旅行の誘いと運動会
「はぁ、はぁ…。一体どうしたの、走り出しちゃって」
「ん…」
遥君はお屋敷から離れてもう隣町ぐらいまで来ていた。遠目に夏祭りが開催された土手がある。
あそこの夏祭りには恐怖の思い出しかない。いや、想太が告白してきてくれたことはいい思い出だけど。
「本当にどうしたって…」
「旅行…」
遥君が喋った。
今まで喋らなかった遥君が口を開いたのだ。
っていうか…。
「旅行?」
「加奈さんと、一緒に旅行行きたい」
「は…?」
いきなりのことに頭が回らん。
旅行…?
旅行とは何ぞ、私と遥君二人だけで旅行行くのか。
絶対に駄目だぞ。
「それ、皆で行くんでしょ?」
「いや、二人で行きたい…」
「皆で行くんだよね?」
私の威圧が伝わったのか、遥君は「あぁ、うん」と自分の意見を引っ込めた。
でも、どこら辺に旅行に行くんだろう。
「とりあえず、飛び出しちゃったんだから申し訳ないよ。お屋敷に戻ろう」
「うん…」
遥君は私の手を強く握り締めた。
やがて私達がお屋敷に戻ってくると、皆は私達を見て顔を赤くした。
「どうしたの…? 皆、静まりかえっちゃって」
私が不思議そうに尋ねると、想太は呟いた。
「あぁ、加奈はあの告白聞いてないんだね」
「告白…?」
本当に何だと言うのだろう。
「あぁ、それでね、遥君が今度運動会が終わったら皆で旅行に行こうって!」
この空気も終了させたい為、私は別の話題に移った。
「旅行? 振り返り休日も使ってか?」
「そうそう!」
「旅行! 行きたい!」
「私も!」
案の定皆が私の話題に乗っかってくれた。
「僕、皆でなんて一言も言ってないよ」
遥君の悲痛な叫びもスルーすることにして。
「運動会終わったら、行く?」
「行きたい行きたい!」
心愛さんは目をウルウルさせて頷いた。
「で、その日は一体何日なの?」
「運動会が十月の第一土曜日にやるから、十月二日と三日の一泊二日の旅行だね」
しかし、さえっちが重要なことに気付いた!
「私と加奈ちゃん達みたいな、十月一日に運動会やる人達はやってもいいけど、他の学校に通っている子はどうするの?」
「いいわよ、私、学校休みにしたいから」
「私も心愛さんの通ってる学校に通っているよ」
「確か心愛さん達は早稲田大学系属早稲田実業学校初等部に通ってるんだっけ?」
「長い」
遥君の暗記力にびっくり。
「そろそろ運動会だよねそういえば」
想太がへっへっへ、と笑った。
そういえば想太って運動が得意なんだっけ。
「運動会、騎馬戦があるんだよね五六年は」
「組体操もあるんだよ」
「来年想太もあるんだよね。組体操」
かっこいい六年生なんて所詮幻想。本当は悪質極まりない。組体操でそれがよーく分かった。
「あー、私運動会嫌いだよー」
ミサちんがうなだれる。
「まぁまぁ。頑張ろうよ、運動会」
遥君が慰める。
「遥君が言うなら…」
あっという間に元気を取り戻すミサちん。弱いよミサちん。男に弱いのか。
◇◆
いよいよ運動会を明日に控えた。
私はカレンダーに書かれている運動会の文字をじっと見つめる。
憂鬱だなぁと思いながらも自分の部屋のベットに潜り込む。
水色の壁紙に合う淡い水色の本棚には、家族全員で撮った写真と、沢山の小説。以前友達の姉の同級生が小説投稿サイトに投稿した小説がライトノベルの小説になったから、と言って買った本と、その他の本が沢山並べられていて、更にはスマホが置いてある。
私は静かに電気を消し、ベッドに潜り込んだ。
やがて私は、自分のスマホに着信があったことすら分からずに寝てしまった。
想太からだった。




