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蒼き星の守護者 ~星を救う英雄と英雄を殺す少女の物語~  作者: りの
ウィル編 第一章 ~陽だまりの街と白詰草~
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—04— ギルド シャムロック

【前回までのあらすじ】

 シャムロックへ向かう道中ウィルはメルトから傭兵になりたいのかと尋ねられる。ウィルは戦いは苦手だと説明し、オーパーツや遺跡の調査がしたいと伝える。それにしては持っている刀は大袈裟ではないかというメルトに、とても大切なもので持ち歩いていると言うウィル。刀を見る悲しそうな表情を見たメルトはそれ以上追及することをやめ、自身が持つ両親の形見の短剣をウィルに見せた。そして互いのことを話していくうちに二人は次第に打ち解けていった。

「お姉ちゃーん!帰ったよー!」


 街を照らす太陽が真上に差し掛かる頃、ウィルとメルトは3つ葉の紋章の旗のある建物の前にいた。メルトによるとここがシャムロックの拠点だと言う。入口から建物の中に入るとメルトは早々にギルドのマスターを務めている姉を呼びに奥へと走っていった。

 一人ホールに残されたウィルは建物の内部を見渡した。なかなか立派な建物で、今いるホールの他に依頼主の応対をするための応接室、チームのミーティングを行うであろう小部屋、その他にいくつもの部屋があった。3階建てではあるが建物の中央に位置するこのホールは吹き抜けとなっていて、更に天井がガラス製のため陽の光に照らされていて開放的な雰囲気がある。

 メルトが言っていた結構大きなギルドというのはどうやら本当のようだ。しかし、今は閑散としており人の気配が無く、建物の大きさがより寂しさを助長している。メンバーが酒を飲み交わしながら依頼の達成を互いに労ったり、依頼などの情報を交換したりする情景が思い浮かぶバーカウンターには人の姿が見えない。ホールの奥にある巨大なコルクガシ製の掲示板にも依頼書が3枚張り出されているだけだった。その依頼書の内容も“迷子の犬を探してほしい”、“擦り傷によく効く薬を調合してほしい”、“猪の肉を調達してきてほしい”といったような軽おつかい程度のものしかなく細々と活動しているようだった。

 ウィルが依頼書を眺めながらしばらく待っていると、奥の部屋からメルトともう一人の少女が歩いてきた。少しだけ幼さが残るメルトとは対照的に、どこか落ち着いた雰囲気を持っている。胸の下まである長い髪を緩く結った三つ編みが歩くたびに左右に揺れる。透き通った蒼い空のような色をした髪と瞳、可愛らしい顔はメルトと非常に似ている。腰付近に巻かれている大きなリボンが特徴的な服を着ているが、生地の材質や色はメルトと共通するものが多い。


「私はこのシャムロックでマスターをしているラスと申します。あなたのことは妹のメルトから聞きました。仕事を探しているとか」


 メルトとよく似ていると思いウィルはラスの顔を見つめたが、ラスが困ったような顔をしたため慌ててここに来ることになった経緯を説明した。

 ギルドにおけるマスターの仕事は主に経営であり、ギルドが受ける依頼や依頼の報酬を管理し、依頼を担当や報酬の取り分などを決定する。大抵のギルドでは場慣れした中年以上の人がマスターを務めている。ウィルが見てきたギルドも例外なく中年男性ばかりであったため、自分より年下に見える少女がマスターをやっていることに少しばかり驚いていた。

 技能検定を持っていないことも含めウィルは正直に話した。その言葉をラスは真剣に頷きながら黙って聞いていた。ウィルが話し終えるとラスは申し訳なさそうな表情で弱々しく口を開いた。


「本当にごめんなさい。ウィルさんを雇うことは厳しそうです……」


「あ、あはは。そうですよね!いきなり見ず知らずの何も技能検定持ってない僕を雇うのは厳しいですよね……」


ラスに告げられ、ウィルはやはりここでも同じか、と落胆した。しかし、話を聞いてみる理由は違った。ラスはどうやらもうすぐこのギルドを畳もうと思っているようだった。もともとこのギルドはラス達の両親が経営していた。ラスの両親が経営していた頃はその手腕もあり多くのメンバーが在籍して王国に名を馳せたギルドだった。しかし、その両親が数年前に不慮の事故で亡くなってしまい、彼女が引き継いでからは徐々にメンバーが減っていった。今では彼女達を含めてたった4人しか在籍していない厳しい状況になっていた。ラスが言葉を選んで丁重にウィルの雇用を断っていると突如妹のメルトが大声で叫んだ。


「なんでそんなこと言うのっ!!お父さん達が遺してくれたこのギルドが無くなっちゃってもいいの!?」


 先程まで笑顔に満ちたメルトの顔は悲しみで歪んでいた。目にはうっすらと涙をうかべ、何かを言いたげにラスの目をずっと見ていた。やがて、堪えきれなくなりウィルにぶつかりつつもそのままギルドを飛び出して行った。


