運動会 ー後編ー
『続きまして、プログラム23番、五六年生による、組体操です』
私は司会者の言葉に、胸の鼓動が高鳴るのを感じた。
組体操。私達は、このために、9月の自由時間を刻んで練習を行ってきた。
倒立、片手バランス、蛙倒立、人間起こし、レインボーブリッジ、肩車、サボテン…。とにかくこの一ヶ月間には、色々あった。
「いよいよだね」
皆はドキドキしている。ひどい奴なんか、かすかに胸の鼓動が分かる。って、森近さんじゃないか。
「どうしたの?」
「椿ちゃん、余裕って顔してるから。私の方が怖いよ」
なるほど、椿さんの問題か。
確かに椿さんは学年一運動神経が悪い女の子だ。運動神経一番悪い男子よりかはマシだと思うけど、体重60㌔超えてません…? 怖いんだけど。っていうかそんな椿さんを持ち上げられた森近さん達も森近さん達というか…。
でも、本当に心配。
椿さんのお母さんは今まさに椿さんの隣にいる。
本当によく似た家族で…。
私達は指定位置につくと、早速四つん這いの格好だ。
先生が笛を吹くと、皆は一斉に顔を上げた。
よし、次は片手バランスだ。そしてブリッジ、蛙倒立…。
次は二人技。森近さんの方を見てみる。
やっぱり、困っている。
椿さんは倒立が出来ない。
私とペアを組むのは、清香さん。清香さんは萩尾とペアを組みたかったんじゃないか…?
「よし、倒立来い!」
私が小声でそう呟くと、清香さんは頷いて地面に手をつき、細くて長い足を上に思いっきり上げた。
「よし!」
笛が鳴ると、今度は交代。私は地面に手をつき、足を振り上げた。
昔は十回に二回の割合でしか倒立出来なかったが、今では結構な上出来だ。
私は清香さんの手に足を掴まれた。清香さんの手は、ちょっとだけ冷たい。
そしてもう一回先生の笛が鳴ると、皆はせーの、と言って足を下ろした。
三人技では、小さなタワー、扇、サボテン倒立等が扱われた。
私達は軽やかにそれを成し遂げる、はずだ。
次に波。
波をするときは校庭に膝が付くので、皆ヒーヒー言ってます、はい。
勿論私も練習当初はヒーヒー言いました、はい。
次は「私」お待ちかね、人間起こし。
上に乗る人はさえっち。華奢な彼女は、体重はクラス一というほど軽い。クラス一貧弱な男子が何とか持ち上げられるというほど軽い。
「ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、一、二、三!」の掛け声でさえっちは上がる。さえっちはすぐさま上がる。五年で一番軽やかそうに見える私達。運動神経が良いのもさえっちの長所だ。
体重がクラス一軽くて運動神経がいいとは、お主、何者だ。
組体操は、無事成功した。
フィナーレは、十段ピラミッド。
私は真ん中らへんだった。いわゆる五段目だ。
今年の高学年リレーは、遥君がいるから勝つのは同然なんだけど。
でも想太が何かふてくされてるから怖い。何があったの。
もしかして、ライバルとかそう思っているのか!?
大丈夫だ、私はいつだって想太だけだと認めているから!
リレーでは、遥君の番が来た。
途端に辺りは、「キャーーー! 遥君! 頑張って!」という声援に包まれる。
私は遥君の活躍に胸躍らせた。
私は一種の遥君ファンだ。でも私は一応想太が好きなんだ。
あ、一応じゃないか。好きなんだ、私、想太のこと。
遥君がどれだけカッコよくても、好きなのは想太一人だけだ。
そういうこと、覚えてくれるかな、想太も。
そんなことを考えながらボーっと遥君を見ていると、遥君のチームがいつの間にか一位になっていた。
辺りは歓声に包まれた。
私ももちろん喜んだ。これで今年は勝つ。
私達白組は優勝杯を貰い、皆は帰路に着こうとした。
私達親友三人組と清香さんは、勝利を祝いながら帰ろうとした。
遥君も私達についてきて、旅行の話を持ち出したので、清香さんは話にくっ付き、結局清香さんも行くことになった。
更に萩尾がその話を聞きつけたらしく、萩尾も行くことになったらしい。
さえっちやミサちんはゲーッという顔をしていたが、清香さんはちょっと微笑んでいた。
うん、恋する乙女はいいわね。(by恋する乙女)
私達は校門から話をしながら出ようとした。
すると。
「あれ、あの子、想太君に告白しようとしてる?」
ミサちんの一言に、皆は静まり返った。
「え、何の罰ゲーム?」
凄まじくひどいことを言った遥君を横目に睨みながら、私は想太と女の子がいる体育館側の通路に目を向けた。
◆◇
誰だこの子。
俺に寄り添ってくる。何だこいつ。
「あの、よければ私と付き合ってくれませんか? 貴方に一目惚れしちゃったの…。えと、想太君て言うんだよね」
いや、いきなり付き合ってくれなんて見ず知らずの奴に言われても困る。学校が爆破された感じで困る。何言ってんのか分からん自分。
モデルみたいにスタイルが良くて、顔も可愛くて、顔が小さくて、足細くて、長くて、ロングをポニーテールにして、しかも可愛いメイクをしている子が目の前にいるって言う状況は理解できたけど、何なの、この子。っていうかどこかで見たことある。何だろう、どこかで見たことある。
「これ、私のメールアドレスなんで…」
「メールアドレスなんで…って言われても、そもそも君、誰?」
俺が尋ねると、彼女はメールアドレスの書いた紙を俺のズボンのポケットにそっと入れて呟いた。
「私、通りすがりの、『ニコ☆らぶ』の小学生モデル、桐野実優。運動会やってたから、見ちゃった。そして貴方に一目惚れしちゃったの」
「『ニコ☆らぶ』? 何それ」
実優という謎の少女。俺の通うこの学校にいるはずがない。っていうかマジ、『ニコ☆らぶ』って何さ。
「まぁ、返事考えておいてね」
桐野実優が北門に去っていくと、加奈と美咲さん、紗枝さんと、清香さん…? が飛んできた。
「すごいよ! 『ニコ☆らぶ』のミユウちゃんって今超人気の専属モデルじゃない!」
「想太君、女子に大人気のあの子からコクられたんだよ!? すごいよ想太君!」
「何だよだから『ニコ☆らぶ』って!」
清香さんから、説明をいただいた。
『ニコ☆らぶ』は、女子小学生向けの雑誌で、その中には数々の専属モデルがいる。
特に桐野実優は、人気投票一番に光り輝く少女で、『ニコ☆らぶ』一可愛くてスタイルもいいんだと。
『ニコ☆らぶ』は、小学生向けのオシャレなコーディネートを教えてくれる、オシャレ好きの女子小学生達は必ずこれを買うそうだ。
ちなみに桐野実優の姉、麗奈は、現在『ニコ☆らぶ』の上を行く(要はただ対象年齢が小学生から中高生に変わっただけである。)『キラ☆らぶ』の専属モデルらしい。
まぁそんな奴に告白されたって、加奈に対する気持ちは変わらないけどね。
雑誌の名前がダサい。
まぁ私が考えた名前なんて殆どダサいんだけどね。




