5話
はぁはぁはぁ・・・
どこへ向かって走っているのか分からない。
敵に会わないように、敵の攻撃を受けないように、ただ人気がない場所へと駆け出すしかなかった。
「イース…大丈夫?」
「俺は平気だ。ソウこそ大丈夫なのか?」
「うん」
こんなに走ったのは初めてだ。
ソウもイースも、足が限界でいつ崩れ落ちてもおかしくはない。
でも、ここで止まるわけにはいかない。
止まってしまったら、敵に見つかってしまう。
「ソウッ!あっちにソリン軍がいる!」
イースがいきなり指を指して叫んだ。
イースが指を指した方向を見ると確かにソリン軍の軍服を着た集団が走っているのか見えた。
「隊長!これ以上は…はぁ……はぁ…」
「馬鹿者!もっと速く走れんのか!」
あれはアスト軍によって襲撃された軍の隊長だ。
護衛であろう兵士を走らせ、自分は馬に乗って逃げている最中であった。
「よいか!敵に遭遇をしても隊長であるわしを守れ!」
「了…了解…。」
ずっと馬と一緒に走らされていたため、呼吸が激しく声が出ないみたいだ。
「やった。これで安心だな。」
ソリン軍が近くにいたことに安心したイースはソウを連れてソリン軍の方に行こうとする。
「なんだ。まだゴミ屑どもがいたんだ。」
「だっ…だれだ!おまえ!」
後ろから追ってきた精霊付きの赤髪の少年とソリン軍の集団が遭遇してしまった。
「あ~あ。おもちゃを追ってきたっていうのに、こんな奴らに会っちゃったよ。」
「なっ…………!」
グレンの言葉にソリン軍の隊長は顔が真っ赤になる。
それはそうだろう。
大の大人が一回り以上若い少年にバカにされたわけだ。
怒らない方がおかしい。
「この餓鬼!このわしを誰だと思っている。わしはソリン王国のネーデル男爵であるぞ!」
ソリン軍隊長=ネーデル男爵の前にソリン軍兵士達が立ちはだかる。
「はっ?俺とやろうって」
「やつを殺してしまえ!」
「アスト軍!成敗----------!」
兵士の一人が上段から切り込んできた。
しかし、グレンはそれをたやすく身をかわし、炎の矢を相手の喉に突きつける。
「………っ…。」
「一人目。」
「ぎゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁっっ――――――――――」
放たれた矢は兵士の喉に刺さり、炎が空高く燃え上がる。
兵士の叫び声が響く。
耳が痛い。
誰も彼を助けに行くことができない。
いや…もう手遅れであろう。
人が生きたまま黒焦げになるまで焼かれて倒れていく姿にソウたちは目をつぶってしまう。
「こんなガキが…精霊付きだったとは…。」
「はぁ?ゴミ屑の分際で何しゃべっているんだよ。さっさとゴミ屑らしく死んでくれない?」
グレンが第二撃のために、弓を構えた。
狙いはソリン軍集団。
「ひぃ~。おっおい!わしを守れ!」
「死ね。」
「やめろーーーー!」
「イースッ!」
バンッッ――――
銃声が鳴った。
矢を放とうとしたグレンも、殺されそうになっていたソリン軍も、何が起きたのかわからない驚いた顔をしている。
―--ポタッ―――――
グレンは頬に何か伝っているのを感じた。
水?涙?いや違う…。
血だ…。
頬から血が出ている。
「や……やった…。」
グレンは銃声がした方に顔を向けると、林の中を追いかけていたおもちゃの一人がいることに気が付く。
さらにその後ろには、もう一人のおもちゃがいた。
前にいたおもちゃは、手に銃を持っていて、さっきの銃声はやつからだということが分かった。
「き…きさま…。この俺に傷をつけやがって…」
「えっ…………。」
グレンの空気が変わった。
体中から赤いオーラが立ち上り、まるでグレン自身が燃えているようであった。
「嬲り殺してやるっ!」
弓矢を上に向けて、勢いよく矢を放った。
放たれた矢は上へと上がり無数に飛散して地上へと落下していく。
「よけろ――――!」
「ひゃあぁぁぁぁ―――――!」
降り注ぐ炎の矢にみんな逃げ惑い、草木が激しく燃えて炎の壁となってソウ達を取り囲む。
「あっ―――――はっはっはっはっはっ!これでお前らは逃げることなどできない!このグレン様に殺されることを光栄と思え!」