—02— 北の戦場(1)
グラス大陸最北端のワーブラー王国とジェリド大陸最南端にあるインファタイル帝国。二つの国の国境付近付近にあるこのクムド平原では、侵攻してきたインファタイルの軍とワーブラーの軍が今まさに激しい戦いを繰り広げていた。
このクムド平原にはジェリド大陸の気候の特色が強く現れている。ジェリド大陸はグラス大陸の北側に位置しており、一年を通して非常に気温が低い。そのため特に寒い地域では地表が一年中凍り、雪が降り続けている。クムド平原もそのような地域に属しているため、今戦場となっているこの場所には大雪が降り、風が吹き荒れていた。
そのような中インファタイル軍と激突しているワーブラー軍に混じって戦う、銀の篭手に支えられた剣の紋章を背負った集団がいた。ワーブラー王国傘下にしてブルメリア王国も含めたグラス大陸にて最大最強を誇る傭兵ギルド、アガートラムの一団である。彼らは国から依頼を受け、オーパーツを大量に投入してくるインファタイル軍に劣勢を強いられているワーブラー軍を支援して戦線を押し返そうとしていた。
インファタイル軍の規模というのはワーブラー軍に比べて遥かに小さい。しかし、インファタイル軍は強力なオーパーツによって武装することにより強大な軍事力を得ていた。インファタイル帝国があるジェリド大陸には古代の遺跡が多く存在し、またそれと同時にオーパーツも数多く発掘されている。そのため、土地が貧しく軍の規模が小さいインファタイル軍でもそれらで武装することによりワーブラー軍と互角以上の戦いをすることができた。
「オーパーツによる砲撃が来るぞ!魔法部隊、防御壁の準備をせよ!」
両軍が衝突している後方でアガートラムを統率する若き女性が声を張り上げる。すると、両脇に待機していた魔道士達が一斉に詠唱を始めた。詠唱が進むに連れ、共に各々が持つ魔道具の核の光が増していく。
「今だ!防御壁、展開!」
女性が再び号令をかけると、魔道士達が魔道具を一斉にかざした。かざした魔道具の核から放たれた光は前方の空間に集った後、急激に広がって光の壁を構成した。
その直後、インファタイル軍後方から放たれたオーパーツによる巨大な光の砲撃がその壁にぶつかって轟音を立てた。穿とうとする光の砲弾とそれを弾き返そうとする光の壁は互いに激しく衝突し合い、やがてうねる様に複雑に絡み合うといずれも弾けるようにして消滅した。
現代で使用されている魔法は己の体内の気を変換した擬似的なマナを消費して使用する。そのため発動する魔法の力は人が持つ気の容量の限界をそれほど超えることができず、弱い魔法しか使用することができない。しかし、アガートラムでは魔法部隊を編成し、多くの魔法を重ね合わせることで強力な魔法を展開する合成魔法の実用化に成功していた。先程の防御壁もこれに該当する。
「よし、次の砲撃までは暫く時間がかかるはずだ!魔法部隊は各々攻撃魔法を使用して前線で戦っている仲間を援護しろ!くれぐれも味方に当てるなよ!」
脅威となるオーパーツの砲撃を凌いでひと段落したその女性は次の指令を魔法部隊に与え、次の行動に備えていた。そのとき一人の伝令役が駆けてきた。