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小学生の恋物語。  作者: けふまろ
大晦日
77/95

陽彩の過去

 私が、小学四年生だったとき。

 その頃、私達の学年で、「罰ゲーム告白」が流行っていた。

 ゲームに負けてしまった人が好きでもない誰かに告白する。

 

 私もその罠にはまってしまった一人だった。

 

  ◇◆


 三年から一緒のクラスになった山崎俊彦(やまざきとしひこ)君は、クラスを超える人気者で、クラスに五人は、彼のことを好きだと言う女の子がいた。

 私もその中の一人で、毎日俊彦君の事を見ていた。友達のアキコやマサミも、俊彦君を追っかけていた。

 姉も彼に好感を抱いていた。もっとも、姉の方は好きな人がいたらしいけど。


 でも、親友の沢野由梨(さわのゆり)は、そんな彼に嫌悪感を抱いていたらしい。

 どっちかって言うと勉強が出来ない不真面目な彼は、優等生の由梨の目に良く映らなかったらしい。由梨は何かとあると、「だからあいつは…」と説教じみた事を言った。

 天然パーマでセミロングだった由梨は、勉強が良く出来て、男子に注意する、いわゆる「仕切りたガール」だった。

 男子が掃除時間中にふざけていると、「ちょっと男子! 真面目に掃除して!」と注意していた。

「うっせぇなガリ勉!」と男子に言われていた由梨は、実は密かに男子人気の高い女子だった。

 由梨の目に、掃除時間中に黒板消しを教室で叩いて周りの空気を濁ませて笑う俊彦君は、「KY男子」としての認識だった。


 そんな俊彦君が、お父さんの仕事の都合で引っ越してしまう事になって、女子は殆どの人が大騒ぎだった。

 お別れ会の時に、私は宝探しをやりたいと必死で挙手した。そして挙句の果て、「生意気、ジコチュー」と、クラスの女子ボス、小池さんに言われる羽目になった。


 そして、お別れ会が終わり、クラスの皆が俊彦君を囲んで給食を食べていたとき、突然、おかわりにと給食のワゴンの方に行った私の腕を掴んで、俊彦君はこう言った。


「お前が好き」


 って言われた。

 私は叫んでしまった。

 小池さんと由梨に、俊彦君に腕を捕まれる様子を見られてしまった。途端、二人は全く同じ顔をした。多分真意は違うと思うけど。


「ちょっと、二人で何の話してんの? 何で腕掴まれてるのよ!」


「陽彩、早くその人から離れた方が良いわよ!」


 二人の言葉が遠くで響く。

 私は、その日、ボーっとしながら一日を終えた。


 そして、俊彦君の引越しの日が来る。

 いつか俊彦君と由梨と私の三人で遊んだ俊彦君の家の前に、トラックが停まってる。

「俊彦君!」

 私は車に乗り込む俊彦君に手を振った。今日は小池さんが来て騒がしかったが、門限がどうのこうので帰っていった。俊彦君ガチ勢の彼女にとっては珍しい行動だった。

 由梨は「じゃあね」と言って帰っていた。その後ろ姿が、どこか寂しそうだった。


「この前は告白してくれて有り難う! あの、それで、その告白について…」


 私は俊彦君に向かって言った。突然風が吹き、私のスカートをなびかせた。俊彦君の髪の毛も風に揺られてなびく。綺麗な髪がなびく光景を見るのも、これが最後だと思った。


「告白…? あぁ、あれ嘘だよ?」


「え?」


 二人だけの場所で起こる沈黙。


「じゃあ、あれって…」

「罰ゲーム告白だよ。この前ゲームで負けちゃってさ」


 罰ゲーム告白…? 最近私の学校で流行っている…。


