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自我を持たせてはいけない。
効率面しか見ていなかった人類がそれに気付いたのは、世界中から『自然』が消え去った後だった。
「助けてください。人類を、世界を」
大地や木々を塗り潰して『自然』をしっかりと舗装した後、次に狙われたのは『生物』で。
「お断る」
灰色の化け物への対抗手段は、ただ一つ。
世界で唯一自然が生き続ける森に暮らす、不可思議な少女の力だけが頼りだった。
「世界とか人類とか、そんな重いモノ背負いたくない」
正直、駄目なのは分かっていた。
今まで世界が彼女にしてきた理不尽な仕打ちを考えれば、快く引き受けてくれる訳がないことくらい。
◆
不気味な力だと、恐れ、嫌い、世界の隅っこに追いやった。
消せる筈のない愚かな過去が、最後の希望を吹き消そうと……。
「散歩って事なら、別に良いけど」
頭を抱える僕とは対照的。
気の抜けたトーンでそんな事を言いながら、いつの間にか少女は出掛ける準備を始めていた。
「あ、え」
鼻歌混じりに彼女が開けたクローゼットには、真新しいふりふりの洋服たち。
可愛らしい靴。
帽子に、ベルトに。
「散歩、お出掛け、ピクニック。世界を救う旅以外だったら、呼び方は何でも良いから」
がさがさとそれらを漁る横顔は、普通の女の子そのもので。
「お兄さんが望むなら、デートでも良いよ?」
クローゼットの前が、あっと言う間に色とりどりの花畑になっていた。
『歩いたところにあらゆる法則を無視して花が咲く』
それがあの日僕を魅了した彼女の奇跡。
世界中が不気味だと罵った、彼女の奇跡。