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蒼き星の守護者 ~星を救う英雄と英雄を殺す少女の物語~  作者: りの
ウィル編 第一章 ~陽だまりの街と白詰草~
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—09— 闇の中で生きる者達 其の二

【前回までのあらすじ】

 ウィルとラスはメルト達の気配を辿って街の北西部まで来ていた。ならず者達から狙われながらもメルト達のいる建物までたどり着いたウィル達はそこでメルトの悲鳴を聞く。ウィルはラスに外で待っていることを約束させると単身建物の中へと乗り込んでいった。

 扉の向こうには外から帰還した直後にくつろげるようにするためか、雑多に長椅子や丸机が置かれた空間が広がっていた。その空間には丸机の周囲には3人ほど酒と干し肉を摘みながら今日の疲れを労いあっている男達が三人ほどいた。その男達は扉が開いたところを見て、また仲間が仕事から帰ってきたのかと思いささやかな宴に迎え入れる準備をしようとした。しかし、三人の目に入ってきたのが仲間ではないことに気が付くと近くにあった各々の武器を手にかけ部外者を迎え撃つ準備をしようとした。しかし、扉から入ってきた男、ウィルの方が先手を打っていた。ラスのことを気にかける必要のなくなったウィルは古代魔法”紫電”によって三人の男達を瞬時に無力化した。


 男達を片付けた後ウィルは周囲を見渡し、建物の中の構造及び人の配置を入念に把握していた。便利な古代魔法を扱えるからといって油断すれば危険な目に会ってしまう。ウィルはそういうことを理解し己の力を過信せずに慎重に事を進めていた。


(いくつかの小部屋があるようだけど、今は奥の大部屋に大体の人が集まっているみたいだな)


 今この建物の中の人はほとんどか奥の方にある大部屋に集まっていてそこにメルトもいるようだった。おそらくメルトを拘束して何らかの詰問でもしているのだろう。時折メルトの声とそれに混じって小さい子供の声が二つほど聞こえてくる。声から少しばかり疲労しているように思えたが、深刻な状況に陥っているわけではなさそうだった。とはいえいつメルト達に危害が及ぶかわからないのでウィルは急いでメルト達の声がする大部屋の方へ急いだ。


 大部屋は長い通路の突き当たりにあり、扉がなく通路と繋がっていた。ウィルは気づかれないように気配を消して少しばかり手前の脇の通路から部屋の様子を覗った。するとウィルから見える位置、部屋の入口から見て右側の壁際の柱にメルトと小さな男の子と女の子が縛り付けられていた。


「離せよ!」「離すの~!」


「ったく、うるせぇガキだな!」


「あぐっ」「ひっ」


 メルト達の脇に立っていた男が威嚇程度にアレンの頭をひっぱたいた。


「やめて!アレンとサーシャに手を出さないで!」


 男がアレンに手を出したのを見てメルトは縛られていた体を動かせるだけ動かしてアレンを庇うように男の間に上半身を割って入れた。


「あぁっ?んだよ、じゃあ早くオーパーツの場所を吐けよオラァ!!」


「あんたになんか言うわけないでしょ!」


「んだとこのクソガキィ!」


「まぁまぁ、落ち着いてください」


 ウィルがそろそろ無理矢理にでも入っていかないとまずいかと思ったそのとき、一人の透き通った男の声が大部屋に響き渡った。それと同時に大部屋から聞こえてきた全ての音が消えた。


「無駄に怯えさせては可哀想でしょう。こういうことをやるときにはちゃんとしたやり方があるんですよ」


 透き通った声だが奥底に不気味なほどの冷たさを感じる。この男の声で周りの男たちが静かになったことを考えるとこのギルドのマスターといったところだろうか。ウィルは死角にあるためその男の姿を見ることができなかったが、ギルドの男達の緊張している様子を見ると並大抵の男ではないのだろうと感じていた。


(どうする?今すぐ閃光魔法で目を眩ませてメルトと一緒にいる子供を助けるか、それとももう少しだけ様子を見るか……)


