正しいアレの使い方
最高に最悪。
なんなのこの暴力女。いや、今は男だけど。
「お前さぁ、人の家なんだからもうちょっと行儀よくしたらどうなんだ」
「うっさい。あんたが無用心に女の娘の胸に男の手を触れさせたのがわるい」
「はぁ!? だったら、男がか弱い女子に暴力振るうのは問題ないのかよ」
「……うっ、それはそれ、これはこれよ。何度も言うけどあんたの身体は今、あたしの、薬院蒼流って女の娘の身体なの!」
この世は理不尽に満ちている。
魂が入れ替わったというのは同じ立場なのに、どうして俺だけこんな不当な扱いを受けなければならないのか。
せっかくだから美少女ライフを満喫しようと思っていたのに、余計なオプションがついてきたせいで台無しだ。
「んなこといわれても、こんなあってもないような胸を触って喜ぶ男子なんていねーだろ……。ほらこんな感じにさ」
俺は自分のおっぱいをふにふにと揉みしだいてみせた。柔らかい感触と固い感触に手のひらが包まれる。おっ、でもこれは意外と――
ずどどどどんっ!
突然に雷でも落ちたかのような轟音に俺は驚いて、目を閉じベッドの上でびくりと小さく縮こまった。
音が静まり、ゆっくりと目を見開く。天井からぱらぱらとほこりが舞い落ちてきた。視線だけを左にうつすと、ぶっとい腕が俺の頬をちりりとかすめて後ろの壁に張り手で突き刺さっている。
おいおいおい。直撃していたら頭潰れていますよ、これはっ。
正面に目をやると――。
ひぃっ! どこかの惑星から飛び出してきたかのような大迫力のゴリラ顔と目があった。
え? もしかしてこれって流行りの壁ドンってやつなのかな? 俺、言い寄られている? ただし、脅迫的な状況で。
警吾は額が触れ合わんばかりまで距離をつめ、口元から見えそうなぐらいに深く重い息を吐いた。
「今度、あたしの身体に気安く触ったらマジ殺す。絶対殺す。地獄まで追い詰めてでも殺してやる」
こくこくこくこく。俺は目を限界まで見開き、がたがたと身を震わせて恭順の意を示した。
こえー。人の目に本気の殺意が宿るのをはじめて目にした。