「え、じゃあ、俊彦君、他に好きな人がいるの?」


「いるよ」


 その瞬間、私の、いや、皆の恋が終わった。


 あまりにも悲しかった。その想いが、私だけ知っているなんて。


「誰? …教えて」


 本当は、教えてほしくなかった。

 けれど、私の中で、失恋した事が容易に分かっていたから、聞く事に、恐怖を感じなかった。


「…まぁ、いつもの俺なら、教えないところだけどな。引っ越しちゃうから、陽彩にだけ教える。皆に言っても別にいいけど」

「いいから早く教えてよ」


「沢野由梨」


 その瞬間、私の心臓が跳ね上がった。


「嘘…」

「嘘じゃない。…でも、君の事は、可愛いと思っていたよ。今までありがとう。じゃあね」


 そう言って、俊彦君は行ってしまった。

 絶望した私の胸を抑えて、泣く泣く帰った。



 そして私は、その日から由梨と一緒に帰らなくなった。


「ねね、陽彩。今日、一緒に帰らない?」

「嫌だ。由梨、嫌いだから」


 そう言って、無視するようになった。

 そんな事しても、無駄なのに。


 結局、小学校卒業まで、由梨とは絶交状態だった。


 そんなある日、大事件が起きた。


  ◆◇


 由梨と同じ一中に通うことになった私は、切っても切っても切れない縁がもどかしくなって、徹底的に無視を続けた。


 だが、二学期の途中に転校生が来て、それが大騒ぎになった。


 山崎俊彦。

 

 由梨が好きだと言って去ってしまった男の子。


「皆さん、お久しぶりな方もいると思いますが、山崎俊彦です。父親の仕事の都合でまたこちらに戻ってきました」


 会釈をした俊彦君を、小池さん達は目をハートにして見つめた。

 だが、その瞬間、私の胸は飛び跳ねた。


「ちなみに僕は、二年二組の陽彩さんが好きです! 付き合いたいでーす!」


 その言葉に、俊彦君に目を奪われていた女の子が、私の方に向き直った。

「マジ? 何であいつが?」

「あいつ、小学校の頃、全然目立たない奴だったのに。俊彦君の彼女になろうなんて百万年早いわよ!」

 小池さんが騒ぎ立てる。

 私は、涙目になりながら、保健室に駆け込んだ。


 私はその日一日を保健室のベッドの中で過ごしていた。

「どうする? もうそろそろ帰る?」

 保健の高橋先生が私に尋ねた。保健室の先生特有の良い香りがする。

「はい。もうそろそろ帰ります」

 私は出された緑茶を飲みながら言った。

「流石に、イケメン転校生に壇上で「好きだ」なんて言われたら、誰しも恥ずかしくなっちゃうわよね」

 先生は、私の頭を撫でてくれた。

「山崎君とは、知り合いなの?」

「はい。小学四年生まで、同級生でした」

 先生の言葉に、私は答えていた。喋っている自分を信じられないとさえ思う。

「彼はモテていて、ファンクラブが出来るほどでした。ですが、私の親友の由梨は、掃除時間中にいつもふざける彼を、これでもかってくらい嫌っていました。

 そんな彼が転校すると聞いて、私達はお別れ会を開いたんです。その給食時間中、急に告白されたんです。

 だけど、それは罰ゲームだったみたいで。本当に好きだったのは由梨だって言ってました。悔しくて私、由梨を卒業まで無視したんです。本当にひどかったなって思いました。でも今更何で無視されたのか分からない由梨と仲直りするのは難しい気がして。

 そんな中、俊彦君が帰ってきて、私はちょっとびっくりしました。由梨に猛烈なアプローチをするのかなって。でも、私に告白してきて、すごい嬉しかったし、本当に驚きました」

