—06— 初めての技能検定
【前回までのあらすじ】
気軽に仕事を紹介するつもりでウィルをシャムロックに連れて行ったメルトだったが、姉の口からギルドを畳むことを告げられ衝撃のあまり飛び出して行ってしまう。ただ、いつまでも落ち込んでいても仕方がないと歩き始めたところで近所に住んでいるアレンとサーシャが顔つきの悪いゴロツキ達に追われている所に遭遇する。ゴロツキ達が大切な飾り物を奪おうとしていることを聞いたメルトはゴロツキ達から二人を守りつつ一緒に街の裏路地へと走り抜けていった。
時間は少し遡り、ウィルは総合技能検定所に来ていた。ラスから教えてもらったとおり総合技能検定所では低い等級なら王国の奨励金により無料で受けることができた。ウィルは早速2等級のディガー検定の受験を受け、今はその合否の発表を待っていた。
ディガーには等級あり、等級が上がるにつれて許可される行為が増えていく。等級は1から始まり10が最も高く、10等級では未踏の遺跡での探索や未解明のオーパーツの所持、研究など様々なことが認められる。ウィルが今回受けた2等級では、調査がほぼ完了して安全が確保された遺跡のみ立ち入ることが許される。オーパーツに関してはその効果が完全に機能が解明され危険性が無いもののみ所持及び使用が認められる。2等級ではまだできることが限られるが、無料で受験できることを考えればかなり有益な資格である。2等級の検定は幅広い遺跡やオーパーツの知識が求められるものの、必要とする知識は大半の専門の学校や参考書などで習得可能な程度で、記憶が得意なウィルにとっては余裕であった。そのため、ウィルはただ退屈そうにただ資格の証明書の発行を待つためのものであった。
薬の調合師や農業、漁業などの生産職、鍛冶師や彫金師などの工業職と比べ、ディガーの収入は不安定でピンキリである。遺跡の案内やオーパーツの指導などでも収入が得られるが、そういったことで得られる賃金はそれほど高くない。しかし、優れたディガーになれば新種のオーパーツの発見による報酬や国から依頼される未知の遺跡の調査料等で莫大な収入を得ることができる。そのようなディガーはほんの一握りだが、多くの人はそれを夢見てディガーを目指す。また、金品以外に純粋な古代文明の興味でディガーになる人も少なからずいる。
ウィルはこの街に来るまでは旅をしつつ、その途中で遺跡に潜ってこっそりとオーパーツを発掘するといった行為を繰り返していた。ただ、発見されている未解明の遺跡では大抵そのような違法行為を取り締まるために守衛が配置されているため入れなかった。そのため、守衛がいない遺跡ばかりを狙う訳だが、そのような遺跡はほとんどが調査済みで発掘もされ尽くしているためめぼしいものはほぼ無かった。
しばらく待っていると合否の発表及び合格者に対する証明書の交付が始まった。喜びと落胆の声が沸く中、ウィルはその手に2等級のディガーの証明書を受け取っていた。
「はぁ~、これでひもじかった日々から解放される……ラスさんに感謝だな」
これで仕事ができる、お腹を空かせなくてすむ、ついでに遺跡に潜ることができるという、今までの辛さから解放されたウィルは思っていたことが口から洩れた。
「さてと、これで仕事は見つかるようになるかな。とりあえず教えてくれたラスさんにお礼にだけでも言いに行くか」
メルトの様子が気になることもあり、ラスにお礼を言いに行くためにウィルは総合技能検定所を後にしてシャムロックへ向かうことにした。