ウィルはもう少し相手の戦力を推し量るかどうかをギルドマスターだと思われる男の出方を見ながら考えていた。


「先程からの部下の無礼をお許し下さい。自己紹介が遅れました。私、このギルド、フアラのマスター、グリンデュアと申します。」


 言葉からは紳士のような印象を受けるが、まとわりつくような冷たさがメルト達に悪寒を与えていた。


「さて、お嬢さん。こちらの私の部下たちなのですが、貴方たちがオーパーツを持って逃げたと証言していましてね。そのことについて何か存じ上げませんか?これぐらいの丸い装飾品なのですが……」


 両手でリンゴくらいの大きさの丸を表現したグリンデュア。そのすぐ後ろには先程メルト達を散々追い掛け回していたゴロツキ達の姿があった。ゴロツキ達はメルト達を追いかけていたときの必死な表情とは違い、余裕を持った気持ち悪い笑みを揃って浮かべていた。


「し、知らない。確かに最初は持っていたけどそいつらに追いかけられている間にそんなの落としちゃったよ!」


「……なるほど。落としてしまったのならば仕方ないですね。しかし、困ったことになりましたねぇ。私達はそのオーパーツがとても欲しいのですが、流石にこの広くて入り組んでいる街の北西部をこれだけの人数で探すのもなかなか骨が折れますし……。さてどうしたものですかね」


 メルトはグリンデュアがそう言って悩んでいる姿を見て、もしかしたら話が通じるかもしれないという淡い希望を抱いた。


「お嬢さん、疲れているところ大変恐縮なのですが、その無くしたおおよそ場所とか何か覚えていることはございませんか?僅かばかりの手がかりでもいいのですが」


「知らないよ!そいつらから逃げるのに必死だったからどこで落としたとか、どの辺を走っていたとかなんて覚えてられないよ!」


 メルトはグリンデュアの後ろにいる見覚えのある三人のゴロツキ達を睨めつけた。


(本当はあいつらに見つかる直前にいた小屋の床下に隠したんだけどねー)


 少しほど前、メルト達は小屋で睡魔に抗えず寝ているところにゴロツキ達に見つかってこのアジトまで連れてこられた。しかし、オーパーツは小屋に踏み込まれる直前にメルトがゴロツキ達の手に渡らないように隠していた。そしてここへ連れてこられるまで身体のあっちこっちを触られたりしつこくオーパーツの場所を聞かれたりしたがずっと知らないふりをしていた。知らない男達に身体を触られるのは屈辱的だったが、男達がメルトの絶賛発達中の身体にはまるで興味を示さずオーパーツばかりを探して触ってくることはもっと屈辱的だった。そのようなことがありメルトは大変機嫌を悪くしていたため何があっても絶対に場所だけは言うものかと黙っていた。


 しかし、メルトはゴロツキ達の顔を見てどこか違和感を感じていた。オーパーツのことは何も知らないと突っぱねたにも関わらず、まるでメルトの反応などどうでも良いかのようにゴロツキ達はずっとニヤニヤと不気味な笑みを浮かべていた。するとグリンデュアがゆっくりと口を開いた。


「さて、何も覚えていないとは困りましたね。しかし実は人間とは些細なことでも何かしら覚えていて、それらは何かをきっかけに思い出せるとか。少々心苦しいですがそちらのお二方も含めて少しばかり痛い思いをしていただければもしかしたら何か思い出していただけるかもしれませんねぇ」


 そう言うと今まで紳士的な落ち着いていた表情を浮かべていたグリンデュアの表情がとても悍ましい笑みに豹変した。メルト達は真っ当な人間が浮かべられるとは思えないその表情にゾワッとした。


「さて、貴方たち、このお嬢様方が記憶を思い出せなくて大変辛そうなので思い出すのを手伝ってあげなさい。そうですねぇ、爪を一つずつ剥いでいけば思い出しやすいのではないでしょうか?」


「へへっ、マスターも趣味が悪いですね」


 そういうとゴロツキの一人が何か拷問器具のようなものを持ってメルト達にじわりじわりと歩み寄っていった。


(……まずいな)


 ウィルは咄嗟に大部屋に魔法により閃光を放った。大部屋にいた男達は目に強烈な刺激を与えられ、あまりの痛みに両目を抑えていた。その隙を突いてウィルはメルト達の縄を解き、一緒になって眩んでいる三人を抱えてギルドの建物の外へ急いで連れ出した。

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イマテカ倉庫の蒼き星の守護者のキャラクター紹介ページ(キャラ絵有り)です
りの@イマテカ
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