緋恵2
「だったら頼む緋恵。姉ちゃんと連絡をとらせてくれ」
俺は緋恵の肩をつかんでゆすった。その手を警吾がつかむ。
「こらっ。ちょっとは冷静になりなさい。ここにあるってことは新しくケータイを持っていないとつながりようがないじゃない」
「そ、そっか。うーん、緋恵の方に新しい連絡先の通知来てる?」
「来てないねー。閻魔様が早々と新しいケータイを渡すとも思えないし、たぶん今は持ってないんじゃないかなあ」
「あ、そうだ。地獄の家に固定電話はないのか?」
「あるけど、地獄内部でしか固定は使われないからケータイからは繋がらない」
「じゃあ、緋恵が地獄に行って姉ちゃんに事情を説明してくれないか」
「ごめん、それ今無理。監視対象者がいるから現世を離れるわけにはいかないのだよ」
監視対象者? もしかして俺たちのことじゃ?
そんな疑問を表情から読み取ったのか緋恵がころころ笑って言う。
「死神だからって誰も彼も殺していいってわけじゃないんだよ。警ごんと薬院さんは今のところ対象外。安心していいよ」
それと、はじめて緋恵が真面目な声色で付け加える。
「魂の交換もダメ。それ重罪。だからひょっとすると、地獄の方で音羽に何かあったかも……」
「姉ちゃん……」
閻魔大王とタメ口聞いていたぐらいだから大丈夫だとは思いたいが。
「……ってまて、魂の交換が重罪だって? じゃあ緋恵にも無理じゃないか」
「そう。でも裏技があるのだよ」
「裏技? 寿命の半分が減るとかか?」
「うーん残念、不正解。正解は、総寿命から今まで生きてきた分が差し引かれる」
「つまり十六年分の寿命が失われるってことか。三十代で死ぬことになっていたら終わりだな」
「魂の残量は残っているからとりあえずは可能だよ。どうする? あっ、もちろん二人の同意がないと裏技でも無理だからね」
どうするって言われても簡単には決められない。
「そうね……」
警吾も相当戸惑っている。
「一応確認しておくが、入れ代わったままだと寿命は減らないんだよな」
「魂の寿命量は個人によって決まっているから身体に影響されることはないはずだよ。でも……」
「でも?」
「副作用が起こるかもしれない」
「これ以上、一体何が起こるっていうんだ?」
緋恵は力なく首を横に振った。
「魂の交換なんて誰もやらなかったことだからわからない。ただ可能性があるってだけ」
俺はめまいを覚えた。警吾も頭を抱えている。
「まあまあ。二人とも元気出して。あたしのほうでも音羽と連絡がとれないかいろいろやってみるよ」
その日は一時保留にして緋恵と別れ、俺たちは自宅へ戻った。
夕食を済ませ、シャワーを浴びる。
垂れた髪の間から風呂にある姿見の自分をみつめる。じぶんの身体だから女子の身体を見ても恥ずかしくないもん。とか思いつつも、ぞわぞわとするこの違和感の正体は、男だった頃の記憶の名残だろうか。
おっぱいは、ふにふに。ちっちゃいけどある。ジョニーは……もういない。
「くっ……」
蒼流の身体と魂を入れ替えた姉ちゃんの真意はどこにあるのか。俺が美少女になることで喜ぶと思ったのだろうか。だとしたらそれは間違いだ。
ちっちゃいし、ふわふわだし、女同士のしがらみも面倒くさかった。
何よりも自分の身体を見ても嬉しくないことが致命的だ。
「くあぁっ! 全然ッわからねー!」
何を思ってわざわざ交換したのか考えれば考えるほどわからない。
「姉ちゃんのバカ」
俺は一言だけ悪態をつくと、蛇口を閉めて風呂場を後にした。




