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蒼き星の守護者 ~星を救う英雄と英雄を殺す少女の物語~  作者: りの
ウィル編 第一章 ~陽だまりの街と白詰草~
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—09— 闇の中で生きる者達 其の一

【前回までのあらすじ】

 メルトとアレン、サーシャは装飾品を奪おうとするゴロツキ達に追われ、治安の悪い街の北西部へと迷い込んでしまう。既に日が暮れてしまうもメルト達はゴロツキ達を撒いて使用されていない倉庫に身を隠す。そのままゴロツキ達が諦めて去るのを待とうとするも気が抜けたメルト達は眠りに落ちてしまう。そこへゴロツキ達が迫っていた。

 ウィルとラスはメルトを探して街の北西部にいた。既に日が暮れており、周囲は不気味な暗闇と静寂に包まれていた。時折遠くから聞こえる悲鳴のような声で不気味さが一層増して感じる。


「はぁっ、はぁつ、ウィルさん、メルトは本当にこんなところにいるんですか?」


「詳細な場所まではわかりませんが、確かにこちらの方角にいるはずです!」


 不安を抱くラスに対してはそのように答えたウィルだったが、先程からメルトの気配が急速に移動していることを周辺のマナの変化から感じ取っていた。そのためメルトの身に危険が迫っているのではないかと考え急いでメルトのもとへ向かっていた。ウィル一人であれば古代魔法を使用し瞬時にメルトのいる場所へ行くことが可能であるが、今はラスを連れているため不用意に見せる訳にも行かず地道に細い路地を走っていた。ただの少女であるラスにはウィルの速度について行くことはかなり辛い事だが、今は早くメルトの無事を確かめたい一心で必死についてきている。

 

「小さいっ、頃から……、この北西部は危険な場所だと両親から聞いていたのですが……っ、先程から特にそんなことは起きませんね……っ」


「街の他の場所よりも警備の目が行き届きにくい分犯罪が起きやすそうですが、頻度自体はそこまで多くないのかもしれませんね」


 不安を感じさせないようにそうは言ったものの、先程から身なりのいいウィルとラスに悪行を働こうと暗闇からいくつもの気配が狙っているのを感じていた。ただ、行動に移そうとした者はウィルの古代魔法”紫電”により急激な電流を流され気絶させられていた。


ならず者達を迅速に対処していったためウィル達は比較的短時間でメルトの居る場所へ向かうことができた。そしてメルトが居ると思われる建物のすぐそばまで来ていた。周囲のマナから感じ取る気配ではメルトは先程から一つの場所に留まっていた。ただ、メルトを取り囲むように無数の人の気配が存在している。気配のうち二つは小さい子供のようだが、残りは大人のようだ。取り囲んでいる大人達はどうやらメルトと小さい子供二人に何かを尋問しているようだったが、直ちに危害を加える感じではなかった。ただ、三人が非常に危険な状況に置かれている可能性が非常に高いためウィルは急いだ。


「ラスさん、こっちへ!」


「ウィルさんっ!?」


 メルト達がいる建物を目視できる位置まで来たウィルは咄嗟にラスの手を引っ張って路地の隙間に身を隠した。引っ張られたラスはウィルにそっと受け止められ、彼の背中の方へ押し込まれる形となった。


「あっ、あの、ウィルさん!?」


「静かに」


 咄嗟の出来ごとに頭が真っ白になり思わず声を上げてしまったがウィルに手で口を塞がれた。ラスは急にどうしたんだろうとウィルの顔を見つめた。彼の視線は鋭く前方の建物の入口の方へ向いていた。建物の入り口には両脇を固める屈強な男二人が直立している。その建物は何かの重要な施設なようで、扉の前以外にも無数の見張りが存在していた。集中して気配を探るとこの建物にはかなり多くの人が存在しているようだった。


「~~~~~~~っ!!」


 その時、内容までは聞き取れなかったが中から女の子の声が聞こえてきた。気配を探れるウィルにとってはそれがメルトのものだということがすぐにわかったが、ラスは少し経ってからそれが聞き慣れた声だということに気付いたようだ。


