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第8話 脱出 1


 アレン達のいる宿屋は国軍や、神殿騎士達によって囲まれていた。


「ちょっとー、これはどうなってんのよ」

 マリアが口をとがらせ、アレンが事情を説明しようとするが、その前にエキドナの巫女イリアが話し出した。


「いえ、アレン様は悪くないのです」

 巫女イリアはアレンをチラリと見ると、頬を赤らめて言うと、

「さま〜、様って何、アレン君は本当に何やったのよ」

 マリアがジロリとアレンを見て、呆れたように聞く。


「俺は何も悪い事はしてないよ。ちょっと…………暴れたけどさ」

 アレンは文句を言いかけたが、最後には消え入りそうな声で答えた。


 マリアやアリスが、いやアリスの頭の上にいたチュータまでが、アレンに詰め寄ろうとすると、

「違うのです。神官長がただの水を聖水と偽り、販売していたのです」

 イリアがアレンを庇うかのように言って更に、

「エキドナ様まで顕現したというのに、神官長があれはまやかしだと言うと、私の言う事は誰にも信用されず、幽閉されそうになったので逃げ出してきたのです」

 イリアが頬を上気させて一気に話した。


「顕現ねぇー、急に話が怪しくなってきたわね。ふんっ、神様が現れる話しなんて、神話かお伽噺の話でしょ。実際に神様を見た人なんかいないし、神殿の偉い人が勝手に神様の神託だとか、言ってるだけでしょう」

 マリアが鼻を鳴らしてしわを寄せると、小馬鹿にしたように言った。


「おい、不敬だぞ。私の里のお婆様は、アマゼウス様にお会いした事があると言っていたぞ」

 アリスが目を吊り上げてマリアに怒って、イリアに向き直り、

「すまないわね、マリアは過去に色々あってね」

 イリアにすまなそうに頭を下げる。


「まぁ、神様うんぬんの話はいいけどさ。で、どうすんのよ」

 マリアがまだ納得していないのか、口をとがらせて言った。


「それは、私が表にいる皆さんを、説得してきます」

 イリアが意を決したように言って、出て行こうとするが、

「駄目だよ。せっかく逃げ出して来たのに捕まっちゃうよ」

 アレンがイリアの腕を掴み止めると、

「俺が表にいるやつらを全員、ぶっ飛ばしてやる」

 そう言って、直ぐにも外に飛び出そうとするが、マリアとアリスに止められた。


「アレンは単純でいいわね」

 アリスが眉を寄せて皮肉気に言うと、

「なんだよそれ」

 アレンがムッとして答える。


「表に何人の兵士がいると思っているのよ。できるわけないでしょ。それにできたとしても、たちまち明日から、王国中に手配書が出回るでしょう。そうなったら行くとこがなくなるわよ」

 アリスが子供に諭すように言ってマリアが、

「何か表の連中の気をそらして、その間に逃げるとか方法を考えないとねぇ」

 顔を顰めて言って、何故かアリスの頭の上でチュータまで、

「チュチュ、チュー」

 馬鹿にしたように鳴き声をあげた。


「何だよ皆で俺の事を子供扱いして、それにチュータまで……」

 アレンがぶつぶつ文句を言っていると突然、

「あっははは、いや、これは失礼。まるで寸劇を見ているようで面白くて、つい、はっははは」

 それまで黙ってアレン達を見ていたサイラス皇子が、声を上げて笑いだした。


 そして皆の注目を集めると、

「まぁ、どっちにしろ君たちは、国家に反逆した特級犯罪人にされているだろうさ」

 苦笑いしながら言った。


「えっ、どういう事ですか」

 アレン達が唖然として、アリスが問い掛けた。


「ふっ、今起きている事は、それほど単純な事ではないということさ」

 サイラス皇子が右手で髪を掻き上げて、口辺に笑みを浮かべ、少し気取って言った。


 サイラス皇子が更に続けて話そうとするが、

「殿下、それ以上は」

 宿の主人グレンが制止をする。


 そして、その間アレンを除く3人が、いや3人と一匹が顔を寄せあっていた。


「今の王子、見たぁー、ないない、ないわー」

 マリアが囁き、

「あーいう王子様は、お伽噺のなかだけと思っていたが」

 アリスが囁き、

「あれがナルシーとかなのでしょうか」

 イリアが小首を傾げてチュータまで

「チュチュ、チュー」

 そしてアレンは、そんな3人を呆れて眺めていた。


「聞こえているぞ! お前達は今の状況がわかっているのか。危機感がまるでない!」

 サイラス皇子が怒鳴り、更に続けて

「私が今、この王国で、いや王都でなにが起こっているか話してやろう」

 グレンが止めようとするのを、手を上げて制止して言った。


 アレン達が吃驚してサイラス皇子を見ると、皇子は右手で髪を掻き上げようとして途中で止めると、ばつが悪そうに顔を顰めて話しだした。


「この国は今、長らく病に臥せていた王の王位継承で、第1皇子を推す王党派と、第3皇子を推す貴族派に別れて争っているのだよ」

 サイラス皇子が顔を顰めて話し更に続けて、

「順当にいけば私の兄、第1皇子のアキレス皇子なのだが、貴族派の筆頭のゲオルグ国務大臣が自分の娘が生んだ、まだ幼い第3皇子のエルダー皇子を強く推した事が、争いの発端なのだが」

