朝食のある日常
月曜日の朝。時間は六時半。俺は目覚ましのアラームを止めて、ベッドからのろのろと這い出すと、クローゼットから制服を取り出し着替えてリビングへ向かった。
「ふぁあ。眠いー」
あくびを押し殺し、キッチンに立つと朝食を作り始める。
今日の朝食はご飯と味噌汁と焼き鮭にした。見事なまでに日本の朝の朝食が完成だ。
時計の針が七時になり、俺が朝食の用意を済ませたところに、制服に着替えた警吾が目をこすりながら、ちょうど入ってきた。
警吾は目を見開いて驚きの声をあげた。
「え? これあんたが用意したの? すごーい」
「他に誰がいるっていうんだよ」
警吾は片手をあごに乗せてふむむと思案顔でぽつりと言う。
「家の朝食でこんなまともなものを食べるなんて久しぶりかも。……あんたの女子力に十ポインツ!」
「お前、朝食はいつも何食べてたんだよ……」
ポイント集めたら何かと交換してもらえるのだろうか。ピコピコハンマーとかサングラスとか対象にありそう。内P復活しねーかなあ。
警吾は俺の言葉を質問と受け取ったのか続けて言った。
「そうね、特に何も食べないか、備蓄してあるカロリーメイツを食べるぐらいね」
「そんなことだと思った」
俺は哀れみの目で警吾を見ずにはいられなかった。レトルトや冷凍食品ばかり食べていた、こいつの食生活を鑑みれば、朝食の献立なんてお察しである。
警吾は俺が作った朝食に対して、大いに感心しているが、それほど手間暇がかかっているわけではない。鮭は切り身をグリルで焼いただけだし、味噌汁も作り慣れたものだ。これぐらい文字通り朝飯前だ。
それでも、こうも感動されるとは悪い気持ちはしない。つい口元が緩んでしまう。
「時間もないしさっさと食っちまおうぜ」
「そうね。せっかくだから食べてあげないこともないわ」
言葉では強がってみせても、食欲には勝てないらしく、警吾はごくりと唾を飲み込んだ。俺は微笑を浮かべ席についた。
「おう、存分に食べろ、食べろ。体格が大きい分、それだけカロリーの消費も大きいからな。しっかり食べとかないと昼まで持たないぞ」
「それじゃ、その……いただきます」
「いただきます」
俺たちは食事にとりかかった。
「ごちそうさま」
「お粗末さまでした」
警吾は結局、味噌汁とご飯を二度おかわりして全部平らげてしまった。俺はつい感想を訊いた。
「味噌汁の味どうだった?」
「レトルトより断然おいしかっ……こほん、まあまあの味ね」
俺の作った料理を素直に認めるのが照れくさかったのか、警吾は顔を朱色に染めてふいっっとそっぽを向く。
「あ! もうこんな時間。歯を磨いたら先に行くね。後片付けよろしく」
と言い残して、リビングから出て行った。上手くごまかされてしまった。
「いってきまーす」心なしか弾んだ声が玄関から聞こえた。
一緒に登校して噂になったら恥ずかしいし、別々に登校するのは構わない。
しかし、ふと考えてしまう。
「俺、あいつの専属メイドになってね?」
世の中のメイドさんだって無料奉仕でやっているわけじゃないんですよ?
その内、オムライスにケチャップで文字を書いてとか言われそう。いや言われないか。どこのメイド喫茶だってーの。
俺の家事の分量が多すぎる。なんとかして家事を手伝わせないとな。
そんなことを考えながら、学校へ行く準備を整えて俺も登校した。
 




