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小学生の恋物語。  作者: けふまろ
大晦日
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誰が説得しに行くか…。

 居間で俺は休んでいた。

 出されたお菓子は、「孫だから特別に」と言う祖父母のご厚意で頂いた物だ。

 父親はスマホを持ってPTAの仕事をしている。会長も副会長も、九割が女性のPTAは、男性がいる場所としてはキツイ。

 でも、家事は母親担当だし、収入源は母親だ。アイロンで火傷する父親は家事なんて到底無理だ。

 仕事で一生懸命頑張っている母親に代わって、父親は学校の仕事をしてる。

 そうして成り立っている森川家は、とても平和だった。母親が父親に指図するけど、父親は「それでこそ桜花だ」と言ってるからいいと思う。


「陽彩、出てきなさい」

 二階からお婆ちゃんが説得する声が聞こえる。

「せっかく桜花が来てくれたんだからな。出てきなさい」

 お爺ちゃんが怒ったような声で言う。

「出てきなさい、陽彩」

 母親の声がする。

 俺は一人だけ一階で一緒にコタツに入ってスマホを見て寝転がっている父親に尋ねた。

「ねぇ、何でお爺ちゃん達は陽彩さんを引っ張り出そうとしないの?」

 すると、父親はスマホから俺に目を向けて言った。体勢そのままだったけど。

「そこはやっぱり娘が自由に出てきてほしいからだろ。自分達が無理に出してそれで逆に心を塞ぎ込んじゃったらまた引き篭るじゃないか」

 なるほどな。

 俺はスマホに目を向ける。今すっごく動画が良いところなのだ。

 恐怖の大都市の実況動画を見ていると、後ろに誰かいるんじゃないかってすごく不安になるけど、今後ろにいるのは寝転がってPTAの仕事してる父親だけだ。

 

「小さい頃は素直だったのにね」

 出すのを諦めて一階に戻ってコタツに入ってきたお爺ちゃん達は、溜息をついた。

 母親が箪笥(たんす)の上に飾ってある写真立てを手に取って言った。

「小さい頃は、素直だったの?」

 俺が尋ねると、お婆ちゃんはしみじみ頷いた。

「前に聞いた事があるでしょ。素直すぎて自己中だって言われた事があるって。あの子、そう言われたのがショックで、校長先生に相談に行くほどだったのよね。親として呆れちゃったわ」

 お婆ちゃんは笑った。

「桜花と二歳離れた陽彩は、桜花が中学に行くときにすごく泣いてね。「お姉ちゃんと一緒に登校したい」って、小学五年生なのに」

「あぁ、あの時、陽彩は本気で泣いてたわよね。私達も困ったわよね」

「最後はお父さんの一喝で済ませた事、思い出しちゃったわ」

 二人は、クスクスと笑った。

「あの頃からお父さん騒がしかったのよ」

「ねぇ。うふふ」

 母親は上品に笑ってみせた。こうすると、美少年の遥君にブスと言っていたのが嘘のようだ。


「あぁ、そういえば、話したい事があるんだ」

 

 母親がふいにそう切り出した。

「おぉ、そのことか。何だ、言うてみ」

 お爺ちゃんは急にお茶を飲んで緊張している。それよりももっと、父親と母親は緊張している。


「じ、実はぁ…。赤ちゃんが出来たの」


 来た、この沈黙。

 そして、俺の予想ではこの後、「想太もついにお兄ちゃんになるのか」が来る。


「おぉ! おめでとう! これで第二子誕生だな。想太もついにお兄ちゃんになるのか」

 ほら来た。でも嬉しい言葉なのに変わりはない。

「あら、性別は? 名前は決めるの? …、あら、それよりも、おめでとう!!」

 お婆ちゃんは母親のお腹を撫でている。


 俺は、それを見て、笑みをこぼした。

 母親の体の中に、俺の弟か妹になる赤ちゃんがいるなんて、考えもつかない。

 でも、母親のお腹の中から、俺は生まれてきたのだ。それは事実。


 だから。血の繋がった兄弟として。

 大切に、育てていこうと思う。



「これからも、創平君、桜花を、宜しく頼む」

 お爺ちゃんは、父親にお辞儀をした。

「いえいえ…。一生懸命、桜花さんと子供が楽しく過ごせる家庭を築きたいと思っております」

 照れる父親。でも、その思いは伝わったと思う。

「それは有り難う。…想太も、頑張るんだぞ」

「うん!」

 俺は元気よく頷いた。


「さて、もうそろそろ紅白歌合戦が始まる頃だ。…それにしても、年末にも陽彩は出てこない。困ったものだ」

 お爺ちゃんは時計を見てテレビを付けた。お婆ちゃんは年越し蕎麦を作り始めている。

「年末恒例の今年の「五七五」を書き始めたいから、俺は陽彩の面倒を見れない。もう一度、誰か説得しに行ってはくれないか?」

 お爺ちゃんは辺りを見渡した。するとお婆ちゃんが年越し蕎麦を作る手を止めて言った。

「我が家の年末恒例行事だからって、陽彩が引き篭ってるときまで続ける必要ありますか。行ってきなさいな」

 確かにお婆ちゃんの言うことは正論だ。だがお爺ちゃんは聞く耳を持たない。

「だが、俺が言ったところで、何が変わると言うのだ。そんなこと言うならお前が行け」

「私は年越し蕎麦の準備をしてるからね、毎年たりとも欠かせやしないさ」

 ネギを切りながらお婆ちゃんは言った。

「それは、陽彩が引き篭ってまで続ける必要があるか?」

「こればっかりはあるのよ。…桜花はどうかしら? 唯一の姉妹だもの。きっと理解して出てきてくれるわ」

 そう言ってお婆ちゃんは母親に目配せした。すると母親は「無理」と首を横に振った。

「既婚者が未婚者に「頑張れば結婚出来る」って言ったって、ただの嫌味じゃない。それで更に反発して出てこなくなったらたまったもんじゃないでしょ」

 そして母親は父親に目配せした。すると父親はブルブル首を横に振った。

「僕は家族じゃないから、駄目だと思う!」

 母親は舌打ちした。

「何だ、ここぞと言うときにカッコつけなくていつつけるんだよ!」

「カッコつけようとなんてしてないよ!」

 お爺ちゃんとお婆ちゃんは、考え込んで、言った。


 そこで俺は、何となく察した。


「という事は…」

 

 そこで、全員の視線が一斉に俺の方向に向いた。


「結局俺かよーーーーーー」

 

 叫び声が空しくなる。

 俺は仕方なく二階に向かった。

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