遥君と。
五年になって三ヶ月。六月の半ば。
そろそろ衣替えの季節で、半袖の上にカーディガンを着ていた私は、塾の自分の席にカーディガンをかけた。
私は何故か、いつになくどんよりしていた。
塾の食事時間。もう夜の八時だ。
おもむろに口を開いて、お母さんお手製の卵焼きを食べる。
「ねぇ、宮野さん」
「ん?」
塾の同じクラスで隣の席の、立花遥君が私に尋ねてきた。遥君のお弁当を見ると、可愛らしくトッピングされている。
「何か、元気ないね。どうしたの?」
そもそも私は常時元気なんてないけど、と言おうとしたが、遥君がいやに真剣に聞いてきたので、私は答えた。
「何かね~。…ちょっと、だるいなぁって」
「宮野さんがだるいなんてね。…熱でもあるんじゃないの?」
遥君が持っていた箸を置き、代わりに私のおでこに手を置いた。
「は、遥君?」
塾一番の美少年と言われている遥君の手がおでこにあることを、果たして遥君のファンが見てたら何て思うだろう。
遥君は私が顔を赤く染めてる事を気にも求めないようで、続いて自分のおでこにもう一つの自分の手を置いた。
「ん~。熱はないみたい。何か困った事とかある? あるなら、相談して」
「…あ、あるある。困った事ある!」
困った事なら、あった。
今日、六年生が日光移動教室に行く事になった。六年生は、楽しみだよね、と先日から話していたのだが、私は何故か妙な寂しさを覚えたのだ。
そのことを話すと、遥君はニヤニヤして言った。
「もしかして、六年生の中に好きな人がいて、三日間会えないから、だるいんじゃない?」
そのとき、何故か久我広樹の顔が浮かんだ。
何でか分からないけど。
「そ、そんなわけないじゃん! 馬鹿なこと言わないでよね遥君!」
私は箸を持っていた手とは逆の手で、人差し指で遥君をビシッと指差した。
「あ~、赤くなってる赤くなってる」
「うるさい! から揚げ取るよ!」
私は自分の箸で、遥君の弁当箱に入っているから揚げをはさもうとした。
「あっ。やめろよぉ!」
遥君は弁当箱と私の箸を腕で遮断した。
「うるさい! とりあえず、から揚げは貰う!」
「はぁ? ちょっと、やめろよ!」
その机は、悩み相談から一転、から揚げ争奪戦と化した。
でも私は、何で遥君の言葉で、久我広樹の顔が思い浮かんだんだろう。




