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俺の部屋にリトさんはいない

 あわあわと四つん這いになりながらベッドから降りる。警吾の横をするりとすりぬけ、机の前のイスに腰かけた。

「あ……ああ、そうだ。麦茶もってきたんだった。お前ものど渇いているだろ?」

 俺は冷えて水滴のついたコップを警吾に差し出した。警吾は敵意のこもった瞳で俺を睨みつけている。しかし、キンキンに冷えた麦茶を見て身体が反応したのか、ごくりとのどを鳴らした。

 警吾はふっと息を吐いた。あたりをきょろきょろと見回し言葉を続ける。

「で、あたしはどこに座ればいいのかしら?」

「ベッドにでも腰かければいいだろ」

 元の身体の俺一人でも狭く感じる部屋だ。中央にテーブルを置くスペースなんてもちろんない。たまにライカが遊びに来て一緒にゲームをやるときがあるが、そのときはいつもベッドに腰かけている。

 警吾は冷淡な視線を俺に向けた。

「あんたがいつも寝ているベッドに腰かけろですって? 不潔すぎるわ。冗談はこの顔だけにしてくれない?」

 この顔ってお前……。それって自虐じゃないのか? 客観的に他人の視線で見る警吾の顔は、人間の祖先が類人猿であることを確かに思わせるけれどさ。なんだか哀れみをおぼえてきた。元の俺自身に。

「じゃあ、お前がこのイスに座れよ。代わりに俺がベッドに座るからさ」

 警吾は重大な問題だと言わんばかりに、腕を組み考え込む仕草をする。そんなに俺のこと嫌いなのこいつ? 生死がかかっているように悩むことでもないだろ?

 やがて結論が出たのか、しぶしぶといったていで警吾はうなずいた。

「仕方ない。わかったわ。じゃあ場所を代わりましょ」

 俺はひくひくと痙攣しそうになる口角を押さえつけて、コップをお盆に戻して、イスからたちあがった。

 身体を半身にしてお互いの位置を入れ替えようとしたときだった。

「「うあっ!」」

 お互いの足がもつれて絡みあい、ぼふっと音がしてベッドに倒れこんだ。

 仰向けに倒れこんだ俺の鼻先に驚いた表情を浮かべる警吾の顔がある。

 金縛りにあったかのように身動きがとれず、見つめ合う俺たちふたり。

何なの? この雰囲気に流されてキスでもしそうなシチュエーション。胸の鼓動が高まり苦しい。いやマジで。というか重いっ。

「……ごふっ。えっと、そのなんだ。俺の上にある、お前の右手どけてくれない? 苦しくて動けないんだけど」

 警吾は俺に指摘されて、ようやく自分の左腕が俺の胸を押さえつけていることに気づく。なんてことはない。物理的に胸を圧迫されているだけだった。

 警吾はみているこちらが恥ずかしくなるぐらいに顔を真っ赤にする。上体をがばっと起こすと素早く手を離した。

「あー! もうっ、また胸を触らせた! 最低ッ! もう死んじゃえ!」

「……」

 自分が触られたわけでもないのに胸を隠すような仕草をする。

 おえっ。きもい。

 何が悲しくて胸を弄られたうえに、男子高生のおぞましい姿を見せ付けられなければならないのだ。ラッキースケベって頭の悪そうなラノベだけの話だと思っていたのに、まさか我が身に逆の形で降りかかってこようとは……。もう泣いてもいいかな俺。

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