表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/91

地獄のお仕事

 俺は手をついたまま頭だけをあげた。

「俺を助けて死んだことを恨んで成仏できずに彷徨っているんじゃないの?」

 姉ちゃんは長いまつげをぱちくりとさせた。何を言っているのかわからないと表情が告げていた。遅れて思考が追いつくと、慌てて手を振った。

「ないない。そんなことないよー。だって音羽がけいちゃんのことを恨むはずないもん。むしろ――」

 むしろなんだというのだ? 前後の繋がりを考えてむしろと続けば……。

 訝しむ俺の様子を見て、姉はあからさまに動揺した。

「あっあー! 今のなしー。なしだからねっ! 音羽があの世にとどまっているのは――そう! お仕事なの」

「仕事? あの世で姉ちゃんがする仕事なんてあるの?」

 突拍子もない回答に聞き返してから、しまった、と思ったがもう遅い。

 よくぞ聞いてくれました、と姉は得意げな表情を浮かべた。

 俺は追及する機会を失ってしまった。

「音羽はねー、三途川でライフセイヴァーをやっているのだよ」

 左肩を前にして「見て見て~」と袖口を見せつけてくる。そこには黒い下地に血よりさらに紅い不気味な文字で『三途川監視員』と書かれた腕章が巻きついていた。俺は腕章と姉の顔とを交互に見つめた。

(いったいあの世で何をやってんだこの人はっ?)

 不思議な生物に遭遇したときのような俺の目が、どう勘違いしたのか、姉ちゃんには肉親を尊敬する眼差しに映ったらしい。

 彼女はえっへん、と胸を張った。たわわに実った双丘が弾む。

「らいふせーばーというと、あの海水浴場とかで溺れた人を助ける人たちのこと?」

 ちっちっちっ。

 彼女は片目をつぶりながら人差し指を顔の前に立てて横に振る。

「んっふー。ちがう、ちがうの。セーバーじゃなくてセイヴァーね。救助者じゃなくて魂の救済者なの」

「はぁ……」

 それから数分にわたってセイヴァーのなんたるかを力説する姉。話を聞いているうちに「単に『セイヴァー』という響きが気に入っているだけなんじゃ?」という思いが脳裏をかすめたが、俺は黙って頷いていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