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蒼き星の守護者 ~星を救う英雄と英雄を殺す少女の物語~  作者: りの
アヤメ編 第二章 ~戦いに生きる者達~
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—11— 獣王族 ベスティア

「そうじゃな。まずは今回討伐を頼みたい獣王族について話すとするかの。――実は獣王族というのは特定の種の獣を指す言葉ではない。このグラス大陸に長らく住んできた人族は自分達以外の種族で脅威となる力を持つ種族のことを竜族、獣王族、天鳥族などとその外見特徴に合わせて呼んできた。高い知恵と鋼鉄にも勝る強度の鱗と翼を持つ竜族、強靭な肉体と鋭利な爪や牙で大地を駆け獲物を切り裂く獣王族、そして天を高速に翔けることができる巨大な翼を持つ天鳥族、これらは昔からしばしば人族と争い、その生活を脅かしてきた。そこのお嬢ちゃんは竜族の子供を連れておるようじゃがの」


「ゾルじゃんはそんな悪い子じゃないですの!」


「ぎょふっ」


 竜族であるイゾルテが同じ人族の敵であるかのように言われた気がしたデリスはイゾルテを抱き寄せてヴィダルに抗議の眼差しを向けた。


「そうじゃの、その子は無害そうじゃて。今回村を襲った獣王族もこの子のようにわかりあえるような存在であったらこんなことにならなかったんだがのう」


 そう告げながら視線をイゾルテから床へと落とすヴィダルの姿は悲しみに包まれていた。


「辛いところすまないが…もしよろしければ続けてくれないか」


「おお、そうじゃったな。つまり獣王族というのは主に大地を拠点とする力を持った種族の総称であって、個の種族の名前ではないのじゃ。今回村を襲ったのは正式にはベスティアと呼ばれる種族じゃ」


「ベスティア…聞いたことがないな」


「そうじゃの。世の人は獣王族という言葉を噂話程度に知っているぐらいじゃからのう。ただ、世の人が想像する獣王族の姿はベスティアそのものなのじゃ」


「全身を覆う鋼のように硬く盛り上がった肉体に金色の立髪、獲物を簡単に引き裂く鋭利な爪を持ったその風貌は見ただけで恐怖のあまり死に至らしめると言われている…か?」


 ここへ来る前にギルドで説明したことと全く同じ言葉をカデルが繰り返した。


「そうじゃ。ベスティアは他の獣王族と比べてあまりにも強すぎた。利便を求めてその生活圏を広げる人族の前に度々と立ちはだかり、その高い能力で多くの人を殺めてきた。故に、人々が抱いている獣王族の姿とはベスティアそのものなのじゃよ」


「はぇ~」


「そんなベスティアもかつての人族との争いに敗れ、こういった山奥でひっそりと暮らすようになった。ベスティアも人も今では人と関わろうとしなくなったのか、余程のことがない限りは人を殺めることは愚か接触することもしてこなかった」


「でも、それだと人に会うのを避けてたんですわよね?どうして村人を襲ったんですの?」


「それがわからんのじゃよ。宿屋の親子も、他に殺された2人の村人も皆山へ狩りや伐採しに行ったところをやられておった。幸いこの村にはまだ来ていないがの。じゃが皆ベスティアを恐れて外に出ることはなくなった」


「それであんなに静かだったってわけか」


 カデルの言葉にヴィダルは黙って頷ずく。


「もう村の皆もずっと怯え、疲れきっておる。しばらくは薪も食料も備蓄はあるがこのままではいずれそれらも無くなってしまう。…アガートラムの方々、どうかこの村を救ってくださらんか。頼む…」


 ヴィダルは椅子に座ったまま深々と頭を下げた。するとシンクレアは椅子から立ち上がってヴィダルに歩み寄るとその肩に優しく手を乗せた。


「ヴィダル殿。顔を上げてくだされ。アガートラムの名にかけてベスティアとやらは我らが討伐してみせようぞ」


 先程のヴィダルの話を聞いて一部ベスティアの強さに不安を抱く者もいたが、目の前を老人を安心させようと皆精一杯の笑みを浮かべ力強く頷いた。


「……心から感謝する」


 それまで村人のために気丈に振舞っていたヴィダルから悲しみを露にした表情と大粒の涙が零れた。リノンはそっと手巾を取り出してヴィダルに渡しつつ落ち着くまでその背中を撫でていた。


そして少し経ってヴィダルが落ち着いたときを見計らい、シンクレアが全体に対して指示を出し始めた。


「本格的に行動するのは明日じゃな。今日はできる限りベスティアの情報を集めよう。カデルは俊敏さを活かして奴らの数と動向を探ってくれ。アヤメは何かあったときにカデルの援護を頼む」


「わかった」


 返事をしたカデルとは対照的にアヤメは刀に手を当てて黙って頷く。


「デリス、イゾルテ、リノンは村の人に食事と物資を配りつつ話をして安心させてやってくれ。皆不安だろうからな」


「りょーかいですの!」


「ぎょふっ」


「特にリノンはいくつか緊急時の護身に使えそうなオーパーツを見繕って村人に貸してやるのじゃ。法律に違反するが仕方ない。何かあれば余が責任を取ろう」


「承知ですっ!」


「私とマホンは念のため村に結界を張った後にカデル、アヤメと合流し周辺に罠を仕掛ける」


「シンクレア様、承知しました」


 魔法部隊を率いているだけあってか慣れたシンクレアが皆に次々と指示を出していく。そして指示を受けた者達はすぐに行動に移れるように準備していった。


「では各自行動に移れ!終わったものはまたこの場所へ集合するのじゃ」


 そして明日のベスティア討伐のために一同は散開し行動に移った。

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イマテカ倉庫の蒼き星の守護者のキャラクター紹介ページ(キャラ絵有り)です
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