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蒼き星の守護者 ~星を救う英雄と英雄を殺す少女の物語~  作者: りの
ウィル編 第二章 ~あの空にもう一度虹を架けて~
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—04— ウィルの素性

【前回までのあらすじ】

 シャムロックに帰ってきてからフェルナはかつての笑顔を取り戻したラスとメルトを見る。フェルナはウィルを誘って出かけ、自分達がいなかった間の出来事を聞き、ウィルに感謝する。また、今まで誰も頼ることなく独りだったウィルも明るい姉貴肌なフェルナに心を開いていく。

 ウィルとフェルナが出かけた頃、シャムロックではラスが依頼主への報告書の作成など事後処理を行っていた。


「なあ、ラス。一つ聞いていいか?」


「どうしたの?」


 ラスは報告書をまとめるその手を止めてクラウの方を見た。クラウは大剣の手入れをしながら話を続ける。


「ウィルってどんな奴だ?」


「とっても優しい人よ。私達を助けてくれたし、雑用みたいな依頼でも笑顔でこなしてくれているわ」


「どこから来た?前は何をしていた?」


「それは私も知らないわね……。メルトから山奥から出てきて仕事もお金が無くなって倒れてたって聞いたけど」


「そうか……」


 クラウはまた黙って手入れを続ける。いつもおちゃらけている彼にしては珍しく真剣な表情だった。


「ウィルがどうかしたの?」


 まとめている報告書を手に持ったままラスが聞き返す。


「……あいつには気を付けろ。得体が知れねぇ」


 クラウは静かに淡々と告げた。普段ふざけて女性陣にいいように言われている彼は滅多なことで真面目な発言をしない。しかし、女性陣の誰もが彼をシャムロックの中で冷静で頭が回る人で、皆を大切にしていると知っていた。そのクラウがウィルを受け入れるどころか警戒するような発言をしたためラスは報告書を握りしめた。


「どうしてそういうこと言うのよ。彼は危険を冒してまでフアラから私達を助けてくれたのよ?」


「そんなの普通の人にはできねぇだろ?どうやった?」


「何よ、私達が信じられないっていうの?」


「いや、あいつがフアラを壊滅させたってのはわかる。普段の動作が素人じゃねぇし俺やフェルナじゃ敵わねぇくらいに強ぇ」


「だったら」


「なあラス、あいつはどうやってフアラの奴らを倒した?」


 ラスの発言を遮りクラウが言葉を続ける。


「そ、それは”気”を使って強化したのよ!クラウだって”気”を使えばとんでもなく強いじゃない」


「あのな、ラス。”気”ってのは誰もが持っているし訓練すればその力を使って身体能力を強化できる。だがな、そもそも”気”ってのはそんな簡単に誰しも制御できるもんじゃないし、仮に使えたとしても強い力が使える奴は稀にしかいない。俺にはあいつにそんなことができるとは思えないんだがな」


「それは偏見よ。ウィルがたまたま強い”気”を持っていて使えただけじゃない?」


「ラス、もう隠すのは無しにしねぇか?お前は”気”の訓練をしていないからわからないかもしれないが、訓練した奴ってのは相手の”気”の量がどれくらいなのか感じ取れるようになるんだ。”気”の量と体つきや身のこなしで相手の強さを推し量るのは、気が使えて戦いに慣れている奴だったら常識だ」


「何が言いたいのよ?」


「あいつは、ウィルは”気”が全く感じられねぇんだよ。怖いくらいにな。普通人だったら赤ん坊でも多少の”気”は持っているはずだ。”気”が全く感じ取れないなんて死人くらいだぜ」


「それは……」


 珍しく強い口調のクラウにラスが口籠る。


「なあ、ラス。もう一度だけ聞く。あいつは何者なんだ?何故この街で行き倒れてた?どこから来たんだ?ここに来る前は何をしていた?」


「そんなにいろいろ聞かれてもわからないよ!ウィルはただ私達を助けてくれて、今は一緒にこのギルドに居てくれている、それだけでいいじゃない!」


「素性のわからない奴を置いておくのは危険だって言ってるんだ。何かあったら俺やフェルナだけじゃお前達を守れないかもしれないんだぞ?それにあいつの腰の武器は……いや、なんでもない。忘れてくれ」


