第1話 戦場
アレンが地上に降り立つとそこは戦場だった。
「あれは敵の新兵器か、いや敵の魔導師だ。かまわん諸とも押し潰せ」
驚き固まっていた両軍は、期せずして同時に発せられた両軍の将軍の檄により、同時にアレンに向かって突撃してきた。
「うそーなんで!」
アレンは辺りを眺めて唖然として、
「今、地上界に着いたばかりなのに」
周りに向かって叫んだ。
しかし両軍の兵士は、アレンをまきこんで周りで戦い始めた。
「あっ、あぶないってば、やめろよ俺は関係ないから」
アレンは周りを囲む兵士達の攻撃をかわしながら叫ぶが、更に囲む兵士達の数が増えていく。
「俺は関係ないって言ってるだろ」
アレンが怒り、大地に拳を叩きつける。
「神拳、大地爆裂破!」
すると、足下の大地が周りの兵士を捲き込んで、クレーター状に大きく陥没していく。
そして大地にあいた穴に兵士達が、転がり落ちるのと一緒にアレンも落ちていく。
「あれ、うそー! 俺も一緒に落ちてるよー! うん、この技は封印だな」
アレンが、兵士達と穴の底に重なり落ちた時に、
「キュ、キュー」
鳴きながらアレンの着衣の胸元から、一匹の白いネズミが顔を出す。
「あれーチュータ、お前付いてきたのか」
そこには、神界に別の世界から一緒に生まれ落ちてきた、白ネズミのチュータが顔を出していた。
チュータは一緒に神界で育ったので、お互いの考えてる事がわかる。
「チュータ、付いて来たら駄目だろ」
アレンがチュータに言うと、
「チュチュー」
チュータが鼻をピクピクと動かして、アレンに顔を擦り付ける。
「なんだよ。はぁ、寂しかったのか。仕様がないなぁ」
アレンが溜め息を付きながら言うと、チュータは嬉しそうに、アレンの頭の上に駆け上がった。
アレンは周りで呻いている兵士達に、
「お前達の所為だからな。俺は悪くない」
そう言いながら穴の上に這い上がると、また両軍の兵士は驚きかたまって動きを止めていた。
「ま、魔王だ」
誰かが言うと、
「魔王が現れたぞ!」
周りの兵士達が騒ぎだし、それが広がっていき大騒ぎになってきた。
「いやいや、俺は神様だから、いやまだ半神か」
これは困ったなとアレンが考えていると、
「チュ、チュー」
チュータが鳴き声をあげて、アレンの倍ほどに体を大きくした。
「あれー、チュータお前体を巨大化できるの」
「よし、チュータ俺を乗せてくれ。そしてこの戦場から脱出しようぜ」
アレンはチュータに言うと、チュータに跨がり駆け出した。
しかし、チュータは周りの騒ぎに興奮したのか、暴走して周りの兵士達をはね飛ばしていく。
「おーい、チュータ駄目だってば」
俺の制止の声が聞こえてないのか、兵士達の本陣に突入していく。
「将軍! ま、魔王がこちらに向かって来ます」
本陣を守る兵士が慌てながら将軍に言う。
「何を馬鹿な事を、魔王なんぞがここに、うっ、うわー」
本陣にいた将軍や幕僚の全てが、弾き飛ばされた。
チュータが、アレンを乗せたまま本陣を駆け抜けて戦場を去って行くと、戦場には呻き声をあげて転がる兵士達と、呆然と立ち尽くす兵士が残された。
そして、呆然と立ち尽くす兵士のひとりが、アレン達の去った方を見つめて、
「魔王の誕生だ」
ポツリと呟いた。
***
「チュー……」
暫く走ると、チュータは落ち着いて疲れたのか、突然元の大きさに戻った。
「戻るなら戻ると先に言ってよ」
文句を言いながら転がるアレンの頭の上に、チュータはかけ上がり、髪の毛の中に隠れてしまった。
「仕方のないやつだ。あれ、もう寝てるし」
アレンがブツブツ文句を言いながら周りを眺めると、そこはなにも無い荒野の真ん中のようだった。
「しかし、さっきの人間達は大丈夫かな」
アレンはひとり言を言いながら適当に歩き出して考える。
信仰を集めなきゃいけないのに、これでは先が思いやられるよ。それに母ちゃんに怒られそうだし、アレンはそんな事を考えながら歩きだした。
そして、取り敢えず母ちゃんに連絡しないとな。確か連絡するには、神殿に行かないと駄目だったはずだ。
アレンがそんな事を考えながら歩いていると、前から1台の馬車がこちらに向かって来るのが見えた。
「ちょうどいいや、あの馬車の人に神殿の場所を聞こう」
アレンはそう呟きながら、馬車に向かって歩き出した。