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小学生の恋物語。  作者: けふまろ
別れ。
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別れは突然に。

「卒業式、よく頑張ったね!」

「ありがとう、想太! 来年、頑張るんだぞ!」


 遥の想い人、宮野花音が久我広樹に告白したちょうど同じ頃。

 俺は、卒業式で在校生代表として出た五年生に、特に加奈に、声援を送った。


 でも、加奈が最近、どうもおかしい。

 妙に大人しくて、何か隠し事をしている気がする。

 俺が話しかけてもどこか上の空だし、美咲さんと紗枝さんと話していても、どこか別の場所を見ている。

「どうしたの、加奈」

 俺が尋ねても、大体は「何でもないよ」と返ってくる。

 その寂しげな目は、俺すら知らない何かを知っている。


 何かあんなら、言ってよ。

 少しは、年下だからって思ってないで、頼ってよ。って、思う。

 年上だからって、年下にカッコいいと思ってもらわなくてもいいから。

 だから、明るい加奈でいてよ。



「…そういえば、想太」

 加奈がいきなり、神妙な顔付きで言った。

「…?」

 俺は首を捻る。加奈の純粋な瞳は、まさに天使のようだ。

 いつか、この眼差しが、俺だけのものになればいいのに。


「話があるの」

 

 お気楽そうな加奈には似合わないほどの言い方だった。

 何だよ、と言ってしまいそうになる口を抑える。

 こんなに真剣な加奈を、初めて見た。


「ちょっと、五年二組に来て」

 そして、俺の手を引っ張る。


 ◆◇

 

 連れてこられたのは、加奈の通う、五年二組。

「春休みが明けたら六年!」と色とりどりのチョークで彩られた黒板の前に、俺と加奈は立った。


「で、何の用?」

 俺は首を捻って、微笑を漏らして言う。

 きっと、付き合いたいとか何かだろう。

 正式なカップルになって、それから、キスする、とか…。

 そんなの、恥ずかしい…。


 って思ってたら、いきなり加奈は頭についているヘアゴムを外した。ツインテールだった髪の毛は、今はほどけてサラサラのロングヘアーになっている。

 そして、ヘアゴムをブレザーのポケットに閉まって、真剣な眼差しでこちらを見つめた。

「え、何、加奈、どしたの?」

 俺は加奈の無言髪ほどきに多少の驚きを感じていた。


「いつか、言わなくちゃとは思ってた」

 

 その瞬間、俺は分かった。


 加奈の言いたいことが。


「分かってる」


「え?」


 俺の言葉に驚いたのか、加奈は一瞬一歩身を引いた。


「もう、好きじゃない…でしょ?」

 

 俺はにこやかに微笑んだ。


 やっぱり、そういうことだとは思った。

 

 神妙な面持ちで、振られてしまう前に、出来れば自分から、想っていたということを伝えたい。

 今でも、俺は、加奈が好きだってこと。


「でも俺は、加奈が好きで…」


「違う! そんなんじゃない!」


 加奈は叫んだ。

 俺は、驚きに身をすくめ、目を見開いた。



「私、転校するの…」



 銃で心臓を打ち抜かれたようだった。

 心を抉り取られたようだった。


 言葉に出来ない寂しさと悲しさに襲われて、涙が出そうになる。

 でも、泣いちゃ駄目。会えるのがもしかして、最後になるかも知れない加奈に、最後に、頼りがいのある後輩と思わせるんだ。


「なっ、何で、転校するの…?」


 あぁ、駄目だ。思わず涙が出てしまう。


 加奈が、微笑を浮かばせて「お父さんの、仕事の都合…」と言った。

「そんな、そんなことって」


 しゃくりあげて、しゃくりあげて。でも、まだ泣いているって、認めたくなかった。


 最後の最後まで、俺は、自分と過ごしてきた先輩に、すがりつきたかった。

 だから、見栄を張りたかった。


「だって、俺、俺、加奈と別れたくないし…。ずっと一緒に…」

 

「それは、私も同じだよ」


 加奈は涙を浮かべていた。

「終業式が終わったら転校することになるんだって。ミサちんとさえっちには言ってないんだ。だから言ってるのは想太だけだよ」

 言い終わった瞬間、加奈は泣き出した。


「私だって、皆とまだずっとずっと一緒にいたいよ! お父さんの仕事の都合でも、こっちに残ればいいっていつもそう思ってる! 友達と一緒にいたいし、想太と過ごしたいよ! もっと思い出を作りたい…!」

 

 悲痛な叫びをあげる加奈。


 俺は、どうすることも出来ない。

 だって、どうにも出来ないんだから。

 ただ、見送ることしか。



 出来ないんだったら、何も出来ないんだったら、いっそ。

 今、何かをしてしまえばいい。


「ねぇ、今ここ、誰もいないよね…?」

 俺は、喋り出した。


「え…? 誰も、いないよ?」

 涙ながらの声で、加奈が言う。


 その瞬間、俺は加奈の間近にいた。


 ハグよりもっと、上に。


 

 爽やかな風が、開け放たれた窓から、飛び込んでくる。




「想太…! な、何で」

「へへっ」


 加奈が驚きに満ちた表情をこちらに向ける。俺は苦笑いしてみせる。


「もう、やめてよね!」


 良かった、いつもの加奈だ。

「あぁ、びっくりした。もう今度から、気をつけてよね…」

 だけど、急に加奈から威勢が消えていった。

「そっか、もう、今度は無いんだ…」


 急に寂しくなった。

 そんなこと言わないでよ。

 

「え?」

 ふいに、加奈は俺の言葉に反応した。


「今、何で、そんなこと言わないでって言ったの?」

 

 あぁそうか、俺は、思ったことそのまま口に出しちゃったのか。

「何で?」

 加奈は不思議そうに尋ねる。あぁ、これからこの涙の浮かんだ顔を見るのも最後になってしまうなんて。

 いや、でも。


「電話とか、ラインとかあるじゃん! いくらでも連絡方法はあるよ!」

 俺は叫んだ。視界が思いっきり歪んだ。

「だって、それでお別れなんて…」

 それでも、泣かないように、頑張った。


「想太」

 ふいに、加奈が俺を見据えた。

「ふぇ?」

 その言葉で、俺は面食らってしまう。


「私、想太のこと、一生忘れないよ」

 

 その言葉が、どれほど、今の俺を救ってくれたか。

 その言葉が、どれほど、俺を希望へと導いてくれたか。


「ありがとう。俺も、忘れないよ!」


 そう言って、俺は加奈の手を握った。

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