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蒼き星の守護者 ~星を救う英雄と英雄を殺す少女の物語~  作者: りの
ウィル編 第三章 ~侵略者~
99/100

—09— ウィルの過去 前編

 武術大会を明日に控えたシャムロックの面々も宿に入り、皆で卓を囲み食事を楽しみながら話に花を咲かせていた。卓の上には宿の料理人が腕を振るった色とりどりの海幸や山幸がずらりと並んでおり、良い香りの湯気に誘われたメルトとイゾルテが頬張っていた。


「ゾルちゃん、ちゃんと野菜も食べなきゃ駄目ですの~」


「嬢ちゃん、肉食の火竜にそれは無理だろ…」


クラウとフェルナはいつも依頼を終えると自宅に帰ってしまうため、加入したばかりのデリスやイゾルテも含めて皆でゆっくりと晩餐を楽しむのはこれが初めてだった。久しぶりの大人数での食事にクラウとフェルナも料理と話を肴に酒を楽しんでいた。


「ふふっ、ちょっと前までクラウとラスとメルトと4人だけだったのに一気に賑やかになったわね」


「うん」


 ラスは嬉しそうにメルトとイゾルテが料理を取り合っている様子を眺めていた。


「俺達が来たときは本当にラスとメルトの二人だけだったもんな」


「そうだね」


 手元の注がれた水を懐かしそうに見つめる。両手を添えた透明な容器に自分の顔が写って見える。


「ほーんとに最初は大変だったよなぁ。ちょうど軍をやめて仕事探してギルドに入ってみたら何もわからない小さな女の子が二人」


「し、しょうがないでしょ!それまで何もやったことなかったんだから!嫌だったら他のところにでも行けばよかったじゃない!」


 ぷくっと頬を膨らませるラス。


「放っておけないだろ?建物の前で泣いてる小さいお前達を見たらよ」


「なっつかしーわねー!女の子の扱いに長けたあんたがなかなか泣き止まないラス達に珍しく狼狽えてたっけ?」


 フェルナは頬杖をつき、にやけながら逆の手に持った杯を振りかららんっと氷が奏でる音で遊んだ。


 出会った当時を振り返りラスとクラウとフェルナは笑い合う。


「皆様は長い付き合いなんですのね」


 横で聞いていたデリスが微笑みながらクラウ達を見た。


「そりゃーもうな!最初なんてまだラスがおねしょをするくらい小さかったもんなー」


「な!な!何を言ってるのよ!おねしょなんてする訳無いでしょ!!」


「あれあれー?私達にバレないようにこっそりと朝方メルトと布団入れ替えてたのは誰かなー?」


「ちょっとフェルナ!」


「お姉ちゃんそんなことしてたの!?さいてー!」


「ぎょぎょふー!」


 メルトとイゾルテが頬いっぱいに食べ物を詰め込みながら白い目を向けてくる。ウィルとデリスは必死に笑いを堪えていた。


「ウィルもデリスも違うからね!?」


 ラスは必死に否定したが笑いを堪えられなかったウィルの両頬を常って唸っていた。

その後もしばらくラス達の思い出話に花が咲き、気が付けば卓の上の料理も半分ほど無くなっていた。そしてイゾルテがまだ残っていた骨付き肉にかぶりつこうとしたところで不意にデリスがウィルに話を振った。


「ところで、私ウィル様の小さい頃の話も聞きたいですの!」


「それ私も聞きたい!」


「確かにあんまり聞いたことねぇな」


 一斉に視線がウィルへと集まる。


「う~ん…そうは言っても何も覚えてないんだよな~」


「覚えてない?」


「記憶無くして倒れてたところを先生に拾われたんだ」


「先生ってお前に剣術教えた人か?」


 ウィルは黙って頷く。そして昔のことを語り始めた。


「目が覚めたら俺は寝床の上にいました。周囲を見渡しても見覚えのない壁、天井、物。横の部屋から聞こえる料理の支度の音。…それまで何をしていたか、自分が誰なのかも何も思い出せずに。ただ、ずっと、とても長い夢を見ていた気がして。ただ今までのことを思い出そうとそのまま頭を抱えてじっとしていました。ただ、俺が起きたのに気が付いたのか料理の音が止み、こっちに歩いてくる足音がしました」