「すみません。見苦しいところをお見せして」


 ラスは黙ったまま寂しそうにメルトの視線を受け止めていたが、メルトが出て行くとウィルに謝罪した。ウィルはかける言葉が見つからず互いに下を向いて口を閉ざした。しばらく静寂が続いた後、ラスは自分達にとってシャムロックがどのようなものだったのかを語り始めた。


「私の両親はこのヴィオラの街の人々の幸せをいつも願っていました。困っている人を助けたり、守ったり……。人々の幸せのためにどんな些細な依頼でも経営そっちの気で受ける……。両親はヴィオラの人々から愛されていました。そして、両親を慕い多くの人々が集まり、いつしかシャムロックは王国の中でも有数のギルドとなりました。私とメルトにとって、そんな両親とシャムロックは誇りであり、周囲の人々も含めて幸せそうに過ごすこのギルドの空間が大好きでした」


 寂しそうな笑みを浮かべて壁に飾られた盾を見つめた。無数に並んだ盾にはブルメリア王国の紋が刻まれている。


「ですが……数年前に両親が亡くなり、その後は徐々に人がいなくなっていきました。あの子は怖かったんだと思います。両親だけでなく、幸せだったこの空間も無くしてしまうことが……」


ラスは寂しげな表情のまま、すみません……今日あったばかりの人にこんな話をして、と言って話を終わらせた。仲の良さそうな姉妹が気まずくなるようなきっかけを作ってしまったウィルはなかなかかける言葉が見つからなかった。


「……生まれ育った居場所が無くなるのは辛いですよね。俺も今まで住んでいた場所にいられなくなって家出してきたので」


「そうだったんですか!?それは大変でしたね……。ずっと一人で旅してらしたんですか?」


「ええ、行く宛もなく気の向くままにオーパーツを探していろんな遺跡や街に行ったりしていました。無計画すぎて所持金が無くなっちゃってこの街で動けなくなっちゃったんですけどね……」


「ふふっ、ウィルさんて頭良さそうに見えるのに意外とドジなところあるんですね」


特に面白いことを言ったつもりはなかったが、ウィルは初めて見たラスの笑顔にひと安心した。


「自分のせいでこんなことになってしまって本当にすみません……。メルトはただ俺を助けようとしてくれただけなんです」


「いえ、私が悪いんです。あの子の前でそういうことを言ってしまったことが迂闊でした。とても今敏感になっているのに……」


「俺、探してきますよ」


「いえ、メルトなら大丈夫です。きっと夕方くらいにはお腹を空かせて戻ってきます」


ラスはメルトのことを心配しつつも強く信頼しているようだった。


「そういえば、仕事を探してるんでしたよね!それでしたら、西側の通りにある総合技能検定所があります。そこで検定を受けて証明書を貰ってきた方がいいですよ。きっと低いランクなら王国が奨励金を出していて検定料もそんなにかからないと思うので」


 ウィルの目的を思い出したラスは技能検定のことを説明した。話を聞くと、やはり仕事を探すには検定を受けて資格を取得することが一番の近道であるようだ。


「その技能検定所って言うところに行けば、誰でもすぐ受けられるものなんですか?」


「はい。日中ならいつでもやっているので、お金さえあれば簡単に受けることがますよ!ちなみにどんな仕事を考えているんですか?主な技能の検定は総合技能検定所で受けることができるんですが、ものによっては別の街に行かなければならないものもあるので……」


 “お金”という言葉を聞いた瞬間にウィルの頬が引き攣った。とりあえず話だけでも聞こうと思い。ラスに遺跡や未開の地に赴きオーパーツ収集するような仕事がしたいと伝えた。


「それでしたら、ディガーですね。だったらこの街で受けられますよ!ディガーは遺跡やオーパーツといった危険なものを多く扱うので、それらを適切に保管、使用できるだけの知識が求められます。とは言っても、奨励金によって無料で受けられる等級は下から2までなので、勉強すればすぐに取れると思いますよ。」


 無料で受けられるという言葉に強く反応するウィル。”ディガー”の検定も自分が得意としている知識の試験であったため安心した。


「無料で受けられるんですか!?これで生きていくことができるっ……。ラスさん本当にありがとうございます!」


「もうっ、ウィルさんたら大袈裟ですね」


 よほど嬉しかったのか、大袈裟に感謝してくるウィルに思わずラスは笑った。その後も少しだけラスと話したウィルはメルトのことを心配つつも長居しては悪いと思いシャムロックを出た。”頑張ってください!”と優しく送り出してくれたラスに手を振り、ウィルは総合技能検定所に向かった。


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イマテカ倉庫の蒼き星の守護者のキャラクター紹介ページ(キャラ絵有り)です
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