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小学生の恋物語。  作者: けふまろ
花音の想い。
83/95

静香の好きな人と、デートのお誘い(?)

 私は、急いで塾に向かった。

 塾は四時半ぐらいから始まる。今は三時五十分。よし、ダッシュで家に帰ってダッシュで塾に行けば多分間に合うはずだ。


 久我先輩の言葉が思った以上に胸に突き刺さり、私はその場を後にした。

 塾のプリントがガサガサと音を立てて、私の心の内を表しているようだった。

 

 塾の受付けから、塾の教室へ急ぐ。

 四時二十五分。よし、まだ間に合う。


 教室へ滑り込むと、ざわざわ…と声がした。

 どうやら女子が固まって、ヒソヒソ話をしているみたいだ。

 私は静香の方を見る。静香は参考書をパラパラとめくっていた。

 こちらを見向きもせずに。

 まぁ、そんなことはどうでもいい。彼女が久我先輩を好きかどうなのか分からない事が分かった以上、久我先輩が蒼井静香を好きだろうが、こちらに振り向かせれば良い。簡単な事だった。

 

 でも、本当はそんな事、思っちゃいけない。

 私は、久我先輩が好き。でも、久我先輩は、蒼井静香が気になっている。蒼井静香は、久我先輩を好きかどうか分からない。

 久我先輩の恋が、叶わなきゃいいのにって、思ってしまった。

 そんな事、思っちゃ、駄目なのに。


 私は、隣に座っている遥君の方を見る。すると彼は、サッと私から目を逸らしてしまった。

 何でだろう?

 すると、開始のチャイムが鳴った。



 私は、勉強を終わらせて、お弁当を食べようと、バッグの中からお弁当箱を取り出した。

 すると、塾内でもハデと認識されている女子が、私の前を横切り、蒼井静香の机へと向かった。

 お洒落なジャージにピンク色のセーター、この寒いのにショートパンツ、茶色に染められたパーマの髪。

 その子が、縞々模様のシャツと、無地のジーンズ、元から焦げ茶の髪の毛の持ち主の静香の前に立つと、お洒落への気配りの格差が感じられた。


「ねぇ、蒼井さん」

「…あ、はい」


 私は、その会話をこっそり盗み聞きする。


「蒼井さんって、好きな人、いる?」

「え、好きな人…ですか?」

 私はご飯を箸でつまみながら静香の方を見る。見ると、静香は慌てた様子で、お弁当箱をバッグの中にしまっていた。食べれない雰囲気だと悟ったのだろう。

 そして、静香は口を開いた。

「いますけど…」

 えっ?

 私は、ご飯を箸で掴もうとしたが、あまりの驚きで、机の上に落としてしまう。隣の席の遥君は見ていないだろう。大急ぎで口の中へ運んだ。

「うそ、誰? 誰?」

 すると、静香は白く細い指先で、私を指した。

 …え? 嘘、私? まさか静香って、同性愛者?

 私は気付かれないように目を見開いた。

 だけどハデな子は、分かった、というようにニヤリ、と笑った。

「遥?」

 静香は、頷いた。


 な、なぁんだ、そうよねぇ。私じゃないわよねぇ…。


 って、え!?


 静香の好きな人って、久我先輩じゃないの?

 遥君なの!?


 私は驚きすぎて、隣でご飯を食べていた遥君の頭とぶつかった。

「ど、どうしたの宮野さん!」

 遥君は、私の様子を見て、体調が悪いと判断したらしい。

 体調が悪いんじゃない…。


 私が遥君に慌てて起こしてもらうと、ふいに、静香の声がした。


「でも、今の、見たでしょ? 遥君はきっと、宮野花音さんが好きなのよ」


 突然、私の胸はドクッと波打った。

 確かにーという女の子の声がする。

「でも私、宮野さんみたいに可愛くないし、ダサいし…」

 私の事を過大評価した静香を横目に、女の子は、「それよりもさ」と口を開いた。

「私の名前って、知ってる?」

「え? …っと、桜庭(さくらば)アリサさんでしたっけ?」

 何を言い出すかと思えば、名前か…と言った様子で、静香は答えた。

「そぉ、アリサ。有限実行の有に、花が咲くの咲で、有咲(ありさ)

