第3話 襲撃
アレン達が乗った馬車を、賊が騎乗した土竜達が追いかけてくる。
アレンが荷台から追って来る土竜を眺めると、土竜は人の3倍ほどの大きさもあり、固い鱗に覆われたトカゲを大きくしたような生き物に見えた。
前屈みの二足歩行で走る姿は、馬の数倍は速そうだ。それに、性格も狂暴そうに見える。
馬車の数倍はありそうな速さで、土竜はたちまち追いついてくる。
御者台から荷台に移ってきたマリアが、弓で矢を続けざまに放つが、土竜に当たる矢は鱗にはじかれ、賊に飛んでいく矢は盾で防がれていた。
「あいつらただの賊じゃない。土竜に乗ってるところを見ると、奴隷商人の人狩り部隊のようだわ。これはまずいわねぇ」
マリアが顔をしかめて呟くと、アリスに向かって
「アリス! もっと速く走れないの」
マリアが御者台に向かって怒鳴る。
「これで精一杯だわ。もともと土竜に速さで勝てるはずがないわよ」
アリスも怒鳴り返していた。
「うー、迎え撃つにしても、土竜に乗った賊20騎……難しいわね。荒れ地の真ん中じゃ逃げるとこもないし」
唸るようにマリアは呟く。
とうとう、先頭を走る土竜が追いつき乗っていた賊が叫ぶ。
「うっひょー、若い女と子供が乗ってるぜ。こいつは金になりそうだ。ひゃっはははー」
「ここは俺が出るしかないでしょ。マリアさん、俺がやっつけてくるよ」
アレンはマリアにひと声かけると、荷台から飛び出した。
「ちょっ、ちょっとアレン君、なに言ってるの。えっ、うそー」
マリアが驚きの声を上げるが、アレンはマリアの驚く声を背後に聞きながら、目の前に迫る土竜の顔に飛び蹴りをくらわす。
「おりゃー、俺様、アレン様登場!」
飛び蹴りをくらった土竜は、後ろに続く土竜を3匹ほどまきこんで、遥か遠くまで飛んで行く。
「ありゃ、力を入れすぎたかな」
アレンは見えなくなるまで飛んでいく土竜を眺めて言った。
そして、横を通りすぎようとした土竜の尻尾を掴まえて振り回すと、次々と土竜達をぶっ飛ばして雄叫びをあげる。
「おりゃ、おりゃ、オリャー!」
「なっ、なんだこのガキは、うっ、うわー」
そして、乗っていた賊達もまとめてぶっ飛ばしていく。
「ひぃー、このガキばけもんだー! うっ、うひゃー」
土竜も賊達も、大混乱となっていた。
「に、にげろー!」
10匹以上の土竜を倒すと、残りの賊達は逃げて行った。
少し離れた所で馬車を止めて見ていた3人は、口をあんぐりと開けて、体を硬直させたようにかたまっていた。
「あれっ、皆さんどうしたのかな。ははは」
アレンが笑いながら近づくと、エドさんは腰をぬかして座りこみ、アリスはこれは夢だと呟き続けて、マリアだけがなにこれと大笑いしていた。
***
あれからエドさんとアリスをマリアが宥めて、馬車を王都に向けて走らせることにした。
荷台の中ではまだエドさんが呆然として、御者台ではアリスがぶつぶつ言いながら馬車を走らせている。
そして荷台の中では、アレンとマリアが向かい合って座り、話し込んでいた。
「えー! アレン君は天上界から来たって言うのー。何それ、冗談きついよ〜、ははは」
アレンがこれまでの経緯を話すと、マリアが笑いながら言う。
「本当の事だってば。俺は今日、神界から地上界に降りてきたばかりだから」
アレンは真面目な顔して言うが、
「ぎゃははは、なにそれ、アレン君はもしかして神様。ははは、そんな事あるわけないか、ぎゃははは」
マリアは大口を開けて大笑いしていた。
「マリア、笑いすぎ。それに俺はまだ半分だけだから」
アレンが少しムッとして答えると、
「でも冗談にしても、アリスの前で言ったら駄目よ。アリスはエルフだからね、アマゼウス様の信者なのよ」
マリアは眉を寄せ急に真面目な顔になり、チラッと御者台の方に目を向けて小声で言った。
「アマゼウス様って、俺の母ちゃんだよ」
アレンが得意気に言うと、またマリアは腹をかかえて大笑いした。
「ぎゃははは、アマゼウス様の事を母ちゃんって、母ちゃんはないでしょ。ははは、それじゃあ、エキドナ様は姉ちゃんだとでも、ぎゃははは」
「よくわかったな」
アレンが頷くと、
「ひぃー、本当に面白い子ね。ははは、でも王都では禁句よ。あそこはエキドナ様の信者ばかりだから」
最後にはマリアが呆れたように言った。
「ちぇっ、本当なのに」
そう呟いてアレンが外を眺めると、日が落ちかけてもうすぐ夜になりそうだった。
「王都が見えて来たわよー!」
アリスのほっとした声が、前から聞こえて来た。
アレンが荷台から御者台に顔を出して前方を見ると、中央に城が建つ大きな街が見えた。
そして、馬車は外壁の門が夜になって閉まるぎりぎりに、門の中にすべりこんだ。