 メルトもイゾルテも食べる手を止めて黙ってウィルの話に聞き入る。


「その人は戸を開けてこっちを見ると優しく微笑んでそっと頭を撫でてくれました。その時何をしゃべっていたかは理解できませんでしたが」


 困ったような笑顔を浮かべて誤魔化すように水を口にする。


「そこからナデシコさん…先生と、その娘であるアヤメとの三人の生活が始まりました。言葉の通じない赤の他人の俺に二人はとても良くしてくれました。家事を手伝ったり剣の稽古をしたり、一緒に生活しているうちに徐々に二人の言葉もわかるようになってきて…記憶はなくしたままでしたがとても幸せな日々でした」


「アヤメってもしかしてさっきいた女の子?」


 ラスが恐る恐る聞いた。ウィルは少しばかり悲しそうに笑って頷く。


「今はあんな感じだけど昔は仲良かったんだよ。いっつも俺の後を付いてきたっけな。」


 デリスが優しい目で見つめる。ウィルもデリスの視線に気づくと微笑み返した。


「初めのうちはずっと先生から叩き込まれてきたアヤメに剣術で全然敵わなくて…いつも無理やり言うこと聞かされてたっけな」


 苦笑いするウィルと意外だという顔をする一同。


「星の守護者って聞いたことあるかな?」


「…おい」


 問いかけた内容にわからない顔をする一同と、いいのか?と目配せしてくるクラウ。


「いいんです。ラス達には世話になりっぱなしだし、それにこの先迷惑をかけてしまうこともあると思うので全部話そうと思います」


 目を閉じて肺に空気を含みゆっくりと吐き出すと、ウィルは全員の目を順に見ながら話を再開した。


「星の守護者は、この蒼の星…ロスメルタを護る存在です。それは別の星から来た侵略者から護ること役割もあれば、星に害をなすこの星の生命を駆逐し星の秩序を維持するという役割もある。守護者の力は親から子へ受け疲れていく。先生とアヤメはこの星の守護者でした。守護者はこの星の一般人とは異なり守護者の闘気を体内に宿し戦う。数多の敵にもたった1人で立ち向かうことが多いためその力は絶大。星の守護者でもない俺がその親子の修行に付いていくのは苦痛でした」






********************

「いてっ!!」


「また私の勝ちだねっ!」


 木刀を持ってしりもちを付いた小さい男の子の横で同じくらいの背格好の女の子が両手をあげて喜んでいた。


「ほんっとーにウィルってひ弱だね。男の子なんだから私から一本くらい取ってみなよ」


「仕方ねぇだろ!アヤメみたいに闘気も気も使えないんだから!」


「そんなの使えないウィルが悪いんだよーっ」


 私は悪くないもんっっと両腕を下にぴんっと伸ばして拳を握りしめて訴えた。


「先生~!剣術なんて俺に向いてないよ~!そんなのアヤメみたいな力馬鹿に任せておけばいいじゃん!」


「誰が力馬鹿だ!」


「あらあら」


 ナデシコは口元に手を当てて笑う。薄く緑かがった髪が蒼く染め上げられた羽織と一緒に小刻みに上下に揺れる。


「…そろそろいい頃合かしらね」


「…先生?」


 ナデシコは座り込んだままのウィルの前まで行くと彼の目線に合わせるように座り込んだ。


「ウィル。あなたには才能があります。それは、私にもアヤメにも、そしてこの星に住む人の誰にもない、あなただけの特別な力」


「そんなものなんてないよ…体も丈夫じゃないし先生やアヤメみたいに強い力なんてないし」


「その力はあなたの内側にあるものじゃないわ。その力はこの星の力。この星の生命が生きていくために必要な星の命の源であり”マナ”と呼ばれるもの。ウィル、あなたの足元にいる小さな虫も、この周りにある樹々も、皆マナを分けてもらって生きているの。草や光から力をもらうだけじゃなく」


