遥の新たな恋。
昨日に引き続き、友情物語です。
紗枝さんが美咲さんのマンションに向かったちょうどその頃、帰りの会が終わり、俺が教室から出ると、4-1の扉の前に立っていた遥に声をかけられた。
「あ、想太君」
「何ですか遥さん」
恋敵に愛想よく声をかけられ、いやいやながらも振り返る。
「ちょっと話があるんだけどね…」
「何ですか。加奈の話なら遠慮しておきますよ。加奈は遥さんが自分のこと好きって気付かない天然要素入ってますからね」
「あぁ違う、そうじゃなくてそうじゃなくて」
周りを男子が沢山通過していく。その中に健一がいた。同じクラスの小柄のボーイッシュな少女と一緒に歩いている。
そういえば俺、健一に公園で遊ばないかと言われていたんだ。早く済ませなくては。
「そうじゃないなら何ですか。俺友達に誘われてるから早くしてください」
「じゃあ手短に済ませるね」
俺達は校庭に出て、6年生の教室の花壇に座った。1年生が鉄棒で遊んでいる。その微笑ましい姿に思わず笑みをこぼす。
「話っていうのはね…」
遥の方を向く。優しそうな笑みを浮かべている。よく思うが、遥は完璧だ。
「実はね、好きな人が出来たんだ」
「…は?」
好きな人が出来た?
ってそれ、加奈のことじゃないのか?
「僕ね、加奈さんを諦めた。…絶対に諦め切れないとか思っていたのに、何でだろうね。想太君の気持ちが分かったからかもしれないしね」
遥が寂しそうに言った。
「そんで、名前は?」
俺は聞かずにはいられなかった。
あんなに加奈一筋だった遥が、そんな簡単に想いを変える?
「その人は、宮野さんっていうんだ」
俺が知らない名前だった。
「誰、それ」
思わず冷めた言い方になってしまう。
「同じ塾の女の子」
そりゃあ俺も知らないわけだ。
「僕ね、加奈さんに迷惑かけちゃったんだ」
ふいに、遥が言った。
「え?」
俺は思わず返してしまった。
「何で迷惑だなんて。…加奈も、そんなこと思ってませんよ?」
ついこの前まで恋敵だった遥を思わず慰めたくなった。
「でも、たとえ加奈さんがそんなこと思ってなくたって、僕は迷惑をかけてしまったと思っている。あの夏のオフ会で出会って以来、ずっと、加奈さんに恋してきた。
…でも、その想いが行き過ぎて、僕は家の人にまで、転校したいって言って迷惑かけた。そんな簡単に学校変えちゃいけないのに。
でも、そんな簡単に学校を変えちゃうほど、僕は加奈さんに恋していたんだ。…それで、加奈さんが想太君のことが好きだって分かったときには、ショックを受けたよ。
…でも、その想いを諦め切れなくて、勝手に自分の都合で、里穂にも心愛にも迷惑かけた。旅行行って、加奈さんの気持ちがこっちに向くはずもないのに、そんなことばっか考えてたんだ。
だから、もう、これ以上皆に迷惑をかけないように、加奈さんを好きになるのをやめたんだ。
家族にも、心愛達にも、そして、想太君にも迷惑かけたから」
遥は、沢山の人に迷惑をかけたと言っている。
でも、俺はね、競い合えるライバルがいなくなって、それで、寂しくなったんだ。
加奈のことが好きだ。そして加奈も俺のことが好きだった。それが嬉しくて、いつも一緒にいようと思っている。
恋人同士じゃなくても、お互いを好きって気持ちが変わっても、それでも一緒にいて、一緒に笑うことが出来れば、それが、俺にとっての幸福だと思う。
だから、遥は必要なかったのかもしれない。
でも、遥がいたから、成長できた。家族に、加奈に、友達に、そして遥に支えられて、今があると思っている。
今まで関わってきた人達が、たとえ、ライバルでも、敵でも、それでも。
今ここにいる自分が、その人達に支えられてきているってことを、俺は、忘れたくない。
だから、遥も、迷惑がかかる存在じゃない。
きっと、加奈に支えられただけじゃ、こんな想いにはならなかったと思う。
遥が転校してきて、加奈に告白したときも、(加奈は聞こえてなかったみたいだけど)そのときだけじゃ、こんな想いはしなかったかもしれない。
遥が他の女の子を好きになって、ライバルがいなくなって、やっと、ライバルのいる、本当の意味が分かってくるんだって思う。
だから、どんな自分勝手でも、遥がライバルでいてほしかった。
でも、自分の思いだけじゃ、他の人の気持ちが左右されるわけがない。
自分の思いを決めるのは、自分だけなのだから。
「じゃあ、僕もう行くね」
遥が立ち去ろうとした。
「待って!」
ふいにその言葉が口から飛び出し、気付いたら、遥の手を握っていた。
「…、想太君」
遥が優しい笑みを浮かべる。
「これからも、友達でいてくれる?
たとえ、ライバルじゃなくなっても、競い合うことはなくなっても」
俺が出した、導き出したその言葉に、遥は笑顔で頷いた。
「うん。これからもずっと友達でいようね!」
そして遥は俺の手を握り返した。
「「ずっと、友達でいよう!」」
遥と、俺の、友情の証。
繋いだ手と手を空へ向かって突き出した俺達は、光り輝く未来へと、歩き出した。




