地獄通信
ケータイにはデフォルメされた髑髏がじゃらじゃらとひも状に連なっている。揺れるたびにカタカタとふるえた。否でも三途川に流れ着いたときに遭遇した船頭を連想させた。
どんよりとした俺の視線に気づいた姉が、
「あ、これ? 今、地獄で大流行中のどくろちゃんストラップなんだよ。かわいいいでしょ。死神のともだちにもらったのー」
「……」
呪いのアイテムの間違いじゃないのか。わからない。姉ちゃんの感性が疑問だよ。
姉は通話ボタンを押しケータイを耳に当て、低い声を作った。
「私だが用件を聞こうか」
どこの殺し屋なんだよ! それよりも電話の相手が気になった。幸いにも周囲は無音だ。聞き耳を立てるまでもなく、よく響く。
「……切るぞ」
「あっあっ、切らないでよ閻ちゃん。私だよー、音羽でーす。おひさしブリはハマチの出世うぉー」
「……」
「うぉー」
がちゃり。つーつーつー。
どうやら通話を切られたようだ。俺が相手なら、同じようにしていたと思う。
楽しそうな顔を浮かべていた姉ちゃんは、一瞬真顔に戻ると通話終了ボタンを押した。すねた表情を浮かべ、すぐに電話をかけなおす。
「忙しくてイライラしているみたい。カルシウム足りてないのかなー。お魚を食べるとカルシウムもとれて、頭も良くなるのにね」
ばしゃり。
水面を打つ音がして後ろを振り返ると、骨だけしかない魚が元気に跳ねておちた。
「まっ、あの世だからお魚も身がないんだけどね」
俺は乾いた笑いを浮かべることしかできなかった。
やがて呼び出し音が鳴り、接続された。
「もしもし閻ちゃん。いきなり切るなんてひどいよー」
通話口の向こうから長いため息がきこえてきそうな数秒の沈黙。
「……用件はなんだ」
「それ音羽のまね? 電話をかけてきたのはそっちの方なのに、閻ちゃんおもしろー……って、ああっ、お願いだから切らないで」
「……。実はな、河守――」
「河守じゃなくて、親しみを込めて音羽って呼んでっていつも言っているのになあ」
「……」
「なんなら音羽お姉ちゃんでもいいんだよ?」
「……ッ! ええい五月蝿い! わしに生前の名で呼んでほしければ、まずは与えられた仕事をまっとうしてからにするがよい! 大体お前は河守としての自覚が――」
怒られちゃった。姉は怒鳴り声をあげるケータイから耳を離すと、舌をぺろりとだした。全然ッ懲りてない。