 クラウはそこまで言って、ラスが涙を目に溜めていることに気付きそれ以上の追及をやめた。


「ラス、俺が悪かった。ただ俺もフェルナもお前達のことを本当の家族みたいに大切に思っている。そのことだけは忘れないでくれ」


 そう言うとクラウは手入れの終えた大剣を武器立てに立てかけた。


「まあまあ二人共!せっかく新しい人が増えて経営も順調になったんだからいいじゃん!クラウもウィル君が強いし性格もよくて見た目もいいからって僻んじゃダメだよ?」


「あのなー、メルト。こう見えて俺はモテるんだぞ?王国の城下町を歩いた日にはそれこそ女の子達に揉みくちゃにされてだなー」


「またまたー、嘘ばっかりー。クラウがいいのは見た目だけだもんねー!下心丸出しのスケベなおじさんに女の子は惹かれませんー」


「メルトは大人の魅力ってもんがわかっていないな。この内から溢れ出る気品と異性を惹きつける魅力が世の中の淑女達を惹きつけるのさ」


「……ただの見た目と下心をひた隠しにした第一印象で釣ってるだけの最低軟派野郎じゃない」


 先程のやりとりで機嫌を悪くしたラスから容赦ない言葉がクラウに浴びせられる。


「うぐっ……ラスまで……。いやいや、お前達は何もわかっていない。俺は女性に対しては最初だけじゃなくて最後までずっと優しくするさ!この前だってエルミナちゃんと朝まで「へぇー、その話詳しく聞かせてもらおうかしら?」


「っへ?」


 クラウが入口の方を見ると、いつの間にか買い物と防具の修理を済ませたフェルナとウィルが立っていた。フェルナは笑顔でクラウの方に歩いてくるが、その視線はクラウを穿つかのような鋭く冷たいものであった。ウィルは入口でフェルナの防具を持って立ち止まったまま困ったような表情を浮かべ、ラスとメルトは知―らないといった表情で以来の報告書を作成する作業に戻っていった。一人残されたクラウは脂汗を顔面に滲ませながら向かってくるフェルナをただただ見つめていた。


「フェ、フェルナ!?……いつからそこに?」


「うーん、女の子達に揉みくちゃにされて、……ぐらいかしら?」


「い、いや違うんだ!エルミナちゃんとは朝までただ最近流行りのお菓子について話し合っていただけなんだ!ただそれだけだぞ」


「へー、優しく朝までただお菓子の話をねぇ」


 座っているクラウの傍まで来たフェルナは腕を組んで冷たい目でクラウを見下ろしていた。クラウは必死にフェルナの視線から逃れようと色々と言い訳を並べたが最後は諦めて素直に謝っていた。その後もフェルナは床に正座したクラウの前に椅子を持ってきて足を組んで座りながら謝罪を「ふーん」「へぇー」「あ、そー」と言って聞いていた。時折湧き上がる怒りが抑えきれなくなり矢の羽根でクラウの頭をぺちぺちと叩いていた。


 そんな二人のやり取りを苦笑いしながら見守ったウィルは、少し離れた場所でこの間アレンとサーシャを助けたお礼として貰ったオーパーツを調べてみることにした。闇ギルドの連中があそこまでして欲しがったオーパーツにどのような力があるのか興味があった。


オーパーツは現代の文明が発展する以前から存在していたと言われ、それらがどのようにして作られたのか、どのような力を持っているのかというのはまだ解明できていないことが多い。夜の街を照らす街灯や噴水などで水を汲み上げる装置など、いくつかのものは現代文明の人が見てもその効果、用途がわかるものもある。


今回貰ったオーパーツはその外見から効果や用途を判別できず、どのような力を持っているかは不明であった。オーパーツの力や効果は様々であるが大抵魔法と同様に原理に干渉して炎や電流などの様々な事象を引き起こすものや人の感情や思考に干渉するようなものである。効果や力の大きさによっては事故になるため迂闊に力を発動させるのは危険である。ウィルはオーパーツの効果が発動しても周囲に影響がないように目の前の小さな空間に魔法による障壁を構築し、その中でオーパーツの力を発動させてその効果を調べていた。


検証した結果、このオーパーツの力は周囲の生命体の思考情報を収集し、効果を発動させた人が理解できる形式で情報を伝達させるというものだった。政治や軍事行動における相手の思考、行動の先読みなどの悪巧みができるため欲しがる者も大勢いるだろう。闇ギルドの連中があれほど欲しがるのも道理である。


