転校生はあっという間に人気になった
二学期初日。
俺は悠々と宿題を終わらせ、お気楽そうに登校していた。
周りには疲れと疲労感と絶望感に満ち溢れた顔をした小学生(同年代)がいるのとは反対に、俺はまたまた、それこそいつもの加奈のように登校していた。
あのパーティからおおよそ一ヶ月ぐらいがたとうとしているが、俺はカッコいい美少年、立花遥君に負けた裕香を同情する気になれない。
「おはよう」
「おお久しぶり! ってか健一、肌黒いなぁ。滅茶苦茶焼けた?」
「そうだよ? ってかお前は肌白すぎ。海とか行ってねぇの?」
「うーん。行ったとすれば、加奈達と一緒に『恐怖の大都市』のパーティに行ったことだな」
「あー、パーティ行ったの? いいなぁ。俺そんとき母さんの年の離れた妹の結婚式でさぁ。行けなかったのよ。で、三人組には会えた? あの超有名な美少女ヘヴィプレイヤー達」
「あぁあれ加奈達だよ?」
「えぇぇぇぇぇぇ! 超有名美少女へヴィプレイヤーまさかまさかの俺らの先輩だったの?」
「そうみたいだね! いやぁ、俺も驚いたよ」
「いいなぁ『恐怖の大都市』一の有名人と両想いなんて羨ましいぞ、想太めぇ~」
「『恐怖の大都市』一の有名人?」
「そうだよ? 最年少の美少女ヘヴィプレイヤー三人組が『恐怖の大都市』パーティ会場にいるってテレビにも出たくらい人気なんだからな?」
「えぇぇぇマジで?」
「朝日新聞にもちょこっと一面載っかってたぐらいだよ? ほら会場の壇上に立ったときのあの写真」
何してんだよ朝日新聞。
って言うかそれ俺も載ったってことだよな?
なぜ気付かない両親よ。
朝日新聞ってマニア向けだったっけ?
「あ、もうそろそろ昇降口開くな。いよし、頑張ろうな、二学期」
「おう!」
俺と健一は手を握りながら昇降口まで走っていった。
二学期初日の朝といえば始業式と校長先生の長い長い、それこそ夏休みの宿題みたいに長い長いお話だ。
「さて、皆さんに嬉しいお知らせがあります」
「まだ」禿げていない校長が機嫌よさそうにお知らせを伝えようとしている。
「転入生が来ているんですよ」
そのお知らせに、体育館中の皆がドキドキワクワク。
「誰? もしかしてイケメン? スポーツ万能、運動神経抜群、スタイル良くカッコよくて、優しい王子様みたいな?」
「そんな子だったらいいのにねぇ。モテモテ男子は実は自分のこと好きとか?」
「もしくは美少女の転校生とか? その転校生は俺に恋して毎日必死にアプローチとか…」
「お前夢見すぎだよ」
「っていうか、本当に誰?」
皆の視線が体育館の壇上に釘付けになる。
やがて転入生が壇上を上がってきた。
「えっ!? 嘘っ!」
俺達、『恐怖の大都市』のパーティに出席した奴らは騒然とした。
そこにはあの眼鏡の美少年が立っていたからだ。
「立花遥です。姫町第三小学校から来ました。小学五年です。宜しくお願いします」
彼はお辞儀をした。
可愛らしく愛くるしい顔立ちに、眼鏡をつけていて、少し茶色がかった黒髪と、サラサラの髪。スマートな格好に高い身長、スタイルが良くて可愛らしい少年。
間違いない。
彼は裕香に勝負を挑み、物の見事に勝って、なおかつ三人組の大ファンの立花遥君だった。
女子からはすごいざわめきが聞こえる。
彼はニコニコして、壇上を降りていった。
遥君(先輩)は、あっという間に人気者になった。
五年生の間であった一学期復習テストは満点合格。勉強も出来るし、中休みは決まって外に出かけ、足の速さは五年で一番。スポーツ万能で運動神経抜群。社会の勉強も調べ方がすごい上手でなおかつ字も綺麗で、文章の構成力もすごい。いわば、文章力が普通の五年生とは格段に違うのだ。
他にも普通の五年生とかけ離れているものは沢山ある。
157センチの身長で体重三十九キロ。楽器を扱うときも指が軽やかに動き、更に説得力がある。人が思わず納得してしまい、自分の意見を引っ込める。そんな夢みたいなことが何でも出来る人だった。
パソコンのローマ字入力もカタカタ素早く打てる。普通のビデオなら残像が移るぐらいだ。
他にも、理科の実験も遥先輩と同じチームは早く終わる。優しいし仲間意識も強く、図工は人が思わず感心してしまうほどの絵が描ける。水泳も特一級を悠々合格している。
更にクラブの部長を五年生ながらも務め、リーダーシップも存在力もある。あと家が超大金持ち。
おまけに完璧な容姿と来たものだ。普通の奴なら到底太刀打ち出来ない。おまけにゲームの能力もとても良い奴。
つまり、立花遥という人物は、男子からも女子からも人気で、先生受けもいい。他の人から見たら、パーフェクトな奴と言える。
そんな奴を、俺はライバルだと思った。
容姿なら俺の方が確実に上だ。芸能界レベルの美少年だぞ。分かるか。
でも、そんな完璧な遥が、まさか加奈のことを好きだったなんて、誰がわかったことだろうか。
遥先輩ってもうもはや某小説のあれじゃありませんか。名前変えた方がよかったかなぁ。