恋が終わる。
別れは本当に突然すぎる。
最終章の終わりがこんなので、申し訳ありません。
翌週、俺は加奈の家に来てみた。
トラックが家の前に停まっていて、沢山のダンボールに入った荷物が積み込まれている。
俺は、涙を堪えた。
「想太君も、来たの?」
ふいに、後ろから声がした。
「み、美咲さん? それに、紗枝さんも! …遥も…」
後ろを振り返る。
綺麗な髪がなびいて、涙までも伝わってくる。
俺は、寂しくなった気持ちを悟られないように、そっと加奈の家を見上げた。
そして、思い出す。
始めて会った日を。
◇◆
その日は、入学式で、俺は桜の咲き誇る校庭を歩いていた。
六年生が、入学式が始まるまでの間、一年生の教室で世話してくれた。担当してくれたお兄さんは、優しそうな人で、かわいらしい顔立ちをしていた。
そのとき、そのお兄さんは囁くように言った。
「後で、僕の妹が演奏するから、見ててね」
俺は、その言葉で、演奏が楽しみになったのだ。
演奏中はどうにもその人の妹なる人物を探そうと思って、演奏に集中するまでもなく、皆の顔をくまなく見ていた。
お兄さんは、人懐っこい笑みを浮かべていて、どこか生活が楽しい、と思っているような笑みも含んでいた。
そして、俺は似ている人を見付けた。
人懐っこい笑みを浮かべて歌っている、ツインテールの可愛い女の子。
それだけで、好感を覚えたのだ。
所謂、一目惚れ、というものだろう。
それが、加奈だった。
◇◆
長かった片想いを経て、ついに両想いになった。
俺は、そのことが嬉しくて、一年前の自分を笑ってやりたくなった。
だけど、今日、つい数ヶ月前の俺に、嘲笑われる日になった。
調子乗ってんじゃねぇよ、お前がもっと大事にしてれば、今頃加奈は…。
涙が浮かんでしまう。
横を見ると、美咲さんも、紗枝さんも、遥君も泣いていた。
そして、莉以君も。
「莉以君…」
美咲さんの弟、莉以君は、今までに無いくらい号泣していた。
「加奈さん、加奈さん!」
嗚咽を繰り返して、ポタポタと、水滴がアスファルトに滴り落ちる。
「もっと、仲良くなってれば良かったのに、何で、何で…」
仕事の都合と知っていながらも、もっと何か方法があったんじゃないか、と考える莉以君を見て、俺は思った。
莉以君はもしかして、俺よりも加奈のことを想っていたんじゃないだろうか。
片想いでも、決して振り向いてもらえなくても、それでも想っている莉以君の立場を、俺は理解出来なかった。
でも、今からは、莉以君の立場になるんだ。
加奈はもう、俺のことは好きではないのかもしれない。
けれど、それでもずっと想っていることこそが、本当の「好き」じゃないのだろうか。
夜になって、俺は加奈に電話した。
俺と同じ都内だけれど、俺のお爺ちゃん家よりも遠い場所に引っ越すのだと言う。
「加奈、俺」
部屋の中で、規則正しく、時計の針が動く音がする。
『想太?』
電話越しの相手は、俺を呼んだ。
「か、加奈…」
さっきと同じように、涙が浮かぶ。
昨日聞いた声なのに、まるで何年ぶりかのように聞こえてくる。
でも、これからは学校内でこの声を聞くことは無くなる。
『私、すっごく寂しいよ。今まで東麻呂市で、皆で楽しく過ごしてきた日々が、まるでついさっきのように思えてきちゃうんだよね』
「うん…」
俺は頷く。電話越しに聞こえる声は、いつもとちょっと違う。
『想太と初めて出会った、入学式。
想太を好きになった、あの日。
一年の頃同じクラスになって今までずっと親友だった、ミサちんとさえっち。
好きな人を二人に話した、あの日。
綺麗な花火が、誘拐犯のせいで見れなくなった、あの日。
けれど、想太が告白&救出してくれた、今でも鮮明に思い出す、あの日。
私の大好きなゲームのオフ会に、スーツを着て出演した想太を笑った、あの日。
遥君が転校してきた、あの日。
運動会や、キャンプでドキドキの三日間だったね。
クリスマスも、バレンタインも、ホワイトデーも、全部、楽しくて、嬉しくて、昨日のことのように思い出せる、出来事だったよ』
その言葉で、俺は思い出す。
どれも、四年になってから分かった事実。
四年で分かって、四年で終わった恋。
多分、今までも、これからも、決して、こんなスリルのある恋なんて、無いと思う。
「じゃあ、切るね。…あ、そうだ。
これからも、そっちに電話していい?」
俺は、小さな声で言った。
しばらくして、電話越しから、
『うん、いいよ』
という、優しい声が聞こえてきた。
一つの恋が、終わったような感じがした。
小学生の、大人から見たら、マセガキ、と思うような恋。
いつだって前に向かって必死に頑張ってきた、恋が。
番外編を出す予定なので、まだ完結しません。




