—06— 試し撃ち
「じゃじゃーん!」
リノンが床に先程オーパーツ研究所で買ってきたオーパーツを広げた。アガートラムに戻ってきたアヤメ達はギルド内に設けられている訓練場に来ていた。ここで買ってきたオーパーツについて試し撃ちをしながら説明するようだ。
「またこんなに買ってきやがって。もう家に置く場所ねぇだろうが」
毎回大量のオーパーツを購入してくるリノンに、合流したカデルが突っかかった。
「まあまあカデルも落ち着いてください。こうやってリノンちゃんがオーパーツの使い方、対策を考えてくれてるから私達は少ない被害で済んでいるんですよ?」
横にいた青年がカデルをそっと叱った。
「えへへ、マホンさんありがとう!」
マホンと呼ばれた青年はカデルよりも背が高く、風に靡く度に空いた天井から差し込む陽の光をきらきらと跳ね返す銀色の髪が特徴的で四角い縁の眼鏡をかけていた。先ほどの声色とその風貌から優しそうな印象を周囲に与える。シンクレアの率いる魔法部隊に所属している彼はカデルやデリスとは異なりローブと呼ばれる一見動きづらそうな白地に赤色の装飾が施された服を来ていた。ローブは体内の気を変換した擬似的なマナを蓄積する効果があり、魔法を主力とする傭兵はその多くがローブを身につけていた。
「お兄ちゃん、ごめんね?でもいろいろ役に立つと思うからちょっと見て欲しいんだ!」
「お、おう・・・」
普段とはどこか違った素直すぎるリノンの印象にカデルは若干戸惑っていた。
「へー、これ全部リノンちゃんが買ってきたんだ、すごいね!」
「はい、興味があったのもそうなんですけどちょっとインファタイルが使っていたオーパーツを調べてみようと思いまして!」
「いつもそうやってオーパーツを調べてくれてるんだね、ありがとう」
屈んでリノンに目線を合わせてお礼を言うとマホンはリノンの頭を優しく撫でた。
「えへへっ・・・」
褒めてもらったことが嬉しかったのかリノンはとても照れくさそうに笑った。
「っち、お前はいつもリノンを甘やかし過ぎなんだよ」
「貴方が厳しすぎるんですよ。リノンちゃんを見習ってもう少し成長してください」
「ぐっ」
いつもは文句を言われたらすぐに言い返すカデルだが、マホンを相手にするのは苦手なのか押し黙っておとなしくしていた。
「それじゃあリノン、さっき買ってきたオーパーツの説明をしてくれるか?」
「わくわく、ですの!」
「承知しました!ではでは、まずこちらですね!よっこいしょっと」
リノンは並べられていたオーパーツのうち一番左に並んでいた筒状のものを重たそうに持ち上げた。筒はいわゆる大砲の筒と同じような形状をしており、片側にだけ穴が空いていて上部にある開閉できる穴から装填した弾を打ち出す仕組みのようだった。
「これは小光輪といって、この前の戦争でやたらとインファタイルが撃ってきたオーパーツの小型版だそうです」
「ああ、あの光の砲撃ですか。ずっと障壁を張って防いでいましたが、いつ破られるかとひやひやしていましたよ」
「えーっと、使い方はですね、ここに同じオーパーツの弾を入れて・・・」
「おいおい、ここで撃つ気かよ!」
「大丈夫だって!カヤセさんも小型だからそこまで威力は大きくないって言ってたもん!」
「本当かよ?」
「よしっ、これで準備完了!じゃあ一応安全の為に離れててください。じゃあ目標はですねー・・・」
リノンは持ってきた袋からごそごそと小さな木製の的を取り出してカデルに持たせて頭上に構えさせた。そして少し距離を取るとその的に向かって小光輪を構えた。
「おい、ふざけんな!外したら俺に当たるだろうが!」
「大丈夫だよー!それともお兄ちゃんびびってるの?」
「あっ?俺がお前ごときにびびるわけねーだろうが!外しても避けてやらぁ!」
「えっへっへ、じゃあ大丈夫だね!それじゃあ行くよー!せーのっ、あ、おっとっと」
引き金を引いた発射の瞬間リノンは体制を崩して射線が天井の方を向いた。そしてその直後・・・
