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風来の日曜日5 改

「これでよし」

 明日の朝食の仕込みを済ませて、やることもなくなった俺は風呂に入ることにした。

 風呂場に続く廊下の途中で、前方からほかほかと湯気を漂わせたゴリラが歩いてくる。温泉に浸かるゴリラの姿が目に浮かんできた。

 警吾は足を止めて、目を細め、俺に対して冷然たる視線を投げかけてくる。

 俺は思わず、着替えをぎゅっと胸に抱きしめてたじろいだ。

「な、なんだよ。今日から目隠し変態プレイはなしなんだろ? いまさら前言撤回は受け付けないぞ」

「……ばか」

「ぐへっ」

 頭にチョップを食らわされた。

 暴力反対。頭を押さえ抗議する俺の視線を警吾は無視して歩いていった。

 そんな痛みなど今の俺にとってはどうでもよかった。

 脱衣所のドアを開け入ると、片耳をドアに押し付けてじっと様子をうかがう。


 ――五分経過。

 奴の気配は感じられない。

 脱衣所でひとりになるまで半信半疑だったが、本当に今回からは監視なしで風呂に入れるようだ。

 俺はほっと胸をなでおろした。同時に胸の底から喜びがこみあげてくる。

 イエス! イエス! イエェェェェェェス!

 何この熱心なキリスト教信者。自分でもそう思わないでもないが、こころの中で叫ばずにはいられない。

 風呂に入るためには、当然、全部の服を脱がなければならない。

 無論、おっぱいを見ちゃうことになるが、不可抗力なので致し方ない。自分の身体を見るだけだから恥ずかしくないもん!

 おっと。お楽しみはゆっくり味合わないとな。脱ぐときに身体が目に入らないよう気をつけながら、いそいそと服を脱ぎ全裸になった。

 タオルを腰に巻き、慎ましい胸を手ブラで隠した状態風呂場に入る。

 湯気がもやっと全身にまとわりつく。ブルーレイになったら湯気が晴れそうな勢いだ。

 まだ見ぬ領域に踏み入れようと心臓をばくばくさせながら、全身を映す鏡の前に立った。

 はじめてナマで女の娘のおっぱいが見られる。やっべ、マジでテンションあがってきた。

 俺は胸を守っていた手を下げた。おっかなびっくりゆっくりと目を開く。鏡に映る蒼流の顔と目が合う。

「……綺麗だ」

 これが俺の今の身体なのか? と一瞬我を忘れそんな言葉をつぶやいていた。

 間接的とはいえ、あまりの興奮に鼻血を出して卒倒するかもしれないと思っていたが、そんなことはなかった。

 さっきまでのドキドキは自分でも驚くほど急激に静けさを取り戻した。陶磁のようになめらかな肌が湯気にしっとりとぬれて輝いている。

 ためしに胸をふにふにともみしだく。

 あれ? おかしい。全然、エロイ気持ちにならない。

 なぜだ?

 たとえば俺が、他の女子の裸を見たとする。きっと俺はむらむらとピンクの欲情を抑えきれないことだろう。見たいか見たくないかと問われれば、迷わず見たいという。

 しかし、やはり薬院蒼流の身体は今の自分の身体なわけで、どうにもそういう気分になれないのだ。生憎と自分の身体を見て興奮するような性癖は持ち合わせていない。

 俺は鏡のイスに座ると、シャワーの蛇口をひねり髪をぬらした。上質な絹のような髪が俯く俺の顔に垂れ下がってくる。

「……さらさらだな」

 近くにあったシャンプーを手にとり髪を洗った。すごくいい香りがする。がしがしといつもの調子で洗い、シャワーで洗い流す。身体をごしごしと洗って綺麗にする。

 俺は一人で入るには余裕たっぷりな浴槽に浸かった。

 なんだろうこの消失感。下半身にあった相棒がいなくなったことを思い知った。

 鼻をつまみ、呼吸を止めお湯の中にもぐった。

ぶくぶく。

 やがて限界が来てぷはぁっと顔をあげる。

 三回ほど潜水を繰り返したところで、頭がぽーっとしてきた。

 天井に向かって息を吐く。湯気がくるりと舞った。片手で顔を覆う。

「ふふっ……なんだよ。思っていたよりも普通じゃないか。がっかりだぜ」

 俺はざぶりと音を立てて、風呂からあがった。

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