 一通りの検証が終わったところでこのオーパーツをどうするか考えていると後ろからメルトが話しかけてきた。


「ねぇねぇ、ウィル君。そのオーパーツってどんな力を持ってるの?何かわかった?」


「ああ、今ちょうど調べ終わったところだよ。このオーパーツは他人の心を読み取れる力を持っているみたいだね」


「へぇ~!そんなことできるんだ!すごいねー。じゃあさじゃあさっ、今私が何考えているかわかるー?」


「えーと、”晩御飯は豚肉の香草焼きが食べたい!!”かな?」


「わおっ、正解!本当に考えていることがわかるんだねー」


「貰ったオーパーツがどうかしたの?」


 メルトがオーパーツの力ではしゃいているのを見てラスも寄ってきた。


「ねぇねぇお姉ちゃん、このオーパーツすごいんだよ!相手の考えていることがわかるみたい!」


「へぇー、オーパーツってそんなこともできるのね」


「あ、そうだ!ウィル君。ついでに今お姉ちゃんが考えていることも読み取ってみてよ!」


「はいよー。えーと、”私がウィルと一緒にお買い物行きたかったのに……。フェルナだけずるい……”」


「わー!わー!ウィルもメルトも何やってるのよ!人の頭の中除くなんて最低!そんなものは没収よ!」


 ラスがウィルから必死になってオーパーツを奪い取ろうとしてきた。ウィルもこのオーパーツが他の人に渡ると面倒なことになるかもしれないという気がしたのでオーパーツ目がけてピョンピョン飛び跳ねるラスを躱していた。すると、ウィル達の様子が気になったのか、正座して謝り続けていたクラウと矢でぺちぺち叩いていたフェルナもウィル達の方へとやってきた。


「おー、お前らさっきから楽しそうに騒いでるけどどうかしたのか?」


「あ、クラウ!いいところに!ちょっとウィルを取り押さえて!その危険なオーパーツを没収するんだから!」


「ちょっと、ラスどうしたのそんなに慌てて」


 いつもの大人しい感じとは違ったラスの様子にフェルナが首を傾げた。ただラスはウィルからオーパーツを奪うことに夢中になっていてフェルナの言葉は届いていなかった。


「えーとね、ウィル君の持ってるオーパーツが人の考えていることを読み取る力があるみたいなんだけど、それで私が試しにお姉ちゃんの考えていること読み取っちゃえって言ったら急に怒り出しちゃったんだよねー」


忙しいラスに代わってメルトがフェルナに状況の説明をした。


「へー、あのオーパーツのそんな力がねぇ。そりゃあラスも怒るわけだ」


「ちょっとフェルナ!あなたも笑っていないで手伝ってよ!」


「あっはっはっ、私は面白いから見てることにするよ!」


「フェルナの裏切り者―!」


 ラスは結局一人でウィルからオーパーツを奪い取ろうとぴょんぴょん跳ねていた。クラウはめんどくせーと言って興味無さそうに座って見ていた。


「クラウも手伝って!あのオーパーツがあれば街中の女の子達の心が知りたい放題だよ!」


「何!?それは確かに欲しい!よこせウィル!」


「はぁ……あんたも懲りないねぇ……」


 ラスにそそのかされてクラウもオーパーツ争奪戦に加わった。フェルナはそれを呆れた様子で眺めていた。


「ウィル、よこしなさい!」


「よこせオラー!」


「うわっ、二人共落ち着いてください!」


 小動物のような可愛らしいラスの飛びかかりと闘牛のような凄まじい勢いのクラウの突撃をウィルはひょいひょいっと躱しながらギルドの中を逃げ回っていた。そのような三人に時折メルトがいいぞー!そこだー!行けー!とやじを入れる。フェルナは馬鹿らしいと思いながら眺めていたが、不意にあることを思いついたようだ。


「あ、そうだ!ねー、ウィル!ちょっとこいつの心覗いて私のことどう思ってるか教えてよ!」


「なっ、おい!よせよ!」


「どうだかー?どうせ他の女のことしか考えてないんだろ?」


「俺が愛しているのはお前だけだって言っているだろう!?」


「口でそうは言ってもいつも他の女の事ばかり追っかけてるし信じらんないね」


「そこまで言うならやってやろうじゃねぇか。ウィル、俺の本心を読んでフェルナに言ってやってくれ!」


 クラウはさぁ来いと言わんばかりにどかっと座って腕を組んだ。ラスもウィルから奪い取ろうとするのをやめて事の成り行きを見守っている。ウィルはわかりましたとひとこと言った後にオーパーツの力でクラウの心を読んだ。


「えーと・・・クラウさんは本当にフェルナさんのことを大切に思っているみたいですよ?特に嘘を付いている訳でも無さそうですね。いつも他の女の子を口説いているのは小さい頃からの癖と照れ隠しみたいなものだそうです」


「おい!誰もそこまで読めなんて言ってないだろ!」


「そっか……。じゃあ今日のところは許してあげるか!」


「よかったねー、フェルナ!」


 フェルナは満足したのかとても機嫌が良さそうにしていた。何故かラスやメルトまで嬉しそうにフェルナによかったねーとかお幸せにと声を掛けていた。一連のやり取りでオーパーツのことはどうでもよくなった皆が一息ついて談笑していると入口の方から音がして一人の若い女性が入ってきた。


「……お願いです。私達の村を救ってください」


 既に体力が限界だったようで、その女性はただ一言告げてそのまま倒れてしまった。

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イマテカ倉庫の蒼き星の守護者のキャラクター紹介ページ(キャラ絵有り)です
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