 私は毛布を体に掛けた。保健の先生は考えて言った。

「じゃあ、もしかして、俊彦君の事好きだったの?」

「はい」

 すると先生は、頷いて「両想いじゃない」とニヤニヤしながら言った。

「そうなんですけど、由梨との関係がちょっとギクシャクしてるところが気になったり、女子に何て言われるか怖くて…」

「まぁ。そうよねぇ。人気者に告白されたら誰だって驚くし、恥ずかしい気持ちがあるわよねぇ」

 先生はそう言って、書類に目を通した。

 私はその書類を見る。どうやら教育委員会へ向けての物みたいだ。

「私、この前から友達になった女の子がいるんです。その子、俊彦君を好きらしくて…。どうしよう、仲が悪くなったらどうしようって思って…」

 私は布団を自分の頭まで押し寄せて被った。涙まで浮かんできてる。


「じゃあ、私から担任の先生に相談しておこうか?」


 保健の先生が、いきなり言った。

「え?」

 私は思わず尋ねた。尋ねずにはいられなかった。

「私が、担任の水井(みずい)先生に言っておくわ。それまで貴方は、ここで待っててね。…あ、本があるんだけど、読みたい?」

 一気に喋ってから、先生は本棚に置いてあった「思春期の話」という本を取って私に渡してくれた。

「ごめんね。保健室だから、貴方達に流行ってる、ケータイ小説とかはないけど、これで、俊彦君の気持ちも分かっちゃうかもしれないから、読んでみて」

 先生はにっこり微笑むと、扉から姿を消した。


 辺りは静寂が訪れていて、私は寂しくなってハァ…と息を吐いた。

 仕方なく、「思春期の話」という本を読もうとした。



 その時だった。

 あの人が現れたのは。


「すいません、あの、二年一組の森住尚夜(もりずみしょうや)です…。足を捻挫して…。…あれ、陽彩さんだけ? ねぇ陽彩さん、保健の先生は?」


 彼は森住尚夜。眼鏡をかけた真面目そうな、一組の優等生。一年の頃由梨に片想いしていたとか。何でも、由梨と同じ塾だったらしい。

「いない…けど…」

 私は優等生の彼に尋ねられた事に、胸がちょっとドキン…とした。

「そっか…。…あ、ちょっと話してもいいですか?」

 気を取り直した森住さんは、私の隣のベッドの上に座って、ちょっと元気そうに言った。

「はい。…私で良ければ、何でも…」

 おずおずと答える私に、森住さんは何故か申し訳なさそうにしながら、恥ずかしそうに言った。


「さっきの朝会で、告白されましたよね。あの時、どう思ったんですか?」


 私の胸は、再度飛び跳ねた。

 もうあの時の事は二度と思い出したくない。

 そう思い、私は視線を彼から遠ざけた。

「その事に関しては、ノーコメントで…」


 私の言葉に、それ以上森住君は追及してこなかった。なんていい人なんだ。


 やがて彼は、自分のことを話してくれた。

「僕、実は、沢野由梨さんが好きだったんだ」

 唐突に、しかも好きな人の事について話し始めた森住さんに、私はちょっと驚きながら、相づちを打った。

「知ってる。お似合いだよ」

 私は、優しく言ったつもりだったが、実際出た言葉は、ひどくぶっきらぼうでくぐもった声だった。

「お世辞言わなくていいよ。…きっと皆、優等生の沢野さんと僕なんて、不釣り合いだって笑ってるんだよ」

 そんなことはない。皆、影でお似合いだと言って、由梨を困らせていた。


「だけど、つい先日、沢野さんに好きな人誰って聞いたら、「山崎俊彦」って言ってた」


 !!!!


 私の心臓が、これまでのどれよりも大きな音を立てて飛び跳ねた。


 両想いだったの…?


「その時、僕の恋は終わったなって思ったんだ。四年生の頃から遠くに離れてしまった彼を想っている沢野さんは、相当根強いって事なんだ。

 今まで、沢山の魅力的な男の子に出会ってるはずなのに、それでも引っ越してしまった山崎君を想ってる沢野さんだから、きっと、冴えない僕に振り向いてくれないって思った」

 私は、抑え切れない心臓を、手で押さえて、話を聞いた。

 にしても今、超カッコいい事を森住さんは言わなかった?


「だから、彼女の幸せを願う事にしたんだ。…きっと、彼女は幸せに今後を送れるって。

 けれど、山崎君が転校してきて、しかも、陽彩さんが好きだって言ってくれたから、僕の恋にも希望が差し掛かってきたなって思ったんだ。

 でも、由梨さんを見た時、彼女は涙を流していたんだ。泣きたくなるのを抑えてた。

 だから、どうしても、由梨さんの恋を叶えてあげたくなった。もしかしたら陽彩さんは、山崎君を好きなのかもしれない。…でも、カップルにはならずに、両想いってだけでいてほしい。そうしてくれたら、由梨さんは、もしかしたらって希望を持てるかもしれない。

