対決4
次の日。下駄箱を開けると、ちゃんと上履きがあり安心した。念のため靴底も調べてみたが、画鋲のトラップも仕掛けられていなかった。一度でも嫌がらせを受けると、慎重にもなる。
教室に入り自分の席について机周りに異常がないか確かめる。特に以上は見当たらない。ほっとして席に背中を預けた。
「おはよう薬院さん。傷は大丈夫?」
「はよー。なんでもないよあれぐらい」
俺はライカと朝の挨拶をかわした。
時間をずらしてやってきた警吾が教室に入るなり、女子の間でどよめきが起こる。嫌な予感。便宜上ガチホモ告白をした警吾が次の標的になるのではと心配だった。
ライカは普段どおりに警吾に挨拶する。
「おはよう警吾」
「おはよう」
昨日の今日で気まずいのか、俯いて消え入りそうな声でかろうじて返事をする警吾。さっさとライカの前の席に座った。
今日は昼休みまで平和な時間が流れていった。「昼飯どうする?」 とライカに声をかけようとしたところで、俺の席に近づく人影があった。
ライカ君を見守る会の会長連中だった。
昨日までの強気とはうってかわっておずおずと切り出す。
「薬院さんちょっとお話があるの? 今、時間いいかしら」
俺は隣のライカを見た。行ってきなよという風に爽やかに笑った。
「手短に頼むよ」
「わかった。時間を多くはとらせないわ」
連れて行かれた先は中庭のベンチのあるところだった。
「薬院さん、本当にごめんなさない」
会長一同がいきなり頭を下げる。俺は意外な行動に後ずさってしまった。
会長は視線をスカートの端にやりながらもじもじといった。
「わたしたち、薬院さんのいうとおり、ライカ君に踏み込む勇気が足りなかった。最近になって急にライカ君と仲良くなっていく薬院さんが妬ましかったの」
「……そっか」
彼女の言葉に真摯さを感じた。ここまで素直に謝れるのは尊敬に値するかもしれない。
会長たちはスカートのポケットから手作りの腕章を取り出した。
そして、次の瞬間にそれを引き裂いた。
「わたしたちライカ君を見守る会を解散するわ」
「おおっそうか。それはいいんじゃないか」
でね、ここからが本題なんだけどと会長は続けた。
またスカートのポケットから別の腕章を取り出した。
「ん? 何それ」
会長は腕章をつけて肩を前にだしてきた。
そこには――
「これからわたしたちライカ君と警吾君を見守る会を発足するわ!」
「んえっ!?」
あまりの驚きに顔がツタンカーメンのように無表情になってしまった。精神的ダメージで昨日の物理的ダメージが蚊に刺されたぐらいに感じた。
「ライカ君とあたしたちはもう無理みたいだけど、あの二人ならまだ可能性あるし」
「ライカ君が攻めで警ゴリが受けというのもありかも。ぐふふ」
「薬院さんも入って二人の仲を応援しようよ」
組織チェンジした面々が次々と好きなことを言ってくる。
こいつら……全然、反省してねェ!
「いや、俺はいいよ……。じゃっ」
俺は一目散に駆け出すとはぐれメタルのように逃げ出した。
教室に戻ると警吾とライカが食事をとっていた。
心なしか、周囲の女子の視線が二人をちらちらとうかがっているようにみえる。
「話はなんだった?」と警吾が訊く。
「これまでの嫌がらせの謝罪だったよ」
俺はなんて言っていいかわからない顔をしてふたりを見た。
「どうしたの? お昼ごはん食べないの?」とライカが訊く。
お前ら二人のことでおなかいっぱいです。ライカ君、警吾君ご愁傷様。
俺は引きつった笑みを浮かべると、自分の席に戻り寝て過ごした。