「もしかして、あの中にメルトが……?」


「どうやらそのようですね。やはり何かの厄介事に巻き込まれていたようです。」


「そんなっ……、早く助けに行かないと!」


メルトの声を聞いて堪えてきた感情に耐えられなくなったラスは、建物に駆け出そうとした。それをウィルが手で制する。


「待ってください。今確認できるだけでも結構な数の見張りがいます。このまま飛び出していくのは危険です」


「でも、どうすれば……」


(ラスさんがいなければ魔法を使って見張り役をどうにかできるけど、迂闊に他人に魔法のことを見られる訳にはいかないしな……。どうしたものか)


 魔法はただでさえ使用する人が少ない上にマナを使用した古代魔法を使ったとあっては目立ちしてしまう。潤沢なマナで古代魔法を駆使すれば安全かつ容易にメルトを救出できるがウィルは渋っていた。


(少しだけの身体能力の強化くらいならできるか)


「ラスさんはここで待っていてください。俺がメルトを連れてきます。」


「それではウィルさんが危ないです!さすがに私達のせいでウィルさんを危険な目に合わせてしまう訳にはいきません……」


「大丈夫です。こう見えてそこそこ腕には自身があるんですよ?」


ラスに向かって微笑み、気付かれないように僅かばかりのマナを使用して自らの身体を強化するウィル。


身体の強化が終わるとまず扉の両脇に立つ屈強な男達二人に目を向けた。ウィルも人並みには背丈があるがそこに立つ男達はウィルよりも頭1個半ほど大きく、また体格もがっちりとしていてそれなりに腕が立ちそうであった。手にはそれぞれブロードソードと棍棒を持っており、周囲に細かく注意を払っていた。その体格や目付き等の雰囲気から普通の人であれば気迫に圧倒されてしまうだろう。


(二人だけならなんとかなるか)

 

 しかし、ウィルは特に臆することもなく平然と二人の男を見つめている。


「いいですか?絶対に俺がメルトを連れてくるまでここを動かないでください。絶対になんとかしますから」


「ウィルさん……、わかりました。ウィルさんを信じます。」


 ラスに絶対にここを動かないようにと釘を刺すと、早速メルトを助けるため行動に移った。ウィルはまず扉の右側に立っている男の近くに落ちていた小石を投げた。天高く投げられた小石は少し経ってから右側の男から更に建物一つ分くらいの地面にかかんっと音を立てて転がった。すると予定調和というべきか二人の男達は本能的に小石が落ちた方を向いた。ウィルはその隙に瞬時に扉の左側の男の後ろに移動し、男が声を発する前に後ろから左手で喉の声帯部分を強く押さえた後にすかさず右手の掌底で力強く男の顎を打った。男は糸の切れてしまった操り人形のように力なく膝から崩れ意識を失った。そのまま男が倒れて音を出してしまわないように、ウィルは左手で男の襟を掴みつつ右手で胸元を抱え込みそっと地面に横たわらせた。一人目の男を無力化したウィルはもう一人の男にまだ気付かれていないことを確認するとその後ろまで音を立てずに疾走し、後ろから相手の顎を引くようにして上に押し上げるとそのまま顔面を掴み後頭部から地面に叩きつけて気絶させた。人体というのは不思議なもので、こうして顎を持ち上げられて筋を伸ばされると踏ん張りが全く効かなくなる。男はなんとか踏みとどまろうとしたが全く力が入らずにいとも簡単に体勢を崩された。


 ここまでの出来事は僅か数秒の間に行われ、そのあまりの手際の良さにラスは目の前の出来事をただぽかんっと口を開けて眺めていることしかできなかった。ウィルは遠くから大丈夫、安心してと言わんばかりにもう一度微笑むとそのままメルトの声がした建物の扉をゆっくりと開き、その中へと進んでいった。

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イマテカ倉庫の蒼き星の守護者のキャラクター紹介ページ(キャラ絵有り)です
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