「生きていくために必要なのに誰にもない力なの?」


「…ええ。この星の人々は遠い昔に大きな過ちを犯した。その過ちに心を痛めた星神様は人々からマナを取り上げてしまったの。二度と使えないように」


「そしたら俺だって人だもん。使えないじゃん」


 期待させておいてなんだよ、とウィルが拗ねて口を尖らす。しかしナデシコは優しく首を横に振った。


「いいえ、あなたはマナが使えます。この星の創造神であるロスメルタ様から加護を受けたあなたなら。ウィル。両手を前に出して」


 よくわからず、ウィルは言われるがまま掌を上にして両手を前に出した。


「マナはその力を使ってあらゆる現象を起こすことができるわ。…ウィル、火を想像してみなさい。薪をぱちぱちと燃やす火。それがあなたの掌にある光景を。初めは小さな火だけれどそれが次第に大きくなっていく」


 ウィルはナデシコに言われる通りやってみるが火は一向に出る様子が無い。アヤメも横から心配そうに覗き込んでいる。


「なんにも起きないねー...」


「全然火なんて出てこない...」


「ふふ、今まで自分ができないと思っていたことを想像するのも難しいから仕方ないわね。ウィル、ちょっとこっちを向いてくれるかしら?」


 ウィルはナデシコの言う通りに彼女の方を見た。ナデシコは右手の人差し指をウィルの顔の前に出し、ゆっくりと近づけて彼のおでこに優しくふれた。


「目を閉じて」


 言われるがままに目を閉じる。


「ゆっくり息を吸って...。吐いて...。そう。ゆっくり...」


 ナデシコの言う通りにゆっくりと呼吸を繰り返す。


「そのまま想像して...あなたの掌の上に小さな火が灯る光景を」


 その言葉に意識を向け、ただひたすら想像する。小さな小さな種火が掌に生まれる様子を。確かにそこには何もなかった。しかし、やがてとても小さな赤い光がウィルの掌に現れた。


「そうです。そのまま。その火は次第に大きくなっていく。周囲の空気やマナを吸い込んで」


 すると小さかった赤い光が徐々に大きくなり、掌2つ分の炎になった。その様子をナデシコは微笑み、アヤメは目と口をめいっぱい広げて眺めていた。その熱さに驚いたウィルが目を開けるとその炎は一気に弱まり消えた。


「...」


「ふふ、できたわね」


「すっごーい!」


 ウィルは信じられないといった表情で先程まで炎があった掌を見つめていた。今はもう消えてしまったがまだ熱の感覚が残っていた。


「初めは慣れなくて苦労するでしょうけど、きっとウィルならマナを使いこなせるわ。あなたはこの蒼き星の”希望”...。アヤメと一緒に星を護ってあげて」


「母様、ウィルが頑張らなくても大丈夫だよー!星もウィルも母様も皆私が護るのー!」


「はいはい。まずは六界をまともに使えるようになってからね」

********************







「へぇ~、そんなことがねぇ~」


「ぎょふ~♪」


 ウィルの話を聞いたフェルナ達はそれぞれの反応をした。イゾルテはウィルが自分と同様にマナを使えるが嬉しかったのか机の上で跳びはねていた。


「それから俺はマナを扱う鍛錬を始め、先生が集めてくれた古文書でかつて古代人が行使した古代魔法を学び、使えるようになりました」


「ね、ね!?もしかしてウィル君ってその古代人の生き残りとかなの!?」


 メルトが前のめりになって聞いた。


「...わからない。でも先生は古代人は絶滅したって言ってた。俺のことは冗談か本当かわからないけど空から来た子だと言ってたっけな」


「空から...?」


 ラスが首を傾げる。ただ、ウィル自身もそれ以上は何もわからないようだった。


「でもさぁ、昼間のあの子、アヤメって言ったっけ?今の話聞いている限りじゃ仲良さそうじゃない。なんであんな感じになってんの?」


 フェルナが聞き辛かったことを躊躇なく聞いたためその場にいる全員の方がびくっと震えた。


「そうですね。それもこの際お話しようと思います。デリスさんにもご心配いただいているようですし。あれはそれからしばらく経過したある日の事でした」


 ウィルは意を決してアヤメとの間に起きたことを語り始めた。


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イマテカ倉庫の蒼き星の守護者のキャラクター紹介ページ(キャラ絵有り)です
りの@イマテカ
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