――ガボンッ――
小光輪から発射された光の弾が轟音をたてながら天井の一部を貫通していった。
「「は、ははっ・・・」」
金属や煉瓦で厚く作られた壁を簡単に貫通するその威力にその場にいた一同は乾いた笑いしか出なかった。リノンはあちゃーという表情で崩れた天井の一部を眺めていた。そしてカデルの方へそーっと向き直った。
「てへっ♪」
「”てへっ♪”じゃねーだろうが!俺の方へ撃ってたら間違いなく死んでたぞ!」
「確かにこの前のものに比べて劣っているとはいえ、とてつもない威力ですね・・・」
「わ、わたしちょっと目眩がしてきましたの・・・」
「こんなものが私に向かって撃たれていたのか・・・光の弾だけは斬り落さずに躱していてよかった・・・」
まだ一個目の説明だというのに、リノン以外の全員は今の光景でとても疲労しているようだった。
「で、では気を取り直して・・・続いてはこちら!」
場の空気が気まずかったのかリノンは急いで次のオーパーツの説明を始めた。次の彼女が手にとったのは手のひらに乗る程度の小さな玉だった。
「これは百式って言って、使用者が念じた通りの武器の形状に変化するそうです」
「へー、ちょっと貸してですの!」
そう言ってデリスはリノンから玉を貸してもらった。そしてデリスが念じるとその玉は瞬く間に形状を変化させ、彼女が愛用している鞭のようなものになった。
「本当だ!面白いですの!」
カデルが持つと拳と両足を覆うような形状に、アヤメが持つと刀のような形状に、マホンが持つと杖のような形状へと変わった。
「思ったとおりの形状へと変化させるにはそれなりの訓練が必要みたいですが、想像するのが簡単なので最初は大体普段使っている武器の形状になるみたいです」
「確かにこれならば複数の武器を携帯する必要もないし状況に応じて変えられるから便利だな」
「ええ、そうですね。ただ私の場合はマナを蓄積するための特別な機能が必要ですので形状だけ杖のようにしても使うのは厳しそうですね」
「このオーパーツは便利なので私も欲しいですわね」
「おー、これを機会にデリスさんもオーパーツにのめり込みましょう!ただ使うときはちゃんと技能検定を受けてくださいね!今回のように非戦闘目的なら相応のディガーが同席することで使用は認められますが、戦闘目的では資格が必要になりますので!」
「えー、勉強嫌ですのー・・・」
「まあお前には無理だな。物覚え悪いし」
「カデル、ひどいですの!」
「ま、まあ人には向き不向きがあるのでデリスもこれについては縁が無かったということで・・・」
「マホンも何げにひどいこと言わないで欲しいですの・・・」
「え、えーと、じゃあ気を取り直して次!」
今度のオーパーツはなんとも地味な平たい円形のオーパーツだった。
「こちらは起雷陣というそうです。これは設置発動型のオーパーツで、地面に埋められたこれを踏むことでオーパーツめがけて空から雷が落ちる仕組みになっているようです」
「確かインファタイルの奴らと戦っていた傭兵の部隊で雷の直撃をまともに食らっていた奴らがいたが、オーパーツだったのか」
「私も地面から少し出ていたこれみたいなもの見かけましたの。怪しかったので避けていきましたが。マホンやアヤメちゃんは大丈夫でしたの?」
「私は後方の魔法部隊でしたので」
「ああ、気にせず踏んだら雷が落ちてきたので避けた」
「雷を避けたのですか!?貴女の話を聞くといつも常識の定義を疑いたくなります・・・」
「さっすがアヤメさん!かっこいい!」
何故か途中から脱線して起雷陣の話ではなく常人離れしたアヤメの身体能力の話になっていた。
「じゃあこの調子でどんどんいっちゃいましょう!次はー・・・」
一同はその後リノンの買ってきたオーパーツの説明を一通り聞いた。説明を始めたのが昼過ぎだったこともあるが、説明を終える頃には訓練場に差し込む光が綺麗な茜色に染まっていた。