っている両刃の剣だ。
しかし、今ソウが持っている剣はそれのとは全く形も何もかも違い、剣が少し反りかえった形状をしていて、刃が片刃になっていた。
そしてその刃のまとっているオーラ、考えられるのは一つしかない…。
「精霊付き……だと!」
精霊付きの武器を破壊するには、本人の意識をなくすか、同じ精霊付きの武器で破壊をするしかで方法がない。
つまり今のこの状況で、本人=グレンは右腕を負傷しているだけとなると、精霊付きの武器で破壊されたとしか考えられなかった。
しかも、本気の力を込めた矢を放ったはずなのに、それを破壊しなおかつグレンの右腕を切り裂き、そして大木までもを真っ二つにした。
(信じられるか…!この俺が……あのゴミどもに……傷つけられるなんて…)
屈辱的だ。
今までアスト軍のエリートとして進んでいたはずなのに、敵を圧倒的な力によって殺してきたはずなのに、なんだ、あの力は…。
あんな力、今まで見たことがない。
「……殺す。」
あのガキを生かしてはならない。
いずれアスト軍の脅威になる可能性もあるし、なによりこの俺に傷を負わせたのだ。
許さない…。
「…殺す…すぐ殺す…今殺す…」
グレンは左手を思いっきり握った。
爪が皮膚に食い込み血が出ているが、今はその様なことなど気にもならない。
プライドが砕けたのだ。
戦いも何も知らない只のガキにここまでやられるとは、軍の笑い物になる。
特に、あのフェイに知られることが一番の屈辱である。
「消えろぉぉぉぉぉぉぉぉ―――――!」
左のホルダーから拳銃を取り出し、銃口をソウへと向けて引き金を引く。
バンッ――――
******
ゆっくりと地に倒れていく姿を見ていた。
持っていた武器もソウが倒れて手を離したときに折れた武器へと変わり、グレンはソウを殺したことに喜びを感じていた。
これで、脅威がなくなった。
俺の前に立ちはだかるものなどありはしない。
「降臨せよ!燕の剣!」
突然、炎の壁を突き抜けて一陣の風がグレンに向かってきた。
「ちぃっ!」
グレンがその攻撃をとっさに避けたが、炎の壁は突き抜けられてことによって消えてしまった。
「精霊付き……一陣のミロかっ!」
一陣のミロ…。
その名はアスト軍の中でもよく聞く名だった。
ソリン軍の精鋭隊長をしており、アスト軍の部隊をいくつか壊滅にさせられた事もある。
実際に戦ってみたいとは思うが、今グレンは手負いの状態の上、単独行動中。
相手は、多分近くで戦闘があったことに気付き、援軍として来たと予想できる。
「今の状態じゃあ俺の方が、分が悪い。ひとまず退散としねぇとな。」
グレンは傷を負った右腕を抱え、相手の部隊が現れる前に暗い森へと去って行った。