 私は桜庭さんの方を見た。

 化粧っ気はないんだけど、ギャルっぽくて、ちょっと苦手な子。

 でも、信頼が厚くて、友達が多い事で有名だ。

 友達に、なれそうもないけど。

「せっかく今日から恋バナ語れる友達になったんだからさ、有咲って呼んで」

「えっと、でも…」

 静香は戸惑っている。そりゃあそうだ。普段は大人しい彼女は、人を呼び捨てで呼ばない。大抵苗字にさん付けで、良くても、名前にちゃん、君付けだった。

「あ、有…。…やっぱ、無理!」

 静香は、頬を赤くして、机に突っ伏した。

「もぉ、何でよぉ! じゃあ、桜庭から取って、「さくちゃん」でもいいよ?」

 桜庭さんは、人差し指と親指をくっ付けて、オッケーサインを作った。

「さ、さくちゃん?」

 普通そこは有咲ちゃんでしょ、という顔で静香は戸惑った。さっきよりも明らかに困っている。

「じゃ、じゃあ…。有咲さんで…」

 静香は仕方なく、と言った様子で、ボソボソッと呟いた。

「えぇ? それじゃまるでクラスメートみたいじゃん! もうちょっと気楽に行こうよ、気楽に!」

 静香が有咲さんと呼べばよっぽどの事なのだ。静香と親しい先輩にも苗字にさん付けする、と言えば分かってもらえるだろうか。


「…のさん! 宮野さん! 聞こえてますか?」

「は、はい?」


 いつの間にかすっかり聞き入ってしまった二人の会話のせいで、遥君の声がした。

「はぁ、どうしたのかと思っちゃった…。すっごいボーっとしてるんだもん。疲れてるのかなぁって思ったんだ」

 遥君はマジマジと私の顔を見つめる。

「だ、大丈夫だよ、私は」

「そう? ならいいんだけど」

 遥君は、そう言ってお弁当の方に向き直った後、「そうだ!」と呟いて、再び私の方を向いた。

「あの、クリスマス、空いてる?」

「クリスマス…? …空いてますけど、まさか…」

 もしかして、「宿題やってくれ」とか言うんじゃないだろうな。加奈さんとデートするとか? そのために宿題を私にやらせるとか無理なんだけど…。


「よかったら僕と、一緒に遊びませんか?」


「はい?」

 

 予想外の展開に思わず面食らってしまう。

 宿題やってくれのお願いじゃないのか。

「…空いてるけど…」

 どうだろうか。弟も行きたいとか言い出したら流石に迷惑だから、秘密にして置いてけぼりにしようか。…でも帰ってきたらとんでもない仕打ちが待ち受けているかもしれない。

「良かったぁ。…実は、遊園地のチケットを二枚持ってるんです。それで、もし良かったら、遊園地行ける?」

 遥君は、私を遊びに誘っているだけだと言うのに、何故か頬が真っ赤だった。

 そうだよなぁそうだよなぁ。チケットをわざわざ買ったんだもの。何かよっぽどの理由があるんだろう。


 まさか。遥君は、私の事が…好きなの?


 という考えが頭の片隅にあったが、すぐに記憶の彼方へ抹消した。有り得ん。絶対に有り得ん。


「いいよ。遊園地、楽しみだもの」

「有り難う。じゃあ、十二月二十五日、クリスマスにね」

 

 ふいに、誰かの視線を感じた。

 鋭い、殺気の含んだ視線。

 弾かれたように後ろを向くと、怒りの篭った目で、桜庭さんが見つめていた。

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