—05— 突然の訪問者
【前回までのあらすじ】
クラウは得体の知れないウィルに強い警戒心を抱く。ウィルをめぐってラスと口論になってしまうが、そこへフェルナとウィルが帰ってきて話はうやむやになってしまう。その後、ウィルが以前貰ったオーパーツを調べ、効果を検証していると、一人の若い女性が来訪する。その女性は一言ウィル達に助けを求めるとそのまま気を失ってしまった。
ウィル達へ救いを求めてきた女性はシャムロックに入ってくるなり倒れてしまった。今はラスとメルトが女性を看病していた。年齢はラスと比較的近いようだが、痩せ細り頬もこけてしまっていて髪にも艶が無くかなり老け込んで見えた。
おそらくしばらくの間ほとんど食べ物を食べていなかったのだろう。履物が擦り切れて足の裏が血だらけになっているところを見ると、このような状態にも関わらず遠くからこの街まで必死の思いで歩いてきたようだった。
ラスとメルトはギルドの奥にある部屋にその女性を連れて行き寝台に寝かせた。その後、女性の服を脱がせて身体を綺麗に拭いて手当をして別の服を着させた。そして女性が目を覚ますまで二人で代わる代わる女性を看病し続けた。
「あの嬢ちゃんここに着くなり倒れこむなんて相当限界だったみたいだな」
「大丈夫なのかしら?少しでも回復して目を覚ましてくれるといいんだけど……」
「事情を聞いてみないとわかりませんが、あの様子を見ると単純な依頼という訳じゃなさそうですね」
広間に残ったウィル、クラウ、フェルナの三人は先程の女性について話していた。女性が「村を救ってください」と一言だけ喋った後に倒れてしまったため、その言葉と女性の様子から一体何があったのかを考えていた。しかし、それだけの情報では何もわかるはずもなく、女性の目が覚めるのを待つしかなかった。
それからしばらくして女性が目覚めた。ラスは女性のために微かな塩と干し肉で味を整えたお粥を作り女性に食べさせた。余程お腹が空いていたのかその女性はラスが差し出してくれたお粥を一気に食べた。しかし、ずっと食べていなくて胃が弱っていたところに急激に食べ物を流し込んでしまったため胃が受け付けず、その女性は口にした食べ物を吐いてしまった。
メルトが女性の口から出されたものを拭き取っているとその女性は申し訳なさそうにして何度もメルトに謝っていた。そしてラスがお粥を新たによそって来ると、今度はゆっくりと気をつけて食べた。お粥を食べ終えて一通り落ち着いたところでウィル達が部屋に入ってきて、その女性から詳しい話を聞くことにした。
「先程は大変申し訳ありませんでした。私はイナク村のコルネと申します。」
「イナク村って確かここから南東に行ったところにある村だよな?」
「ええ、確かそのはずよ。確か村で作った果物を王国で売って生計を立てているところね。最近は見かけないけど以前は市場の方でもよくイナク村産の美味しそうな果物が並んでたわね」
「なるほど、でそのイナク村の人がどうしてこんなところに?」
「はい……今おっしゃられたように私の村では果物を作って、それを売ったり自分達で食べたりすることで暮らしていました。でも数ヶ月程前から村に流れていた川が干上がってしまって果物が作れなくなってしまったんです……。原因も自分達では何もわからなくて……。最初は一時的な水不足だろうとは思ったのですが全然解消されなくて、遂には蓄えていた保存用の食べ物もお金も底をついてしまったんです」
「飢饉か」
女性は静かに俯いた。
「このままでは私達の村は無くなってしまうでしょう。食べ物もお金も無くなってしまって、最後の望みをかけて王城の方に行ってみたのですが通行許可証を持っていない私の話はまともに取り合ってもらえませんでした」
目に雫がじんわりと浮かび頬を伝った。
「一応話は聞いてくれたのですがいろいろと確認したり手続きしたりするのに半年はかかると言われてしまって……。帰りに寄ったこの街でいくつかのギルドに依頼をしようとは思ったのですが提示された額を払えるほどもうお金も持っていなくて……」
「それでウチに来たって訳ね」
「はい……。厚かましいのも重々承知です!お願いです!私達を助けてください!今はお金も何もありませんが、水さえ戻ればまた果物もお金も作れますので!どうか……どうか……」
コルネはそう言うとふらふらの身体を無理やり起こして寝台から降り、地面に頭を擦りつけてラス達に助けを求めた。
「コルネさん、顔をあげてください。私達は今いる五人だけの小さなギルドでお役に立てるかわかりませんが、私達でよければ出来る限りのことはさせてください。お金も後で全然構いませんので」
ラスはそう言うと皆の方を向いて申し訳なさそうな顔をしながら、いいかな?と目で訴えてきた。
「ったく、しょーがねーな。そんなことばっかりしてるから経営が危なくなるんだろうが」
「まあまあクラウ、いいじゃない。私達もこの子のこんなところが好きでこのギルドにいるんだしさ」
「お腹空かせて倒れるなんてまるでどこかの誰かさんみたいだねー。この前も同じような人助けたしだいじょーぶだいじょーぶ!」
「俺はラスに従うよ。それにこの前のこともあったので他人事には思えないし」
「皆、ありがとう」
誰もラスの言うことに異論は無いようだった。
「っ……皆さん、本当にありがとうございます!本当にっ……」
コルネは先程摂取した水分を出し切ってしまうのではないかという程嗚咽を漏らしながら涙をこぼした。
「コルネさん、気にしないでください。困っていたら必ず助けることが私達のギルドの信条なので!」
「それお父さんとお母さんの口癖だったね!」
メルトはどこか嬉しそうにそう言った。
「じゃあ皆でイナク村に向かいましょうか!コルネさん、案内をお願いできますか?」
ウィルがそう言うと各々旅の支度をして、川が干上がってしまった原因を探るためにイナク村へと向かった。