迂闊な携帯
そのあと、誰も殺さないまま小学校を卒業し、中学生になった。といっても、中学校は小学校の延長だとも言われているので、少し人が増えたくらいで大きな変化はなかった。
他の小学校から来た生徒とも仲良くなり、友達も増えた。先生もいい人ばかりで、学校生活は順風満帆だった。
中学入ってからの初めての夏休み。宿題が多いと、友達同士で愚痴をこぼしつつ、休みの日にでも遊ぼう、と約束をして家に帰った。
家に帰ると、両親は仕事中で家にいなかった。これから多くの時間は家に私一人になったであろう。
リビングでくつろいでいると、テーブルの上にお父さんの携帯があるのが見えた。お父さんはよく忘れ物をするから、今日も忘れたんだな、と軽く思っていた。だが、お父さんは日帰り出張で大阪にいる。何か連絡が来ていないか、と思い携帯をいじっていた。
すると、新着メールが来た。
From Mai
件名:今日空いてますか?
内容:この間はありがとうございました!でも、すいません、あの日は女の子の日だったので… 今日は大丈夫なんですけど、たしか出張でこちらに来ているといわれていたので、もし空いてたら、会えませんか?
…………人類をここまで成長させ、生態系の頂点に君臨し続けさせたのは何か。それは好奇心である。そして、一人の人間の心を破壊していくのもまた、好奇心である、と私は思った。
この“まい”という女は誰なのか、そして父はこの女と何をしているのか、確かめたくなった。中学生とはいえ、テレビでも浮気のネタはよく話題になっている。このメールを見てかなり精神的ダメージを負ったが、それでもこの女と父の関係については探求心がやまなかった。
ほかにも親しげに会話しているメールも何通か見つけた。中には人には見せられないような文面のメールもあった。私はそのすべてを携帯に証拠写真として残し、何事もなかったかのように戻した。
どうやら、浮気相手の名前は「宮森舞」というらしい。大阪の堺でOLをしているらしい。
大阪の堺までは特定できたが……そこからはよくわからない。使うかもしれないと思い、父の携帯を持ち、私は単身、堺へ向かった。