いざ地獄へ
放課後の地獄研究会。俺と警吾は緋恵に呼び出されてそこにいた。
先に来ていた緋恵が早速、用件に入る。
「二人には死んでもらおうと思います。音羽が会いに来られないなら、もうこちらから行くしかないよね。死んででも」
「そりゃそうだけどさ。なあ」
「そうよ。生きて帰れる保証はあるの?」
緋恵は腕を組んで自信満々にふふんと鼻をならした。
「大丈夫。大丈夫。きっと帰ってこられるから。野球で言うなら首位打者の打率ぐらいの割合で」
「それ、三割程度だよな! 低ッ!」
「冗談、冗談。場を和ませようという緋恵なりの演出なのだよ」
「和んでねーよ。寿命が縮んだわ!」
にゃははっと緋恵は笑い転げている。こんな能天気な死神に、命を預けて本当に大丈夫なのかと心配でならない。
「死因は熱中症にしとこう。身体が腐る前には帰ってこられるといいね」
「他人事みたいにいうなよ! 怖い」
「この死神、最初からあたしたちの命が狙いだったんじゃないの?」
警吾の指摘に緋恵がぎくりと身体を震わせた。
「そういえば話だけで、死神らしいところといえばケータイを持っていたぐらいだな」
「緋恵は死神だもん。嘘じゃないもん」
胡散くさすぎる。急激に心配になってきた。
「これをみればなっとくするっしょ! 召鎌!」
突然に緋恵の前の何もない空間に大鎌が出現した。
「「おおっ……」」
緋恵は鎌の柄部分を手に掴み、バトンのようにくるくるまわしてみせた。 最後に肩に担ぐとドヤ顔で緋恵は鼻をふんすか鳴らした。
「死神、緋恵参上。なぁんてね」
ぱちぱちぱちぱち。俺と警吾は自然と拍手していた。
「さくっと狩って死ぬよ。道案内は緋恵がしてあげる。だから安心して死んでね」
冷徹な色をした大鎌の刃がぎらりと光る。
思わず俺はごくりと唾を飲み込んだ。
「確認しておくけど、死神が魂を狩るときに肉体はダメージを受けないんだよな?」
「肉体は斬れないようにオン、オフできるから心配ないってば。他にも七つの便利機能がついているんだよ?」
何そのテレビショッピングの便利グッズのような多機能っぷり。どうせ改めて考えると使わない機能ばっかりだろ。
緋恵と話していると偏頭痛で死にそうな気分になるからもういい。
「わかった。じゃあ地獄へ連れていってもらおうか」
隣の警吾を見るといかつい顔をしてうなずいた。
緋恵の瞳があやしく光る。
「二名様ご案内~」
最期にジャキッと鈍い音がして、その後にひゅんと風を切る音がした。




