風来の日曜日
次の日。日曜日の朝。目が覚めて時計を確認すると、もう昼近くになっていた。
「……ふああ、もうこんな時間か。よく寝たのに疲れが取れた気しねえー」
ぼふすっ。俺はすぐに起き上がる気にもなれず、やわらかな枕に顔をうずめた。脳裏に、荷物を取りに行って帰ってからのやりとりが思い出される。
蒼流邸に着いてやっと一息つけると思ったのもつかの間、犬――次郎丸の散歩を命じられ、戻ると警吾はシャワーを浴びてさっぱりとした姿になっていた。じゃあ俺も、とシャワーを浴びるのにまたあの目隠し羞恥プレイときたもんだ。
だからなんでお前はひとりで風呂に入ってもいいのに、俺は監視付きなんだよ!
猛烈な俺の抗議も「それはいいから」の一言で首根っこをつかまれた猫のようにして風呂場に放り込まれて洗われる始末。
待てよ。考えようによっては、召使の男に身体を洗わせる異国のお嬢様に思え……るわけねーだろ! 普通そこは湯浴み専属の侍女が登場するところだろ! 逆ハーレム趣味のあるお嬢様とか、性格がゆがんでそうで嫌すぎる……。
流れ落とされる汗といっしょに、人として大事な部分までもが欠落していきそうで、早急にこの拷問をやめさせたい。
精神的にも肉体的にも、どっと疲れて「夕飯は?」と聞くと、コンビニ弁当かカップ麺かどちらかを選べといわれた。
コンビニに行く気力などあるはずもなく、かといって味気ないカップ麺を食う気力もなく、
「……もう寝るわ」
「そう、ならおやすみ」
そのまま寝室に行って――それからのことは覚えていないから、疲れてベッドにダイブしてそのまま寝てしまったのだろう。
昨日からほとんど何も口にしていないからそりゃあ腹も減る。俺が旅の風来人だったら空腹で倒れて村に運ばれている。鍛え上げた刀を失ったときは絶望したな……。
そんな益体もないことを思いつつ、俺は一階のリビングに降りた。
そこには警吾がいた。警吾は俺よりも早く起きていたようで、俺が実家で見繕ってきた普段着に着替えて、カップ麺をすすっていた。
「……うっす。はよー」
「あら、随分とおねぼうさんね。そのまま一生寝てればよかったのに」
……草葉の陰から呪ってやろうかこいつ。
何も食べないよりはマシと思い、戸棚にある大量のカップ麺からひとつを選ぶと、無言でそれを食べた。割り箸を置き、身体をぴくぴく震わせた。
だんっ! 俺は両手でテーブルを叩くと、目をひん剥き、立ち上がった。
「もう耐えられねえ! 出てくる飯はカップ麺ばかり! そして、朝から晩まで監視付きときた。おまえの犬の方がよっぽどいい暮らししているじゃねえか。俺、もう実家に帰らせてもらいます!」
「却下」
冷酷に警吾は告げ、麦茶を飲んだ。
 




