—09— 闇の中で生きる者達 其の三
【前回までのあらすじ】
ウィルはメルト達を拉致したゴロツキ達のアジトへと乗り込んだ。そこで目にしたのは闇ギルドのマスター、グリンデュアに拷問される寸前のメルト達の姿だった。ウィルは咄嗟に魔法で目を眩ませるとメルト達を連れて逃げた。
「ぐわっ」
「くそっ、何も見えねえ!何が起きていやがる!?」
後ろから凄まじい光によって激しく目を痛めつけられたゴロツキ達の悲鳴が聞こえる。ウィルは早くこの場を離れるためにメルトを背負いアレンとサーシャを両脇に抱える形で急いで走っていた。三人を抱えて走るのは常人にとってはなかなか辛いことではあるが身体強化の魔法を使っていたウィルにとっては朝飯前のことだった。
「目が痛いよー!」「チカチカなのー!」
「何か起きたの!?わっ、誰かが僕の太もも触ってる!痴漢!変態!」
閃光をまともに受けてしまった被害者はここにもいた。そして先程から三人を抱えて必死に走っているウィルの集中をかき乱すかのようにギャアギャアと騒いでいる。メルトに至ってはせっかく助け出したのに痴漢呼ばわりしてくる始末である。
(こいつら……せっかく人が助けてやったのに)
そんな状況にウィルはメルト達を置いていってやろうかという考えも過ぎったがラスとの約束があるのでそれはやめた。
「はいはい、どうも心配して厄介事に巻き込まれているメルトを必死の思いで助けに来た痴漢ですよ」
「え!?え!?その声はもしかしてウィル君なの?どうしてこんなところに?」
痴漢呼ばわりがとっても傷ついたのか、ウィルは皮肉交じりにメルトにそう告げた。視力が未だに回復しないメルトはウィルの声だけでは確信が持てずに思わず聞き返した。一体ウィルが何故こんなところに?という思いもあるのだろう。
「メルトがまだ戻っていないって、ラスさんが心配してたから探してたんだよ。そうしたらこの街の北西部に向かう姿を見たって人がいてね。」
実際にはウィルがマナの力を使ってメルトの位置を探索した訳だが、細部はごまかして説明した。
「お兄ちゃん誰―?」「誰―?」
ウィルと初めて会うアレンとサーシャは今自分を抱えて走っている人が誰かわからなかったが、メルトとのやり取りから危ない人ではないと認識しているようだった。
「俺は君たちを助けに来た痴漢さんだよー」
「助けに来てくれたの?ありがとー!」「チカンさんありがとうなのー」
アレンとサーシャは早くも馴染みウィルと楽しそうに会話をし始めた。その後ろではメルトがウィル君のいじわる……としょげていた。
「ところで、メルト達はどうしてあんな奴らに捕まってたんだ?」
ウィルは三人を抱えて走りながら、メルト達がこんなところに居た理由を訪ねた。
「えーっと、それはね……」
メルトはセナおばさんの装飾品のことやゴロツキ達に追われていたこと、捕まったこと、今までの出来事を全てウィルに話した。
「なるほどね。じゃああいつらはこの街の違法ギルド……闇ギルドのやつらで、そのオーパーツを探しているってことか」
ウィルはメルトの話から、先程の連中がおおよそ何者なのかを予想していた。オーパーツは非常に多種多様な力を持っているが、中には非常に強力かつ危険な力を持っているものもある。そのような事情で国によってディガーという職種と技能検定が制定されている。また、オーパーツがそのような性質を持つため、違法な手段を使ってでも入手しようとする集団は少なくない。ウィルは今回の奴らもそういった集団の一つだろうと考えていた。
「ねえねえ、ウィル君ってオーパーツを探しているんだよね?オーパーツって一体どんな力を持っているの?」
「いろいろな物があるんだけど例えば火を起こすとか水を思い通りに動かすとかいった単純で安全なものもあれば、一時的に相手を思うように操るとか、姿を消せるとか猛毒を生成するとか、使い方によっては一つの国をどうにか出来てしまうものなんてものあるかな」
「うわー……そんなに危険なものもあるんだね」
「そういうのは数少ないし、見つかっているものも貴族や国が独占して管理してるみたいだけどね」
ウィルの話を聞いてメルト達もあの装飾品がどういったものなのか、何故ゴロツキ達がああまでして自分たちを捕まえようとしたのかがわかった。あのセナおばさんの装飾品も恐らく同様に危険な力を持ったオーパーツで奴らはそれを手に入れて自分たちで使おうとしている、あるいは売り捌こうとしているのだろう。そして装飾品を渡さなくて本当に良かったとメルトは再認識した。
「ウィル君、ところでこの後はどうするの?奴らもこれくらいじゃ懲りなさそうだけど……」
「この建物から出て近くの路地にラスさんがいるから合流して一緒に大通りの方まで逃げよう。そこまで行けば奴らも今は流石に追ってこれないと思うし」
「お姉ちゃんも来てるの!?」
「メルトのことすごく心配してたよ。早く無事な姿を見せてあげないとね」
「そっか……。うん、そうだね!」
メルトはここに来る前にラスに対して一方的に自分の不満をぶつけて飛び出してきてしまったことをずっと後悔していた。それにも関わらずそんな自分を心配してこんな危険な所にまで来てくれたことを嬉しく思っていた。
「あ、ウィル君。もう目も治ったし自分で走れるから私は下ろして大丈夫だよ!」
建物から出てしばらくしたところでメルトは不意に今自分がウィルに背負われていることを思い出した。ウィルは別にこのままでも大丈夫だと言ったが、流石に負担をかけるのも申し訳ないと思い自分で走ることにした。
「俺達ももう自分で走れるよ!」
「本当かい?無理はしなくて大丈夫だよ。えーと……」
「俺アレン!」「サーシャなのー!」
そういえば二人の名前を聞いていなかったと思ったウィルにアレンとサーシャは元気に名乗った。二人はまだ幼いので体力面などで心配だったが、ウィルも両手が使えたほうが何かと皆を守りやすいと思ったためアレンとサーシャも下ろすこと