—03— 姉弟のように
【前回までのあらすじ】
闇ギルドフアラを壊滅させたという噂が広まって依頼が増え活気を取り戻したシャムロックだが、あまりにも増えすぎた依頼を消化するためウィル達は奔走していた。そこへシャムロックの団員であるクラウとフェルナが依頼から帰還する。クラウ達は数日明けていただけのシャムロックの変化に驚くが、ラスから経緯を聞きウィルを受け入れた。
フェルナはウィルを連れ出してヴィオラの街の大通りに来ていた。この大通りは街の東門から西門まで突き抜ける形で位置している。ヴィオラの街を仲介してブルメリア王国の城下町へ抜けていく行商人の往来で非常に栄えており、通りの両側には様々な品物を扱うお店がずらりと並んでいる。
フェルナは傷んできた胸当ての修理と美容に効く薬を購入するために人々が行き交う大通りをウィルを連れて歩いていた。行きつけの鍛冶屋に向かっている途中、フェルナは前を向き歩いたまま話しかけた。
「いきなりごめんね、本当は一人でもよかったんだけど少しウィルと話したかったんだ」
「いえいえ、特に予定も無かったので気にしないでください。まだこの街のことあまり知らなかったのでちょうど良かったです」
「そう言ってもらえると助かるよ!」
フェルナは白い歯を見せながら笑った。ウィルはまだ少ししか話していないが、明るくさっぱりとした気持ちのいい女性だなと感じていた。
「あのさ、さっきラスが少し話してたけど、私とクラウがいない間に何があったのか聞かせてくれないかな?」
ウィルはこの大通りの端っこで腹を空かせて倒れていたこと、メルトとの出会い、そしてフアラからメルト達を救出したことまで全て順を追って話した。
「……私達がいない間にそんなことになってたんだね」
ウィルの話を聞いて、フェルナは少し考え込むような表情をしていた。
「あの子達、さ……、信じられないかもしれないけど少し前まで元気がなかったんだよ。ギルドの経営がもう限界になっていたから、両親の残してくれたギルドをやめなきゃいけないってさ……。それが戻ってきたら二人共とても幸せそうな表情をしてるんだもの。なんか嬉しくなっちゃってさ」
揺れる前髪の奥の表情から二人を真剣に心配している様子が伝わってくる。
「あの子達の笑顔を取り戻してくれたこと、そして守ってくれたこと、本当に感謝しているよ」
それまでずっと歩きながら話していたフェルナは立ち止まり、ウィルの目をじっと見つめた。
「自分は感謝されるようなことしていないですよ。俺、この街に来て何も知らなくて路頭に迷ってて……、そんな中あの子達に助けてもらったんです。だから、いつまでここにいるかはわからないけどせめて今だけはあの子達の力になってあげたいんです」
ウィルはいつかはこの街や国を発って旅を続けなければならない。ただ、今の率直な思いを伝えた。フェルナは微笑んでありがとうと呟くとまた前を向いて歩き始めた。
「あっはっはっ、それにしても技能検定のことも何も分からずに無一文になって倒れてるなんて!あなたってしっかりしてそうに見えるのに案外可愛いところあるんだね」
「あれは仕方なかったんです……。ずっと山奥で育ったからこの国の制度とか何にも知らなくて……」
「いくら世間知らずでも程があるだろう?私も城下町の貧民の出だけどさー、流石にそこまでじゃなかったよ」
「メルトにも全く同じことを言われましたよ……」
その後も何気ない会話を繰り返しているうちに二人はすっかり打ち解けた。
「ところで、フェルナさんはいつからシャムロックにいるんですか?」
「ん~、そうだなー、あの子達の両親が無くなったくらいだから5年くらい前かなー」
「そんなに前からいるんですか?」
「そうなんだよ、最初の頃なんてラスもメルトもこんな小さかったんだから」
そういってフェルナは自分の腰くらいの高さを手で表していた。いくらフェルナが少し背が高い方だと言っても流石にそれはやりすぎだろうとウィルは内心思った。
「私とクラウがシャムロックに入ったのはちょうど人が抜けていっちゃったときでさ……」
昔を思い出しフェルナは語り始めた。
「偶然シャムロックの前を通りかかったんだ。そしたら小さな女の子二人が必死に泣きながらギルドを去っていく大人達を呼び止めてさ。それを見てたらなんか胸が痛くなってね……。私もクラウも騎士団を辞めたばっかりで新しい仕事も決まってなかったから、少しだけその女の子達の助けになってやろうと思って。そしたら案外居心地がよくてなんだかんだそれからずっとシャムロックにいるのさ」
「そんなことがあったんですか」
ラスやメルトが今日までギルドを続けてこられたのはフェルナとクラウのおかげなのだろう。それでもやはりたったの四人ではギルドを経営していくことは厳しく、ウィルが来たときには風前の灯火だった。フェルナもクラウもどうにかしてやりたかったが、そればかりは流石にどうにもならなかった。フェルナ自身はシャムロックが無くなったところでまたすぐに他の仕事を探せばいい。しかし、ラスとメルトにとってはずっと生まれ育ってきた居場所が無くなってしまうことになる。フェルナにとってはそれがとても心苦しかった。最近はシャムロックが無くなることを覚悟していたが、そのような時にウィルの活躍によりシャムロックはまた息を吹き返しラスやメルトの居場所は守られた。フェルナは自分達がしてやれなかったことを代わりにしてくれたこと、そして何より彼女達の笑顔を取り戻してくれたことに心の底から感謝していた。フェルナの目尻にはうっすらと光る雫が見えた。
「ねえ、ウィルはこれからどうするんだい?オーパーツを集めているんだっけ?」
フェルナはウィルに今後について訪ねた。
「ウィルさえ良ければ、これからもずっとあの子達のそばにいてやってくれないかな?」
「それは約束はできません……。ですが、しばらくはこのシャムロックにいるつもりです」
「そっか……」
その言葉を聞いたフェルナは俯いた。
「そういえば、家を飛び出してきて知り合いも誰もいないんだろう?ここにいる間は私のことをお姉さんだと思っていろいろと頼ってくれていいから。っとはいってもウィルはクラウと違ってしっかりしてるから私を頼ることもないかもしれないけど」
「いえ、とても嬉しいです。ずっと独りだったから……。またこうやってお話してもいいですか?」
「ええ、もちろん!私も可愛い弟ができたみたいで嬉しいよ」
髪の色の違いを除けば、二人して並んで歩きながら話している姿は本当の姉弟のように見えなくもなかった。
「ところで、フェルナさんとクラウさんはどういう関係なんですか?」
「ああ、クラウ?あいつとは幼馴染みたいなもんかなー」
ウィルの問いかけにフェルナは昔のことを思い出し、鍛冶屋に向かいながらウィルに語り始めた。