 サイラス皇子が、そこで言葉をきり水で咽を潤す間、アレン達は王国の秘部となる話しを聞き、固唾をのんで見詰めていた。


「そして遂に、まだ発表はされてないが、二日前に陛下が崩御された」

 サイラス皇子がそう言うと、アレン達が驚きの声を上げる。


「えっ、それって……」

 アレンの口から思わず言葉が洩れると、

「そうだ、私の父だ。まぁ、私は嫌われていたのか、ここ数年は年に数回しか会わなかったが」

 サイラス皇子が苦笑しながら答えた。


 そしてサイラス皇子が真面目な顔に戻して、続きを話し始める。


「そして陛下が崩御されると、ゲオルグ国務大臣はその仮面を脱ぎ捨て、一気に事に及んだのだよ。昨日、国務大臣の手勢が王宮内を急襲した。私は辛うじて逃げ出したが、私の兄、第1皇子のアキレス皇子は捕縛された」

 更に続けて、

「国務大臣達の貴族派は、事がおおやけになる前に、一挙に王都を制圧しようとしているのだよ」

 サイラス皇子は宙を見詰めて憂い顔で言った。


「えっ、それって今、私達が利用されているということですか」


 アリスが驚きの声を上げる。


「ほう、よくわかったな。このグレンは元近衛騎士で、長い間私の護衛をしていたからな、この宿屋も王党派の拠点とみなされてるのだろう」

 サイラス皇子が苦笑いをして答えた。


「えーと、俺にはよくわからないのだけど」

 アレンが首を傾げて言うと、

「えー、わかんないの。アレン君って馬鹿なの、アレン君達を口実にして兵を動かして、この王都を制圧しようとしているのよ」


「えっ、えー」

 最初はムッとしたアレンも、最後にはイリアと一緒に驚きの声を上げる。


「そういう事だ。今頃は、王党派と見なされていた者は、全員捕縛されているだろう」


 サイラス皇子はそう言うと更に続けて、

「この宿で私が発見されると、どさくさ紛れに私は殺されて、君たちが犯人にされるかもしれんな」

 サイラス皇子が少し俯き言った。


「それなら、早く逃げ出さないと」

 アレンが言うと、

「馬鹿ねぇー、だからどうやって逃げるか、こまってるのでしょう」

 マリアが顔を顰めて言うと、皆が考え込んだ。


「まぁ、逃げる方法がない事もないが……」

 それまで黙っていたグレンが口を開いた。


「うんっ、グレン、あるのか、あるなら早く言えばよいのに」

 サイラス皇子が顔を上げてグレンを問いただす。


「殿下や女性方には余りおすすめできないのですが……」

 グレンが言い淀んでいると、

「あんた、どうも兵士達が、宿屋に突入してくるようだよ」

 宿屋の方を窺っていた女将さんが言いだした。


 皆が外を窺うと、どうやら他の宿泊客と兵士が、揉めているようだった。


「よし、今のうちにグレンのいう脱出方法で、脱出するとしよう」

 サイラス皇子がそう言ってグレンを急かすと、グレンが先に立ち皆を案内しだした。


 そしてグレンが案内をした先は、乱雑に物が置かれた地下の倉庫だった。その倉庫の隅にある大きな木箱を皆でどけると、更に下に降りる階段が現れた。


「なんだ、このような脱出用の隠し通路があるなら、早く言えば良いものを」

 サイラス皇子がグレンに文句を言っていると、

「ちょっとー、なにこの匂いわ」

 マリアが言いだして

「かなり臭いわね」

 アリスが言って、

「酷く臭いです」

 イリアが言って、手の平で鼻と口をおさえた。

 そしてチュータまで、

「チュー、チュー」

 不平を言っている。


「まさか、この先は」

 サイラス皇子が言いかけると、皆の目の前に腰の深さまでの水が流れる、小さな通路が現れた。


「下水坑か!」

 サイラス皇子が叫んだ。


「うげー、もしかしてこれは汚水なの。この中を歩くとか言わないでしょうね。やめてよね」

 マリアが涙目で訴えて、アリスやイリアも悲鳴を上げていた。


「仕方あるまい。命には変えられぬ」

 そう言ってサイラス皇子が皆を促す。


 グレンと女将さんが先頭に立ち汚水の中に入り歩き出すと、皆が不平を言いながらも渋々と後に続いた。


 そしてアレンは、

「こんな事なら俺が外に出て暴れた方が良かったよ」

 そう呟くと、チュータがアレンの頭に飛びうつり、

「チュ、チュー」

 肯定して鳴き声を上げた。


 そしてアレンも後に続いて歩き出した。



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