夏祭り本番ってさぁ
全くもって最悪の日である。
今日は夏祭り本番。朝日が差し込む昼間と違い、夕方は多少のむし暑さを感じさせる。
今はヒグラシが鳴いている。ヒグラシは夏の終わりを感じさせるけど、実は夏本番のときでも鳴いているらしい。
加奈と二人きりだったらヒグラシという切なさを感じさせるシチュエーションもいいのかもしれない。何かそれは一夏の恋とかそういう物悲しさを感じさせたりするからまたいいのだ。
だが今もそのヒグラシ独特の物悲しさを感じさせるにはちょうどいいのかもしれない。
何故って…。
せっかく加奈と二人だけになれる(しかもロマンチック)チャンスだったというのに、どういうわけか最高にウザイ女子共が集団でついてきてくるんだから!
それこそ夏一番の悲しい思い出ということか…。
「想太、会場に着いたよ」
加奈のぶっきらぼうな声。
「? …何で怒ってるの?」
「怒ってなんかないし」
いや、明らかに加奈は怒っている。
「どうしたのぉ? まさか想太君と二人きりになれなかったことで怒っているのぉ?」
お団子結びにした加奈の友達が、ニヤニヤ笑って言う。
「そんなんじゃないよ。こんな大人数でいるから暑苦しいなぁって」
それは本当にそうだったからイライラしている、という感じだった。
もうちょっと恥ずかしがってくれたら、俺だってちょっとは両想いかなぁなんて思えるのに、全く男心がわかんない奴だなぁ。
夏祭り会場には、美味しそうな物がズラーッと並んでいる。
「想太君食べたい物何?」
裕香の甘い声。ただ気持ち悪いだけだが。
「たこ焼き」
「分かった、たこ焼きね!」
裕香はニッコリと笑った。
こうして見ると、裕香の笑顔は少し可愛いかも。
やがて、夏祭り本番が始まるところだ。
花火というのがもはや定番である。
もうそろそろ…十分後に始まる。
カキ氷を持って準備万端だ。
少しでも加奈と一緒にいたいがために、なるべく加奈の隣に行く予定だ。
が、目当ての加奈が見当たらない。
「加奈ぁっ! おーいっ! どこだぁーっ!?」
一度、花火がよく見える坂から屋台の方に戻る。
「加奈ぁーっ! おーいっ!」
大声を張り上げる俺を見付けて、加奈の友達が「どうしたの?」と話しかけてきた。
「どうしようっ! 加奈がいなくなっちゃった!」