私と美人さん。
あらすじに書いた通りです。あくまで個人的にこういう事なのかなぁ、と思って書いたので、それは違うよ!的な事はそっと胸にしまっておいてください。
目の前には白のワンピースにゆるふわカールな清楚系美人が、その美貌を歪めている。それもそのはず。美人の前には見るからにチャラい二人組が、何度無視されてもめげずに声をかけ続けているのだ。
隣にいる私はまるで眼中にないらしく、一度たりとも視線を向けてこないのは、いっそ清々しい。だが、そろそろ限界のはずだ。チラッと腕時計を見れば声をかけられて五分経とうかというところ。心の中でカウントする。………2、1。
「てめぇらいい加減ウゼエんだよ!!お・れ・は!男だ!!ナンパすんなら鏡みてから出直して来い、このくずが!!!」
清楚系の美人が一気にまくしたてる。言われた二人は何が起きたのかわからない様子でぽかーんとしているし、横目でチラチラと見ていたはずの周りは、あまりの事に美人をガン見して立ち止まっている。
まぁ、清楚系の背の高い美人からひっくい声で罵声が出て来たら、そりゃ、インパクトでかいよね。しかたないのではぁー、と息を吐いてからこの場を収拾させるためにうごく。
「コラコラ裕ちゃん。そんなキレイなかっこで男ことばはどうなの。せっかくキレイにしてるんだから、やるなら徹底的にしなきゃ。男の理想を簡単に粉砕しちゃあかんでしょ。ほら皆さん驚いて固まっちゃったじゃない。ごめんなさいねぇ。」
ヘラッと笑いつつ、清楚系美人———学友である裕也の腕を引いてそそくさとその場を後にする。呆気にとられてるうちが一番逃走しやすいからね。
そのまま、先ほどまでの場所から適度に離れたカフェに入り、現在は向かい合ってお茶をしている。
正面に居る彼をじっと見れば、アイスコーヒーのグラスを左手で持ち、右手でストローを支えて飲んでいる。その姿だけを見れば、世に言う男性が理想とする清楚系美人だというのに中身は野郎だという。世の中理不尽なほどに不平等である。つーか野郎がこんだけ綺麗ならもう、女なんていらないのではないだろうか。
裕ちゃんは最近話題らしい、女装子という奴らしい。休日とかに、女の子の格好して過ごすだけで、後は普通に男性らしい。よくわからなくて、おかま?って聞いたら怖い笑顔が返って来たので、必死に謝った記憶は新しい。いわく、恋愛対象は女の子だし、女の子になりたい訳でもないという。じゃなんで女装なのかと思うのだが、何かよくわからない事言われたので流してしまった。まぁ、キレイな人がキレイな格好してる分には良いんじゃないですかね。
じっと見てると、居心地が悪かったのかなんなのか、睨まれる。
「清楚系な子が睨むんじゃありません。」
「うっせー。清楚なんて夢でしかない、って女装するようになってよくわかったから良いんだよ。」
「まぁ、ね。淡い色のふわふわな女の子らしい服に、ピンク系のシャドウやチークでナチュラル風メイクすりゃ、よっぽどでない限りそれっぽくはなるよね。」
「そうやって男は弄ばれる、と。」
「いやいや、人によるだろうけど、好きだから、でしょうよ。だってどうせならキレイな子が隣に居た方がいいでしょ?そう思ってるからスッピンはさらさない訳でしょ?」
「そのくせスッピンのが好きって言われたいんだっけ。」
「作り物より元々のを好きになってほしいからでしょ?化粧はその気になりゃ同じ顔が作れるんだから。」
「かー、めんどくさい。」
「そこらの女子よりきれいな奴が何言うか。」
こうして会話だけ聞けば野郎との会話なのに、目の前には美女とか。
というよりさ、野郎のがこんな風にキレイになってしまったら女はどうすりゃいいのさ。あれか?男装しろと?かっこよさでも突き詰めればいいの?とりま、この美人の隣に居ても気にならないようにするにはどうしたものか。
思わず見つめたまま考え込んでしまったらしく、訝しげに声をかけられる。
「あんだよ?」
「んー……髪切ろうかなぁ。」
「は?!なんで!!」
思った事をぼそっと呟けば、いやに勢い良く返事が返ってくる。
「え?なんでそんなに過剰反応してんの?裕ちゃんが美人だからいっそかっこ良くなればいいのかなぁとか思って。」
「意味わからん。」
「私が美人の隣に居るのがいたたまれないんですぅー。」
「切んな。」
「へ?」
よくわからんけど機嫌が悪くなった。なぜだ。
「髪。切んな、つってんの。」
「はい?」
「ほのかの髪、気に入ってんだから切んな。」
「そうなの?」
「そうなの。」
美人の頬が化粧とは違った風に赤くなっている。照れてるのか?私の所為で美人が顔色変えるのは、なんだかとっても気分がいい。これが俗にいう胸キュンだろうか。世の男性はこんな風に恋に落ちるのかな?
しょうがないなー、なんて言う自分の顔も熱いが気にしない。何でもなかったようにこの後どこ行こうか、なんて声をかければ、むこうもいつも通りに戻ってて。ありゃ残念、と思うけど、それ以上にこの美人と一日一緒に遊べるという事実のが重大である。
ただ、もし、もしも、だけど恋人が自分より美人とかちょっと居たたまれない気がする。まぁどうこうする勇気なんてないんですけどね。とりあえずはしばらくはこのままでいいかな、なんて考えた。
———いや、こんな美人と二人で服買いに行くのも少しハードルが高いです。先生。
読んでいただきありがとうございました。