運動会の騎馬戦
想太が自分の席に戻らないまま午後の部が始まった。
「ちょっとトイレ行ってくるね」
ミサちんはそう言って体育館側のトイレに駆け込んでいった。
彼女は何故かトイレが近い。
私が午後の部最初の競技、PTA競技の半分を見ていると、担任の先生がマリオの変装で現れた。
辺りは大爆笑の渦に引き込まれたが、私一人だけがトイレから帰ってきたミサちんの顔面蒼白な顔を見て、大爆笑の渦から現実に引き戻された。
「大変よ、想太君が、女子に囲まれているわよ!」
「嘘! マジで?」
PTA競技の次は騎馬戦だというのにも関わらず、私はトイレに歩いていった。
「何しているの?」
私が想太を取り囲む女子軍団にそう言うと、一人の少女がツカツカと歩み寄ってきた。その子は、裕香ちゃん…じゃない、誰だっけこの子。確か想太の初恋の少女って噂されてた少女だったよね、リレ選の。
「あら、よく見れば、想太君と両想いだって噂の、砂月加奈さんじゃない?」
ミディアムヘアーの子役並みの美少女だ。私よりも数万倍可愛い。この子、学年ですっごくモテてるんじゃないか?
「そ、そういう貴方こそ誰…?」
「私は『想太君ファンクラブ』の会員№1、飯島奈波よ。想太君に関する情報は、他の誰よりも知っている、想太君大ファンなのよ!」
ヴェ!? 他の誰よりも…? ってことは、家族よりも!?
「更に私は、想太君の初恋の少女として名高い女子なのよ。多分この学校で一番価値ある女子よ」
多分この学校で一番価値ある人なんていないと思うよ。皆平等にするのが学校の規則ってもんだから。憲法にもある通り、人種や学歴による差別とかも駄目なんだよ。そういうことをするのは私はちょっと無理があるな。
ってそんなに久しぶりに真面目なことを話すんじゃなくて!
「今はそんな想太を取り囲む時間なんて無いんじゃない?」
「あら、貴方こそ、この競技が終わったら騎馬戦よね? もうそろそろ行った方が良いんじゃない?」
奈波さんの言葉に、私は顔が赤くなった。言ってみれば先輩に向かってそんな口を聞いて! 想太は許すけど!
私は顔が赤くなるのを必死に隠して女子の中にいる想太に歩み寄った。
そして想太の手を掴んで全力ダッシュ!
体育館と入場門は離れている。入場門の方は人がごった返しているし、彼女達は想太を見失う。更に私は皆と合流出来るし、一石二鳥!
「ゼェ…ゼェ…。入場門に着いた!」
私が想太の手を離して入場門に並んでいる五六年の列に行くと、「遅ーよ砂月! あ、想太君との熱愛発覚! ヒューヒュー!」と想太の手を引っ張ってきたことを冷やかされた。
「萩尾うるさーっ! ホンット、デリカシーないわねぇ。遥君を見習いなさいよ!」
クラスのリーダー的存在の畑野清香さんが私をそっと慰めてくれた。
「有難う、想太がピンチだったからちょっと」
「ふぅん。やっぱり結構なラブラブカップルってこと!? ピンチを助ける辺り!」
「もう、畑野さんまで!」
「へっへっへ、冗談だってば。運動会で恋、発展すると良いね!」
畑野さんは少し照れくさそうにニッと笑うと前を向いた。そういえば騎馬戦で同じグループなんだっけ、私と畑野さん。
何だかんだあるけど、彼女は仲間を思いやれるすっごくいい人だ。情報を拡散してしまうのがたまにキズ…だけど。
私は一番前。ミサちんとさえっちと畑野さんグループで、ミサちんが上。実はさえっちが一番軽いんだけど、本人は自分が太っているって思い込んじゃって、自ら辞退した。
ちなみに作者は騎馬戦でゴリ押しして勝ったそうだ。実にどうでもいい情報だね。だったら話すなって?確かにね。
「うーん、やっぱり怖いなぁ」
ミサちんが私の上で声を漏らした。
「今スタンバイしているんだから、弱音吐かないで」
畑野さんの指摘。
「はーい」
ミサちんが仕方なさそうに頷いたのが真下でもよく分かった。
私の真ん前で行われている騎馬戦は、五年男子の戦いだった。白の旗が上がり、勝敗が決まったとことで、私達の番になった。
私達の相手はすっごく疲れた顔をしている唯さんのグループ。って、上、椿さんだ!
何で先生は許可したの?
もう、多分椿さん自分から上立候補したのかもしれないけど! っていうか立候補しなけりゃ標準体型の唯ちゃんが真ん前になるなんてまず有り得ないから!
私達が上に任せて必死に戦っているときだった。
私の顔に椿さんの太ももが当たった。
次に椿さんの足の攻撃。偶然じゃない、あからさまに意図的だ。
私は椿さんのその行動がウザく、しばらく椿さんの足を睨み付けていたら、白の旗が上がった。
やがて白の勝利した列が、二列を超えて、白組の圧勝となった。




