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蒼き星の守護者 ~星を救う英雄と英雄を殺す少女の物語~  作者: りの
アヤメ編 第二章 ~戦いに生きる者達~
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—24— 傷跡

「ってて!ちったぁ優しくできねぇのかよ!」


 村長の家にカデルの大声が響き渡る。かでるはウィルとの戦闘で折られた腕をシンクレアに包帯で固定してもらっている最中だった。


「それだけ元気があれば大丈夫じゃろ。ギルドに戻ってからちゃんとした医師に見てもら、え」


 手当ては終わった、と固定した腕を叩くとカデルがまた大声を上げた。シンクレアはそんなカデルを無視してずっと窓の外を見ているアヤメへと歩み寄っていった。治療のために袖から抜いて左腕と肩を露わにしていたアヤメは窓の淵に手を掛けてぼんやりと外を眺めていた。左肩の切傷に当てられた薬液が染み込んだ布を固定するために巻かれた包帯が痛々しい。


「傷、まだ痛むか?」


「…」


 シンクレアの問いかけに応えず、アヤメは窓の外をしばらく見続けた。シンクレアの瞳には、かすかに窓越しに反射する悲しげな表情が映り込む。シンクレアも何かするわけでなくただじっとしていると、目を瞑るようにしてしばらく考えるようにした後ゆっくりとアヤメが振り返った。


「まだ痛むがもう大丈夫だ」


「そうか…」


 シンクレアはいろいろと聞きたいことがあったが、話しづらそうな雰囲気を察知してか詮索はしないようにした。


「っにしてもさー、さっきの本当に危なかったよねー…。お兄ちゃんは置いといてアヤメさんでも手も足も出ないなんて」


「くそリノン、何て言った」


 リノンの発言にまた兄妹がいつものように言い争いを始める。普段なら鬱陶しいはずの騒音が、静けさに支配された空間響いて気が紛れたためシンクレアは敢えてそのままにした。


「…ねぇ、アヤメちゃん」


 リノン達の騒ぎ声が絶えない中、デリスはそっとアヤメに話しかけた。


「その…アヤメちゃんとウィル様って…お知り合い…なんですの?」


「……そうだ」


 アヤメはデリスの言葉を肯定した。デリスは急かす訳ではなくただじっとアヤメの次の言葉を待つ。


「…奴は仇なんだ。私の母様の」


「…そう…なんですの」


 アヤメもデリスも言葉を続けるわけではなく、周囲の騒音が二人の間を通り抜けていく。


「あ、あのね!アヤメちゃん。ウィル様、瀕死のゾルちゃんと私を助けてくれたんですの。とっても良い人だったんですの」


「……」


「ほら、ベスティアにやられたひどいゾルちゃんの傷もこの通りなんですの」


 デリスは精一杯の笑顔を浮かべながらイゾルテの両脇を持って持ち上げた。イゾルテも羽と尻尾を振ってアヤメに嬉しさを伝えた。


「……」


「私、アヤメちゃんとウィル様が知り合いだなんて知らなかったですの。でもでも!ウィル様はそんなに悪い人に見えなかったですの!」


「デリス…」


「私、アヤメちゃんの過去も全然知らないし、ウィル様は知り合ったばかりですけど、でも絶対何かの間違いだと思いますの」


「デリス。奴は確かにお前とイゾルテを助けたのかもしれない。だけど奴が母の仇だというのは間違いじゃないんだ。奴は自分で私の母を殺したと、そう言ったんだ」


 そう言うとアヤメは怪我をしていない右腕で右の襟をずらして胸元をはだけさせた。


「…っ」


 デリスは初めて見るアヤメの胸元にある古傷に両手を口元に当てて息を飲んだ。


「そして奴は私を斬り捨てて母様の刀と共に私の前から姿を消した」


 悲しさと怒りが混じったアヤメの表情と胸元の傷跡を見たデリスはそれ以上何も言わなかった。


「私は奴に斬られ、冷たい雨に打たれて意識を失った後にトレアサとロイドに拾われた」


「あのアヤメちゃんが運ばれてきた日にそんなことがあったんですの…」


「あの日、私は全ての家族と心を失った」

 

 デリスはアヤメを哀れみつつも複雑な表情を浮かべていた。


「だが私は幸運だった。トレアサやロイド、それにデリス達、沢山の新しい仲間に囲まれながらここまで戻ってくることができた」


 少しだけ微笑みながらアヤメがデリスに語りかける。


「だけど私はなんとしても奴を殺さなければならない。母様との約束を守るためにも。私の役目を果たすためにも」


 そう言うアヤメの表情は既に険しい表情に戻っていた。


「さて、そろそろ落ち着いてきたしもう今日一日休んで明日になったらドロヘダへ戻ろうか」


 そういうとアヤメは両腕を袖に通して服を正すと立ち上がり、リノンとカデルの仲裁に入った。デリスは複雑な表情をしながらその光景を眺めていた。


 その夜、デリスとイゾルテも合流してアガートラムの団員が全員揃ったところで村人たちによる感謝の宴が開かれた。ベスティアとの闘い、そしてウィルとの遭遇。辛く厳しい出来事も多かった今回の依頼だったが村人たちの笑顔と感謝の意に和まされながらアヤメ達は帰路に着くのだった。

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イマテカ倉庫の蒼き星の守護者のキャラクター紹介ページ(キャラ絵有り)です
りの@イマテカ
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