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風来の日曜日4

「晩飯できたぞー」

 二階に向かって俺が呼ぶと程なくして警吾がリビングに下りてきた。

 警吾はくんくんと匂いを嗅いだ。

「どんな料理が出てくるのかと思っていたらカレーにしたのね。まさかレトルトを煮込んだだけじゃないわよね」

「んなわけねーだろ。カレーのルーは市販品だけど、野菜や肉はちゃんと買ってきて料理したもんだ」

 うちの日曜日の晩御飯といえば、夏場はカレーか焼肉の二択だった。

 曜日を忘れないように週一でカレーが出てくる海上自衛隊のようでもある。

 一人暮らしになってからもその習慣は変わらない。カレーを作りおきしておけば、次の日も食べられるところもポイント高い。カレーは熟成された二日目が美味い。こうなったらカレー万能説を唱えてもいいぐらい。

 食卓の上には、ほかほかと湯気を立てているカレーと、簡単な作りのサラダが載せられている。飲み物には牛乳を用意した。

 俺はイスを引き席に着いた。

「あー働きすぎて、腹がぺこぺこだ。さぁ食べようぜ」

「あまり期待してないけど、せっかくだから食べてあげるわ。えーっと……いただきます」

 自分の手料理を他人にごちそうすることなんてはじめてだ。俺はすこしどきどきしながら警吾の反応をうかがった。

 警吾はスプーンにカレーをすくって大きな口元に運ぶ。

 ぱくり。

「……」

 もぐもぐさせて飲み込むと警吾は俯き、両手の拳をテーブルに載せると無言になった。

 あ、あれ? おいしくなかった?

 俺は上目遣いで、おそるおそる訊いた。

「……で、食べた感想はどうだ?」

 というか、絵柄的にはじめて彼氏に料理を作った彼女みたいになってないかこれ。

 警吾は俺の質問には答えず、ぷるぷる身体を震わせた。次の瞬間、牛乳をぐびりと飲むと、怒涛の勢いでがつがつと一心不乱に食べ続け、あっという間に平らげてしまった。

「おかわり!」

「……お、おう。まだたくさん残っているから、自分の好きな分だけとってこいよ」

 勢いよく立ち上がると、警吾はキッチンに行ってご飯を山盛りついで来て、二皿目に突入した。

 これは明日の分のカレーは残らないな。俺は肩の荷がおりた気分になって自分のご飯に取り掛かる。うむ。やはり美味い。

 警吾は山盛りのカレーを食べ終えると、ごきゅごきゅと牛乳を飲み干してぷはーっと熱い吐息をもらした。

 俺は半ば呆れて訊いた。

「そんなに美味かったか?」

「まあ、食べられないことはないわね」

 あれだけがっついておいて素直じゃねえなあ。俺は思わず微笑を浮かべた。

「いてっ」

 おでこを指で小突かれてしまった。

「そのにやにや笑いがむかつく」

 ふいっとそっぽを向く顔は少し赤みがが差しているように見えた。

 照れ隠ししているのがバレバレだっつーの。

 一人暮らしをするようになってわかったことがある。自分で料理したものの方が、どんなものでもレトルトよりはおいしくなる。そして、ひとりで食べるよりも誰かと食べた方がよりおいしいことも。

 居たたまれなくなったのかと警吾はむぅと低く唸ると、「ごちそうさま!」と言って食器を片付け、キッチンへと持っていった。

 そして、リビングをでていこうとドアを開けてから、立ち止まった。

 大きな背中が言う。

「そうそう、今日からお風呂はあんた一人で入ってもいいことを許可してあげる。べ、別にご飯作ってくれたお礼とかじゃないから勘違いするんじゃないわよ!」

 そう言い残して警吾はリビングから出て行った。

 どうやら、今回の食事で少しは気を許してもらえたようだ。やはりゴリラなどの動物を懐柔するには餌付けするのが一番だな。うん。

 次の献立を考えつつ、食器の後片付けをする俺だった。

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