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閻ちゃんと冷凍まぐろ

 会話のやりとりからして、二人は随分と親しい間柄のように思われた。しばらく説教が続きそうだったので俺は小声で訊いた。

「相手の閻ちゃんっていうのは誰?」

「閻ちゃんは閻魔大王だよ」

 さらりと答える姉に、俺はのけぞってみせた。地獄を取り仕切る閻魔大王をも恐れない姉はたいした人物なのかもしれない。

「想像と違ってすごくかわいらしい声をしているんだな」

「閻魔というのは世襲制で、現在はちっちゃい女の娘が大王さんなんだよ」

 はっ! もしかして、と細く整った眉根を寄せて、

「けいちゃんってロリコン趣味だったりする?」

「ちげーよっ! どんな飛躍の仕方だよ!」

 俺はどちらかというと姉ちゃんのような清純巨乳派だ。などと言おうものならこの姉は 絶対に調子にのるだろうから、余計なことは言わない。

 俺と姉が会話しているうちに説教も終わったようだ。

「おいっ貴様、聞いておるのか?」

「あっ、はいはーい。もちろん聞いてますよー。ブリは冬場がおいしいって話だよね」

「黙れ! 今すぐ黙れ! でないとその舌引っこ抜くぞ、この冷凍まぐろ脳めがっ!」

 閻魔大王が舌を抜くという伝承は真実だった。あの世の謎がまたひとつ解き明かされた。

「こほん……どうもお前と話をしていると調子が狂っていかん」

 うちの姉がご迷惑をおかけしてどうもすみません。不肖の弟として心の内で謝っておく。

「それで、音羽に何の用なの?」

「うむ。こちらで些細な問題が発生しての。まずは今日の渡航者名簿を見るがよい」

「ちょっと待ってねー。今、確認するから」

 姉は腰のうしろにぶらさげていた台帳をとりだした。達筆な文字でぼろぼろの表紙に『三途川渡航者名簿』と書いてある。かなりの年代ものだ。

 ケータイを肩と耳の間に挟み、ぱらぱらと頁をめくる。

「今日も大漁だねー」

「まったくだ。最近は自殺者も多いし、現世の連中も少しはこちらの事情を考えて死んでもらいたいものだ」

 閻魔大王は淡々とした口調で相槌をうった。

 二人にとっては日常的な、それこそ挨拶程度の会話なのだろう。

 今さらながらにここが死者の国であることを思い知る。

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