 だから、お願いします…」


 必死な彼を見て、私の心は揺れ動いた。

 森住さんは、きっと、本当に、由梨の事が好きなんだ。

 だから、例え自分と由梨が結ばれなくても、それでいいと思ってるんだ。


 本当にその人の事が好きなら、相手が幸せだと思うことをしてあげたいと、思うのだと言う。

 例え自分が、幸せじゃなくても。


「だから、お願いします。…一生のお願いです。

 どうか沢野由梨さんを、幸せにしてあげてください」


 森住さんは、ギュッと自分のズボンを掴んだ。

 その手に、涙が滴り落ちるのを、私は見た。


 本当に、由梨が好きなら。

 本当に、由梨の幸せを願うのなら。


 この人は、本当に、偉くて、優しくて、人の事を第一に考える、とってもいい人だと思う。


   ◇◆


 一年が経ち、私達は何事もなく卒業した。

 由梨は名門私立高校に進み、私、俊彦君、小池さん達、森住さんもそこを猛勉強して受験した。私、俊彦君、森住さんが受かり、小池さん達の所は、学年トップ10に入る頭が良い人だけが受かった。残りの人達は全員近くの高校に入学した。


 私は、名門私立高校、聖栄(せいえい)高校に入学した。聖栄高校の制服は茶色のブレザーにチェックのスカート。可愛くて、由梨に良く似合った。


 心機一転、私は由梨と仲直りする事を決めた。

 絶交してから六年が経った。

 私は、由梨に話しかけた。


「あのさ、由梨…」

「何?」


 駄目だ。もう、クラスメートみたいな存在になっている。


 でも、また親友に戻るんだ!


「ずっと前、無視してごめん! あの時、由梨に嫉妬してたの!」


 突然の事に、由梨は驚いた様子だ。そりゃあそうだろう。


「ごめんね! 本当にごめん!」


 由梨は、私の迫力に押されたのか、微笑を漏らして言った。


「いいよ。私も、仲直りしようと思ってたの」

 その言葉に、私の涙腺は潤んできて、由梨に抱き付いた。

 そして、ちょっと泣いてしまった。


 こうして抱き付いたのも、六年ぶりだった。

 久しぶりの感覚に、私は懐かしい気持ちを感じながらも、ひたすら涙を流していた。



 それから私は、由梨に全ての事を話した。

 由梨と俊彦君が両想いだってこと。森住さんが由梨の事を好きだと言っていた事を。

 全ての事実に、由梨は驚いたようだった。


「でも、こうして六年ぶりに由梨と仲良く話せて良かったよ」

「うん。そうだよね。私も同じ」

 でも森住君の話は驚いたよー、彼は結構モテるからー、と駄弁りながら高校からの帰り道を歩いた。


 それから一年経った二年。

 私は、俊彦君と付き合った。由梨は、森住さんと付き合った。無事両想いになったらしい。


 そこから大学に進み、私達は決して別れることなく、同棲もして、ラブラブな状況だった。


 大人になった今は、同棲もやめて、実家で暮らして近況を語り合っていた。俊彦君は大企業の正社員。収入はかなりあるらしい。

 直々結婚するから、と両親に言って、「いつ結婚するのか分からないわ」と呆れさせて、でも私は、大企業の正社員でイケメンの山崎俊彦君と結婚する事になってるから大丈夫。


 そう、信じていた。


 由梨の妹と、街中を歩いているのを見かけるまでは。


 由梨の妹、由実(ゆみ)は、由梨に似て、美人だった。

 おまけに仕切りたがり屋ではなく、幼い頃から周りの空気を読める温和で優しい女の子だったので、当然由梨のように、いや、由梨以上にモテたらしい。


 そんな彼女に、俊彦君が惹かれたわけだ。


 私はキレて、街中でイチャつく二人に向かって突進していった。

 お洒落なカフェで別れ話を持ち出した私に向かって、俊彦君はコーヒーの入ったカップを投げた。熱いコーヒーが、お気に入りのブラウスや、顔にかかって、俊彦君に怒鳴ろうとした。

 だけど、俊彦君と由実ちゃんは、既に逃げ出していた。


 


 以来、由梨とも、由実とも、俊彦君とも、頼れた森住さんとも、誰とも連絡を取らずに、引き篭ってしまった。

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