—02— 北の戦場(2)
「トレアサ様!緊急事態です!」
「何があった?」
「アヤメ様がお一人で敵陣の中へと突撃してしまいました!」
「またアヤメか・・・」
トレアサは一気に疲労したかのようにうな垂れ、両目を篭手に包まれた手で覆った。
「わっはっはっ!我がギルドの若き獅子は勇猛果敢ですな!」
すぐ脇にいたロイドが豪快に笑う。
「猪の間違いだろう?」
ただでさえインファタイル軍の多種多様なオーパーツの対策に精神を使っているのにこれ以上の悩み事は勘弁して欲しいとロイドに愚痴を言う。敵陣に単独で突っ込んでいってしまった問題児をどうするかと悩んでいたところに一人の青年がやってきた。
「トレアサ、何かあったのか?」
ロイドよりも遥かに若いその青年はトレアサを呼び捨てにしたが、彼女は特に気にすることもなく青年の方へ振り返った。
「ああ、カデルか」
カデルと呼ばれたその青年は面倒臭そうに白銀の髪をぐしゃぐしゃと掻きながらトレアサの言葉を待っている。カデルの服装は他の傭兵に比べて軽装で、脛や腕に金属の防具を付けているだけで後は普段着ている衣服がむき出しになっていた。
「アヤメが一人で敵陣の方へ行ってしまってな」
「またあいつかよ。ちょっと強ぇからって調子に乗りすぎじゃねーか?」
「まあアヤメのことだから大丈夫だとは思うんだが、今回の相手はオーパーツを多様してくるから少し心配でな・・・」
「確かにそいつぁちょっと心配ですな」
「ったく!アヤメの奴しょうがねーな!」
「すまない・・・、私もロイドもこの場を離れることは難しそうでな。私達の代りにアヤメの所へ行ってやってくれないか?」
「ああ、わかった。じゃあ、ちょっと行ってくるわ」
「頼む。奴らのオーパーツには気をつけてな」
カデルはトレアサに背を向け、言わなくてもわかっているというように手を振りながら前線の方へと向かっていった。