対決2
昨日の一件で決着がついたと思っていた俺は、女の陰湿さをまだ知らなかった。
次の日の朝。
「あれ? どこにもない」
登校して下駄箱を開けると、いつもはあるはずの上履きがどこにもない。
「おーい。どこいった?」
色々と探しているうちに心当たりがあってそこを調べた。
あった。ゴミ箱の中に放り込まれていた。ったく、誰だよこんなしょーもない子供じみたいたずらする奴は。仮にも進学校なんだけどなうちの高校。そのときはその程度にしか思わなかった。
教室につき自分の机を見ると、バカやら調子乗りすぎといった罵詈雑言が落書きしてあった。ご丁寧に油性ペンでだ。ちっめんどくせぇ。消しゴムでごしごしと消す。
遅れてやってきた警吾が「どうかしたの?」と声をかける。なんでもねえよ。こんなの警吾に――薬院蒼流――にみせたくはなかった。自分でもなぜそう思ったのか解からないが、確かにそのときはそう思った。
それでも俺はライカと喋ることをやめなかった。
別の日の朝。俺はイスを引いて座ったところで飛び上がった。
「いってぇ!」
画鋲のトラップがしかけられていたのだ。影牢かよ! 教室中の注目が俺に集まる。俺が周りを睨むとその一角で女子たちが集まってクスクス笑っている。鈍いと言われる俺でもやっと理解した。組織の連中が異端者への報復に動き出したのだ。
無視だ。無視。
一時間目は日本史の授業だったか。置きっぱなしの英語の教科書を開くと、ザビエルの頭が世紀末風になっていた。何の恨みがあるんだよサビエルに。横に矢印で薬院と書かれていた。
終始こんな感じで午前中の授業が全て終わって昼休みになった。
教室を出て行こうとする前に、この前のように黒い影がたちはだかった。センターはこの前と同じだが、とりまきが7人に増えている。マッドハンドみたいに仲間を呼んだの? 思っていたより会員数は多いようだ。
会長らしき女が勝ち誇ったようにふふんと笑う。
「薬院さんに用事があるんだけど、今日も付き合ってくれるかしら」
「奇遇だな。今日は俺からそっちに行こうと思っていたところだよ」
邪悪な笑みを浮かべ、ピクニックにでも行くような軽やかさで会長は言った。
「じゃっ、行きましょうか」
場所はこの前と同じ体育館裏だっだ。本当にここ誰も来ないな。
「ぐほっ」
俺は腹にぐーぱんちを入れられて身体がくの字に曲がった。左右から肩を固められて崩れ落ちることはゆるされない。
「生意気なのよ。あんたみたいな地味女がライカ君と仲良くしているなんて」
ガッと頬を殴られる。こういうときってビンタじゃなくて女でも殴るんだな、なんて場違いなことを考えた。口が切れて血がつーっと流れ落ちる。
俺は口から血を吐き捨てると、にやりと笑った。
「お前らには勇気がないだけだろ。ライカの趣味に踏み込む勇気がよ」
「知った風な口を……!」
ローキックが左足に入る。山王警吾の身体だったらどうってことない攻撃も、ちっちゃな薬院蒼流の身体には相当なダメージが入る。
「上っ面だけしか見てない奴の攻撃なんてちっとも痛くないね」
髪をぐいとつかまれると、憤怒に顔をゆがませた会長の目があった。
「教えてあげる。王子さまはね。遠くで愛でるからこそ王子さまでいられるのよ」
膝けりがみぞおちに入り、吐きそうになる。
周りの女子たちは若干引き気味だが、誰も止めに入ろうとはしない。踏み絵でもさせられるかのように、かわるがわる俺に何らかの攻撃を加えてくる。
(やべっ意識が……)
執拗な攻撃に、意識の方が先に根をあげそうになる。諦めようとしたそのとき遠くから聞き覚えのある声がした。
「あんたたち何してんのよ!」
つぶれかけた瞳で声のする方をみると大きな影が逆光の中にいた。全力で走ってきたのか肩で息をしている。
「来るのおせーんだよ」
俺は内心で毒づきながらも、たははっと力なく笑った。




