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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

春の風と花びらにのせて

作者: 六条菜々子

「久しぶりだな。元気だったか?」

 彼と会うのは、かれこれ一年ぶりくらいだろうか。

 しばらく会っていないうちに、急に大人の雰囲気を持っている。それは独特、かつ私には重いもの。

 でも、居心地が悪い訳じゃない。むしろ、ほっと安心できる。そんな空間になっていた。

 ほんの少し前まで、ただのやんちゃな男の子だと思っていたのに。今のあなたには、そんな部分が残っているようには見えなかった。

「うん。お前も元気そうでよかった」

 ごめん。ちょっとだけ嘘をついてしまった。

 少しだけ顔に疲れが残っているように見えるよ。私の知らないところでいろいろ苦労しているのだと思う。

 ただ、私に『何かあったの?』と聞く権利はない。

 それは私たちが親友であったとしても。


 親しき中にも礼儀ありという言葉がある。

 私はそれをいつも守るようにしている。

 どれだけ距離が近くても、どれだけ仲がいいとしても、踏み込んではならないことは誰にだってあるはず。

 そう思って、私は日々生活をしている。


「お前、もしかして彼女とかできたのか?」

 男子高校生なら、誰もがそんな質問をするのだろう。

 いや、普通の高校生ならそんな話の一つや二つくらいするものだと思う。

「うん。一応ね」

 彼の反応はあまり目立ったものではなかった。むしろ薄かった。

 こんな話をするのは苦手だけれど、もう少しリアクションが欲しかった。なんて、この人には高望みかもしれない。

 昔からそうだ。そうだった。

 私がいくら話をしても、反応が鈍かった。

 それなりに頑張ってはみたけど、どれも効果はまるでなかった。

「お前がリア充になるとはな。まあ、そんな時期なのかもな」

 どんな時期なのか聞いてみたくなったけど、何となく意味は伝わってきた。

「爆ぜろ! とか思ってるんだろ?」

「いや……」

 彼は思わせぶりな態度を見せてきた。

 何をためらっているのかな。

「何? どうしたの」

「よかったな。彼女出来て」

 多分、彼は心からそう思っているのだろう。

 そこに特別な意味など込めていないのだろう。


 私がこんなにも傷ついていることなんて、全然気づいてないんだろうね。

 あなたの…あなたの口からはそんなことは聞きたくなかった。


「うん。ありがと」

 今の私にはそんなことが言えない。言えるわけがない。

 彼が私のことを友達だとしか思っていないことは重々承知なんだから。

 四年前のあの日。あなたは私にこう言ってくれたよね。

『俺たち、ずっと親友だよな!』

 その言葉に私はそうだねとしか返すことが出来なかった。

 本当はそこで伝えるべきだったのかもしれない。

 でも、大丈夫。もう、大丈夫なの。


「今日はどうする? ゲーセンでも行くか?」

「そうしようか」

 当たり前だけれど、あなたは私を男扱いする。

 ただの友達としか、それこそ親友としか思ってないんだろうね。



 でもね、実はね。

 私はあなたのことがずっと好きでした。

 何年も片思いさせてくれてありがとう。


 桜の花びらが舞い散るころ…。

 私はこの気持ちをその風へとのせます。

 大丈夫です。もう封印しておきますから。

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