転校生の嘘5
「ちょっと、何これ、遥君!」
加奈が遥に詰め寄る。いつもはトラブルを止めている遥が、今日は珍しくおろおろしていた。
「だって、絶対に加奈さんがいないと解決しそうになくて…」
「だからって…。あぁもう!とりあえず、うぅ、もう、どいて!」
遥を押しのけた加奈は二人の方へ向かう。遥はおずおずとして黒板に手をついた。
「ミサちん、さえっち! 何の話してるのよ!」
加奈が顔を赤くして揉めている二人に尋ねた。しかし美咲さんは紗枝さんに怒りを露にし、紗枝さんはそんな美咲さんに向かって涙をためた目で睨んでいた。
「もう、何でこうなるわけ!? さえっちがそんなことしないって、ミサちんも分かってるでしょ?」
「でもこいつは万引きしたのよぉ、万引き少女なのよぉ!」
小池茉莉花(ぶりっ子)が紗枝さんを指差した。紗枝さんはびくっと震えたがもう一度美咲さんを強く睨み返した。
「ほら、今だって震えたじゃぁん、馬鹿じゃないのぉ?」
茉莉花の声に、紗枝さんの顔が微かに赤くなった。
「っていうか、何で関係ない年下がここに来てるのぉ?」
今度は俺を指差して、茉莉花が笑った。
「まぁ、可愛いから、許すけどぉ、次は関係ないことには首突っ込まない方がいいわよ?」
ぶりっ子に似つかわしくないショートカットが風になびく。蚊もいなくなり、涼しくなった今月では、学校中で窓が開いている教室が多く見られる。
茉莉花の服装を改めて見てみる。
白いセーター(まだ早いんじゃないか?)に、薄い水色のカーディガン。花柄のフレアスカートに黒のタイツに綺麗な上履き。清潔感溢れる格好が流石ぶりっ子だ、と褒めてやりたくなるが、気にしないでおこう。
「それにしてもぉ、…もうあんた達の友情終わりじゃない? ぶっちゃけ凹凸な組み合わせだと思ってたんだわ。もうちょっと自分の性格に似た人と友達になった方がよかったっぽいけどね」
そりゃあねぇだろいくらなんでも。
たとえもしも美咲さんが考えるより行動に移しちゃう人だとする。紗枝さんはよく考えてから行動する人だとする。この二人はバラバラのように見えても、実はお互いの良さが見えるいいコンビなのかも知れない。
それを表面だけ見て決め付けるなんておかしい話だと思う。
「…ふざけんな」
遥からふとそんな言葉が漏れていた。
クラスメートは当然振り返る。加奈も俺も、美咲さんも紗枝さんも。そして小池茉莉花も振り返った。
「はあ? 遥君ってば、何言ってるの? 絶対似合わないって誰しもそう思ってるよ?」
「いいや、たとえそんな性格が真逆な人達でも、絶対に惹かれ合うものがあるって、信じてるよ僕は」
遥の言う言葉に茉莉花も皆も沈黙した。
「何言ってるのよ遥君。こんなバラバラな人達だからこそこんな大喧嘩して絶交って、なっちゃうのよ?」
「それでも、お互い持ってないものや個性がある。小池さんは表面だけを見ているようだけど全然違うんだよ?」
遥の言葉に、茉莉花は黙った。
「だから、美咲さんと紗枝さんはとても上手くやっていける。…そのためには、そんな正反対な性格の二人だけじゃなくて、性格がちょうど真ん中の人がいなければいけないと僕は思ってる。それが加奈さんだよ。…もちろん本人同士だけでいいって、僕も思うけどね」
おぉ、こういうところ、王子様っぽい。…ポイントでも上げようとしてるんだろうか。
「だから、美咲さんも、紗枝さんも、ね」
持っていけたこの人。すげぇよこの人。
そして持っていき方が保育園の先生みたい。と思ったことは隠しておこう。
「嫌だよそんなの。…そんな簡単に持っていこうとしてんじゃねぇよ!」
美咲さんが唐突にそう言った。
そして、
紗枝さんを殴った。
「ちょっとミサちん、何してんの!?」
「佐藤さん!?」
先生と加奈が止める。それを咎めることなかった美咲さんが、言った。
「うるさいっ! …もう、紗枝も、加奈も、嫌い!」
そう言って、走り出した。
俺の方に近づいてきている。
「邪魔、どけよ!」
突如発せられた声と同時に、俺の体は廊下に転がった。
そして、美咲さんに突き飛ばされたのだと、数秒遅れて理解した。
それっきり美咲さんの行方は分からなくなってしまった。




